妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第91話「ようこそ、妖精の尻尾へ!」

 

 X784年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 魔導士ギルド、妖精の尻尾。

 

「ただいま戻りました!」

 

「ただいまですー!」

 

 ギルドの扉が開き、二人の少女が姿を現した。

 

 黒髪のハーフツインテールを揺らす、青と金のオッドアイの美少女。

 

 イリス・アストレア。

 

 そして、長い金髪をなびかせる、緑色の瞳の少女。

 

 メイビス・ヴァーミリオン。

 

 二人は長いリゾート旅行を終え、久しぶりにギルドへ帰ってきたところだった。

 

「おっ! イリスねえちゃん!」

 

「メイビスも帰ってきたのか!」

 

 ナツとグレイが真っ先に声を上げる。

 

「おかえりなさい、二人とも!」

 

 カウンターの向こうから、ミラジェーンが笑顔で迎えた。

 

「ふふっ。ただいま、ミラちゃん」

 

「お土産もたくさん買ってきましたよ!」

 

 メイビスが嬉しそうに紙袋を掲げる。

 

「おおっ! 食い物か!?」

 

「ナツさん、食べ物だけではありませんよ?」

 

「えーっ!」

 

「でも、お菓子はあります!」

 

「よっしゃあ!」

 

 相変わらずの騒がしさに、イリスは楽しそうに微笑んだ。

 

 やっぱり、ここは落ち着く。

 

 そんなことを考えていた、そのときだった。

 

「……あれ?」

 

 見慣れない金髪の少女が、こちらを見つめていた。

 

 腰には鍵束。

 

 まだ新しいギルドマーク。

 

 どうやら、二人の留守中に新しい仲間が増えたらしい。

 

「ミラちゃん、そちらの方は?」

 

「あら、そうだったわね!」

 

 ミラジェーンが嬉しそうに手を合わせる。

 

「紹介するわ。昨日入ったばかりの新しい仲間、ルーシィよ!」

 

「ルーシィ・ハートフィリアです! よろしくお願いします!」

 

 少女が元気よく頭を下げた。

 

「ふふっ。私はイリス・アストレアです。よろしくお願いしますね、ルーシィさん」

 

「私はメイビスです! よろしくお願いします!」

 

「はい! よろしく……」

 

 そこで。

 

 ルーシィの動きが止まった。

 

「…………え?」

 

 彼女の視線が、イリスの顔に釘付けになる。

 

「……あれ?」

 

「どうかしましたか?」

 

「……その黒髪……」

 

「はい?」

 

「青と金の瞳……」

 

「……?」

 

 ルーシィの目が、みるみる大きくなