妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第90話「悲しみの先に咲く笑顔」

 

 X782年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 妖精の尻尾。

 

「それでは、行ってきますね!」

 

「行ってきまーす!」

 

 ギルドの入り口で、二人の少女が元気よく手を振っていた。

 

 黒髪のハーフツインテールを揺らすイリス・アストレア。

 

 そして、金色の長い髪をなびかせるメイビス・ヴァーミリオン。

 

 二人は今日から、久しぶりの長期旅行へ出発するところだった。

 

「まったく。今度はどこへ行くつもりじゃ?」

 

 マカロフが呆れたように尋ねる。

 

「ふふっ! 今回は海辺のリゾートです!」

 

 メイビスが嬉しそうに答えた。

 

「それから温泉にも行きたいですね!」

 

「メイビス、予定を詰め込みすぎですよ」

 

「大丈夫です! 時間はたっぷりありますから!」

 

 イリスは苦笑する。

 

 かつて二人は、古代魔法の研究や異世界への手掛かりを求めて、世界各地を旅してきた。

 

 けれど、今回は違う。

 

 難しい研究も、危険な冒険もない。

 

 ただ二人で、美しい景色を眺め、美味しいものを食べ、のんびり過ごす。

 

 そんな休暇だった。

 

「いいなー! 俺も行きてえ!」

 

 ナツが羨ましそうに叫ぶ。

 

「ナツは依頼があるだろう」

 

 エルザが呆れたように答えた。

 

「ちぇっ!」

 

「イリスさん、メイビスさん。楽しんできてくださいね!」

 

 リサーナが笑顔で手を振る。

 

「はい! リサーナさんも元気で!」

 

「お土産、楽しみにしていてくださいね!」

 

「うん!」

 

 その隣では、ミラジェーンが腕を組んでいた。

 

「メイビスさん。あんまりイリスさんを振り回しちゃ駄目よ?」

 

「ええっ!? 私、そんなことしませんよ!」

 

「……本当かしら?」

 

「ミラちゃんまで!」

 

 周囲から笑い声が上がった。

 

 イリスも楽しそうに微笑む。

 

「ふふっ。それでは、行ってきます」

 

 二人は並んで歩き出した。

 

 やがて、街外れでメイビスが空間魔法を発動する。

 

 光が揺らめき、二人の姿が消えた。

 

 このとき。

 

 二人はまだ知らなかった。

 

 帰ってきたとき、大切な家族の一人がいなくなっていることを。

 

◇

 

 数週間後。

 

 フィオーレ王国のとある町。

 

 郊外の森。

 

「エルフ兄ちゃん、無理しないでね!」

 

 リサーナが声をかけた。

 

「おう! 任せとけ!」

 

 エルフマンが力強く頷く。

 

 今回の依頼は、森に現れた危険な魔物の討伐。

 

 ミラジェーン、エルフマン、リサーナの三人で受けた仕事だった。

 

「さっさと終わらせるわよ!」

 

 ミラジェーンが不敵に笑う。

 

「姉ちゃん、俺だってやれるところを見せてやる!」

 

「ふふっ。期待してるわよ!」

 

 そのとき。

 

 森の奥から、巨大な魔物が現れた。

 

 獣のような四肢。

 

 鋭い牙。

 

 禍々しい魔力。

 

「……こいつか!」

 

 エルフマンが拳を握る。

 

 そして。

 

「接収!」

 

 魔力が身体を包んだ。

 

 魔物の力を取り込もうとする。

 

 しかし。

 

「……っ!?」

 

 異変が起きた。

 

 エルフマンの身体から、凄まじい魔力が噴き出したのだ。

 

「エルフマン!?」

 

 ミラジェーンが叫ぶ。

 

「ぐ……あああああっ!!」

 

 身体が巨大化していく。

 

 腕が異形へと変わり、全身が魔物の姿へと変貌した。

 

「エルフ兄ちゃん!?」

 

 リサーナが悲鳴を上げる。

 

 エルフマンの瞳から、理性の光が消えていた。

 

「グオオオオオッ!!」

 

 咆哮。

 

 巨大な腕が振り回される。

 

「エルフマン! しっかりしなさい!!」

 

 ミラジェーンが叫ぶ。

 

 だが、声は届かない。

 

 暴走したエルフマンは、目の前のものを見境なく破壊し始めた。

 

「くっ……!」

 

 ミラジェーンが接収魔法を発動しようとする。

 

 しかし、その前に。

 

「エルフ兄ちゃん!!」

 

 リサーナが駆け出していた。

 

「やめて! 私だよ!」

 

 巨大な魔物が振り返る。

 

「リサーナ! 近づいちゃ駄目!!」

 

 ミラジェーンの叫び。

 

 次の瞬間。

 

 巨大な腕が振り下ろされた。

 

「――っ!!」

 

 激しい衝撃。

 

 土煙が舞い上がった。

 

「リサーナァァァッ!!」

 

 ミラジェーンの絶叫が森に響いた。

 

 やがて、土煙が晴れる。

 

 そこに。

 

 リサーナの姿はなかった。

 

 残されていたのは、荒れ果てた地面だけ。

 

「……え?」

 

 ミラジェーンが呆然と呟く。

 

「……リサーナ?」

 

 返事はない。

 

「……嘘、でしょ?」

 

 震える声。

 

「リサーナ……?」

 

 どれほど名前を呼んでも。

 

 妹の声が返ってくることはなかった。

 

◇

 

 数日後。

 

 妖精の尻尾。

 

 いつもなら賑やかなギルドが、静まり返っていた。

 

 ミラジェーンは、窓際の椅子に座っていた。

 

 俯いたまま、何も話さない。

 

 エルフマンも、壁際で膝を抱えている。

 

 仲間たちは何度も森を捜索した。

 

 けれど。

 

 リサーナは見つからなかった。

 

 その日。

 

「ただいま戻りました!」

 

「みなさーん! お土産ですよー!」

 

 明るい声とともに、イリスとメイビスが帰ってきた。

 

 しかし。

 

「……あれ?」

 

 メイビスが首を傾げる。

 

「皆さん、どうしたんですか?」

 

 イリスも周囲を見回した。

 

 普段なら真っ先に駆け寄ってくる子供たち。

 

 騒がしいナツとグレイ。

 

 笑顔で迎えてくれる仲間たち。

 

 その誰もが、沈んだ表情をしていた。

 

「……マカロフさん?」

 

 イリスが静かに尋ねる。

 

 マカロフは、深く息を吐いた。

 

「……リサーナが、死んだと思われておる」

 

「…………え?」

 

 メイビスの笑顔が消えた。

 

◇

 

 事情を聞き終えた二人は、しばらく言葉を失っていた。

 

「……そう、だったんですね」

 

 イリスが小さく呟く。

 

 メイビスは俯いていた。

 

 出発する日のことを思い出す。

 

 笑顔で手を振っていたリサーナ。

 

 お土産を楽しみにしていた、あの少女。

 

「……リサーナちゃん……」

 

 その声は、微かに震えていた。

 

 やがて、メイビスが顔を上げる。

 

「……マカロフ」

 

「なんじゃ?」

 

「リサーナちゃんの身体は、見つかったんですか?」

 

「……いや」

 

 マカロフが首を横に振る。

 

「何度も探した。じゃが、見つからんかった」

 

「…………」

 

 イリスが静かに尋ねた。

 

「魔力の痕跡は?」

 

「調べたが、手掛かりになるものはなかった」

 

 二人は顔を見合わせる。

 

 遺体が見つかっていない。

 

 それだけで、生存を断定することはできない。

 

 しかし。

 

 死亡したと確信できる証拠も、存在していなかった。

 

「……そうですか」

 

 メイビスは、それ以上何も言わなかった。

 

 今、根拠のない希望を口にするべきではない。

 

 そう理解していたからだ。

 

◇

 

 夕暮れ。

 

 ギルドの一室。

 

 ミラジェーンは、一人で椅子に座っていた。

 

「……ミラちゃん」

 

 静かな声が聞こえた。

 

 顔を上げると、メイビスが立っていた。

 

「……メイビスさん」

 

「隣、いいですか?」

 

「……ええ」

 

 メイビスは隣に腰を下ろした。

 

 しばらく、二人とも何も話さなかった。

 

 やがて。

 

「……あたしね」

 

 ミラジェーンが口を開いた。

 

「守れなかったの」

 

「…………」

 

「お姉ちゃんなのに……S級魔導士なのに……」

 

 声が震える。

 

「リサーナを……守れなかった……!」

 

 メイビスは何も言わず、ミラジェーンの手を握った。

 

「……あたし、もっと強かったら……!」

 

 涙が頬を伝う。

 

「もっと早く、止められていたら……!」

 

「……ミラちゃん」

 

 メイビスが優しく名前を呼ぶ。

 

「今は、泣いてもいいんですよ」

 

「……っ!」

 

「無理に強くならなくてもいいんです」

 

 その言葉に。

 

 ミラジェーンの表情が崩れた。

 

「……う、ううっ……!」

 

 メイビスの肩に顔を埋める。

 

「リサーナ……っ!」

 

 メイビスは、ただ静かに抱きしめた。

 

 かつて、自分も大切な人を失った。

 

 あの痛みを、忘れたことはない。

 

 だからこそ。

 

 今は、何も言わずにそばにいた。

 

◇

 

 一方。

 

 ギルドの裏庭。

 

 エルフマンは、一人で地面を見つめていた。

 

「……俺が」

 

 低い声。

 

「俺が……リサーナを……」

 

「エルフマンさん」

 

 柔らかな声が聞こえた。

 

 イリスだった。

 

「……イリスさん」

 

 エルフマンは顔を上げない。

 

「……俺が、殺しちまったんだ」

 

「…………」

 

「俺が、あんな魔法を使わなければ……!」

 

 拳が震える。

 

「俺が……!」

 

 イリスは、隣に腰を下ろした。

 

「……エルフマンさん」

 

「……はい」

 

「私は、あの場にいませんでした」

 

 静かな声。

 

「だから、何が正しかったのか、簡単に答えることはできません」

 

「…………」

 

「でも、一つだけ言わせてください」

 

 イリスは、エルフマンを見つめた。

 

「あなたは、私たちの大切な家族です」

 

「……っ!」

 

「それは、何があっても変わりません」

 

 エルフマンの目から、涙がこぼれた。

 

「……俺……!」

 

「はい」

 

「……リサーナに……謝りたい……!」

 

「……そうですね」

 

 イリスは静かに頷く。

 

 そして、彼の背中を優しく撫でた。

 

 夕暮れの裏庭に、押し殺していた泣き声が響いた。

 

◇

 

 その夜。

 

 ギルドの屋根の上。

 

 イリスとメイビスは、並んで星空を眺めていた。

 

「……イリス」

 

「はい」

 

「どう思いますか?」

 

 何について尋ねているのか、説明する必要はなかった。

 

「……わかりません」

 

 イリスは静かに答える。

 

「ただ、遺体が見つかっていないというのは、気になります」

 

「……私もです」

 

 メイビスが頷く。

 

「でも、今は何もわかりませんね」

 

「はい」

 

 夜風が二人の髪を揺らした。

 

「……いつか、何かわかる日が来るのでしょうか」

 

「……そうだといいですね」

 

 イリスは、そっとメイビスの手を握った。

 

 二人は、それ以上何も言わなかった。

 

◇

 

 X783年。

 

 季節は巡った。

 

 妖精の尻尾にも、少しずつ日常が戻ってきていた。

 

「ナツ!! またグレイと喧嘩してるの!?」

 

「こいつが先にやったんだよ!」

 

「てめえだろうが!」

 

「二人とも、いい加減にしなさい!」

 

 エルザの怒声が響く。

 

「「すみませんでした!!」」

 

 いつもの光景だった。

 

 そして、カウンターの向こうでは。

 

「ふふっ。今日も元気ね、みんな」

 

 ミラジェーンが穏やかに微笑んでいた。

 

 かつての勝ち気で好戦的な少女とは、ずいぶん雰囲気が変わっていた。

 

 もちろん、悲しみが消えたわけではない。

 

 リサーナのことを忘れた日など、一日もなかった。

 

 それでも。

 

 仲間たちと過ごす時間の中で、少しずつ笑えるようになっていた。

 

「ミラちゃん!」

 

 メイビスがカウンターへ駆け寄る。

 

「今日のケーキは何ですか!?」

 

「ふふっ。苺のショートケーキよ」

 

「やったー!」

 

 ミラジェーンが笑う。

 

「メイビスさん、本当に甘いものが好きね」

 

「はい!」

 

 その様子を、イリスが嬉しそうに眺めていた。

 

◇

 

 それから、しばらく後。

 

 フィオーレ王国南部。

 

 青く澄んだ海が広がる、美しいリゾート地。

 

「イリス! 見てください!」

 

 メイビスが砂浜を駆けていた。

 

「海がとっても綺麗です!」

 

「ふふっ。そうですね!」

 

 イリスも笑顔で答える。

 

 二人は再び、リゾート巡りの旅を楽しんでいた。

 

 海辺を散歩し、名物料理を味わい、可愛らしい雑貨を眺める。

 

 何気ない時間。

 

 けれど、二人にとっては何より大切な時間だった。

 

 そんなある日のこと。

 

「……あの!」

 

 突然、見知らぬ男性に声をかけられた。

 

「はい?」

 

 イリスが振り返る。

 

 男性は、彼女の顔を見た瞬間、息を呑んだ。

 

「……やっぱり!」

 

「……?」

 

「失礼ですが、あなたは魔導士の方ですか!?」

 

「はい。そうですが……」

 

「私は週刊ソーサラーの編集部の者です!」

 

「……週刊ソーサラー?」

 

 メイビスが目を輝かせた。

 

「魔導士の雑誌ですよね!」

 

「はい!」

 

 男性は興奮した様子で続ける。

 

「実は今度、魔導士の方をモデルにした特集を企画していまして……!」

 

 そして、イリスを見つめる。

 

「ぜひ! あなたにモデルをお願いしたいんです!」

 

「…………え?」

 

 イリスが固まった。

 

◇

 

「グラビア撮影、ですか?」

 

「はい!」

 

 編集者は力強く頷いた。

 

「その黒髪! 青と金の瞳! そして何より、その美しさ!」

 

「……あ、ありがとうございます」

 

「これほど魅力的な方は、なかなかいません!」

 

 イリスは少し頬を赤らめた。

 

「ですが、私、そういう経験は……」

 

「イリス!!」

 

 突然、メイビスが両手を握ってきた。

 

「やりましょう!!」

 

「メ、メイビス!?」

 

「絶対に似合います!」

 

「で、ですが……!」

 

「私も衣装選びを手伝いますから!」

 

 目を輝かせるメイビス。

 

 イリスは困ったように微笑んだ。

 

「……本当に、私でいいのでしょうか?」

 

「もちろんです!!」

 

 編集者とメイビスの声が重なった。

 

「……ふふっ」

 

 イリスは思わず笑ってしまった。

 

「それでは……よろしくお願いします」

 

「ありがとうございます!!」

 

 こうして。

 

 後に週刊ソーサラーの歴史を変えることになる撮影が、決まったのだった。

 

◇

 

 撮影当日。

 

 青い海を背景に、イリスが立っていた。

 

 白と濃紺を基調とした、上品で可愛らしい水着。

 

 金色の小さな星飾りが、陽光を受けて輝いている。

 

 黒髪のハーフツインテールが、潮風に揺れた。

 

 青と金のオッドアイが、澄んだ海の光を映している。

 

「……す、すごい……!」

 

 カメラマンが呟いた。

 

「本当に……絵になる……!」

 

 編集者も言葉を失っていた。

 

「イリスー!!」

 

 少し離れた場所から、メイビスが手を振る。

 

「とっても可愛いですよー!!」

 

「メイビス! そんなに大きな声で言わないでください!」

 

「だって、本当のことですから!」

 

「もう……!」

 

 イリスが照れたように笑う。

 

 その瞬間。

 

「……今だ!」

 

 カメラマンがシャッターを切った。

 

 自然な笑顔。

 

 海風に揺れる黒髪。

 

 陽光に輝く二色の瞳。

 

 それは、狙って作れるものではない、あまりにも魅力的な一枚だった。

 

「……決まった」

 

 編集者が呟く。

 

「今回の表紙は……これだ!」

 

◇

 

 数週間後。

 

 週刊ソーサラー編集部。

 

「編集長ぉぉぉ!!」

 

「なんだ!? 騒がしいぞ!」

 

「売り切れです!!」

 

「……何?」

 

「今週号が! 各地で完売しています!!」

 

「…………は?」

 

 編集長が目を瞬かせた。

 

「まだ発売したばかりだろう!?」

 

「そうなんです!!」

 

 別の編集者が駆け込んでくる。

 

「増刷の問い合わせが殺到しています!」

 

「読者からの手紙も山のように!」

 

「書店から追加注文が止まりません!!」

 

 編集長は、机の上に置かれた雑誌を見つめた。

 

 表紙には、海辺で微笑む黒髪の美少女。

 

 大きな見出し。

 

『妖精の尻尾の奇跡の美少女! イリス・アストレア特集!』

 

「……まさか」

 

 編集長が呟く。

 

「こんなことになるとは……!」

 

 週刊ソーサラー創刊以来、初めての爆発的な大ヒット。

 

 増刷しても、増刷しても、注文が追いつかない。

 

 読者たちは、その神秘的な美少女に夢中になっていた。

 

 こうして。

 

 イリス・アストレアは、魔導士としての実力ではなく、その圧倒的な美貌によって、フィオーレ中に名を知られることになった。

 

◇

 

 数日後。

 

 妖精の尻尾。

 

「おおおおおっ!!」

 

 ナツの声が響き渡った。

 

「イリスねえちゃんが雑誌に載ってるぞ!!」

 

「今さらかよ!」

 

 グレイが呆れる。

 

「街中で売り切れになってるらしいぜ!」

 

「そんなに!?」

 

 エルフマンも驚いていた。

 

 エルザは雑誌の表紙を見つめる。

 

「……さすがイリスさんだ」

 

 真剣な顔で頷いた。

 

「とても美しい」

 

「ふふっ。本当ね」

 

 ミラジェーンも笑う。

 

「でも、ここまで売れるなんて驚いたわ」

 

 そのとき。

 

「ふふーん!!」

 

 メイビスが得意げに胸を張った。

 

 目の前には、何冊もの週刊ソーサラーが積み上げられている。

 

「当然です!!」

 

「……メイビス?」

 

 イリスが嫌な予感を覚えた。

 

 しかし、もう遅い。

 

「私のイリスですから!!」

 

「メイビス!!」

 

 ギルド中に笑い声が響き渡った。

 

「いやー、すげえな!」

 

 ナツが雑誌を眺める。

 

「イリスねえちゃん、こんなに有名になっちまったのか!」

 

「……私も驚いています」

 

 イリスは困ったように笑う。

 

「まさか、こんなことになるなんて……」

 

「ふふっ!」

 

 メイビスは嬉しそうだった。

 

「次は写真集ですね!」

 

「ま、待ってください!」

 

「きっと大人気ですよ!」

 

「メイビスー!!」

 

 再び、笑い声が上がる。

 

 カウンターの向こうで、ミラジェーンも楽しそうに微笑んでいた。

 

 あの日から、すべてが元どおりになったわけではない。

 

 けれど。

 

 こうして笑い合える時間が、確かに戻ってきていた。

 

◇

 

 X784年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 妖精の尻尾。

 

「ナツ! 今度は何の依頼に行くんだ?」

 

 グレイが尋ねた。

 

「依頼じゃねえ!」

 

 ナツが勢いよく答える。

 

「ハルジオンに火竜がいるって噂を聞いたんだ!」

 

「火竜?」

 

「ああ!」

 

 ナツの瞳が輝く。

 

「もしかしたら、イグニールかもしれねえ!」

 

「そう簡単に見つかるとは思えんが……」

 

 エルザが腕を組む。

 

「うるせえ! 行ってみなきゃわかんねえだろ!」

 

「そうだね、ナツ!」

 

 ハッピーが元気よく答えた。

 

「よーし! 行くぞ、ハッピー!」

 

「あいさー!」

 

 二人は勢いよくギルドを飛び出した。

 

「まったく、騒がしい奴らだ」

 

 グレイが呆れる。

 

 カウンターでは、ミラジェーンが微笑んでいた。

 

「ふふっ。いつものことじゃない」

 

「……そうだな」

 

 エルザも小さく笑った。

 

 一方、その頃。

 

 遠く離れた美しい海辺のリゾート地。

 

「イリス! 次はあのお店に行きましょう!」

 

「ふふっ。メイビス、少し休憩しませんか?」

 

「ええーっ! まだまだ元気ですよ!」

 

「私は少しお茶が飲みたいです」

 

「……それなら、ケーキも食べましょう!」

 

「結局、お菓子が目的ではありませんか?」

 

「ふふっ! ばれちゃいました!」

 

 二人の楽しそうな笑い声が、潮風に乗って響いていた。

 

 長い年月を共に歩んできた二人。

 

 数え切れないほどの出会いと別れ。

 

 喜びも、悲しみも。

 

 すべてを抱えながら、それでも二人は笑っていた。

 

 そして。

 

 彼女たちがまだ知らないところで。

 

 一人の金髪の少女が、妖精の尻尾に憧れ、ハルジオンの街を訪れようとしていた。

 

 その名は――ルーシィ・ハートフィリア。

 

 新しい妖精の物語が、今、始まろうとしていた。

 




【こそこそ妖精話】
~次の伝説は誰?~

 X783年。

 妖精の尻尾。

メイビス「イリス! 大変です!!」

イリス「どうしたんですか、メイビス?」

メイビス「週刊ソーサラーから第二弾の撮影依頼が来ました!」

イリス「……またですか?」

メイビス「しかも、今度は特別写真集も作りたいそうですよ!」

イリス「しゃ、写真集!?」

メイビス「ふふっ! もちろん私は大賛成です!」

イリス「……そうだ!」

メイビス「?」

イリス「私より、もっと撮影に向いている方がいますよ!」

メイビス「ええっ!? 誰ですか!?」

イリス「ミラジェーンさんです!」

ミラジェーン「……え?」

 カウンターにいたミラジェーンが、きょとんとした顔をする。

イリス「ミラジェーンさんはとても綺麗ですし、笑顔も素敵ですから!」

ミラジェーン「あら……ふふっ。ありがとう、イリスさん」

イリス「それに、たまには普段と違うことをしてみるのも楽しいと思うんです」

 イリスが優しく微笑む。

 その言葉に、ミラジェーンは少しだけ目を丸くした。

ミラジェーン「……そうね。たまには、そういうのもいいかもしれないわね」

メイビス「なるほど! ミラちゃんのグラビアですか!」

イリス「はい!」

メイビス「……絶対に可愛いです!!」

ミラジェーン「ふふっ。二人とも褒めすぎよ♪」

 ◇

 数日後。

 週刊ソーサラー編集部。

編集者「編集長! イリスさんからお返事が届きました!」

編集長「おおっ! 第二弾を引き受けてくれるのか!?」

編集者「いえ、今回は辞退されるそうです!」

編集長「な、なんだとぉぉぉ!?」

編集者「ですが、代わりに同じギルドのミラジェーン・ストラウスさんを推薦されています!」

編集長「……ミラジェーン?」

編集者「こちらが写真です!」

編集長「…………」

編集者「編集長?」

編集長「……採用だ」

編集者「早っ!?」

編集長「すぐに撮影依頼を出せ!!」

 ◇

 後日。

ミラジェーン「イリスさーん♪」

イリス「はい?」

ミラジェーン「週刊ソーサラーから正式に撮影依頼が来たわ!」

イリス「ふふっ! よかったですね!」

ミラジェーン「ええ! せっかくだから挑戦してみることにしたの!」

メイビス「わあっ! 楽しみです!」

ミラジェーン「……それにね」

 ミラジェーンが、柔らかく微笑む。

ミラジェーン「新しいことに挑戦するのも、悪くないと思ったの。ありがとう、イリスさん」

イリス「……ふふっ。どういたしまして」

メイビス「私、絶対に買いますね!」

ミラジェーン「あら、嬉しい♪」

メイビス「もちろん、保存用も買います!」

イリス「……また何十冊も買うつもりですか?」

メイビス「当然です!」

ミラジェーン「ふふっ。でもね、イリスさん?」

イリス「はい?」

ミラジェーン「編集部の人が、いつか私たち二人で撮影してほしいって♪」

イリス「…………え?」

メイビス「それです!!」

イリス「メイビス!?」

メイビス「イリスとミラちゃんの夢の共演です!!」

ミラジェーン「ふふっ。面白そうね♪」

イリス「ちょ、ちょっと待ってください!」

メイビス「次は二人で水着ですね!」

イリス「話が進むのが早すぎます!!」

 こうして。

 イリスの推薦をきっかけに、ミラジェーンは新たな一歩を踏み出した。

 そして、後に週刊ソーサラーの人気モデルとなる少女の物語が、静かに始まったのだった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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ダンまち世界に闇の福音に転生して人類を導くのは間違っているだろうか(作者:魔法少女(偽))(原作:ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか)

令和を生きたアニメやマンガが好きで多少の武道の心得がある社会人がトラ転して前世の武術やアニメの技術を教えたりして色々やらかしたり助けたりして超有名人になっていく▼※他作品のキャラや武器が登場したりします


総合評価:1383/評価:6.94/連載:14話/更新日時:2026年07月16日(木) 09:45 小説情報

個性”黄金裔”が紡ぐ叙事詩(作者:白豆男爵)(原作:僕のヒーローアカデミア)

ある英雄譚を夢に見た少女が、ヒーローを目指して物語を紡いでいくの♪▼どう?とてもロマンチックだと思わない?▼※ヒロアカと崩壊スターレイルのクロスオーバーです。主人公はキュレネに似てるだけの別人です。▼※スタレのオンパロス編のネタバレが含まれます。▼8/27追記:タグ編集しました。


総合評価:1753/評価:8.95/連載:15話/更新日時:2026年10月30日(金) 17:00 小説情報


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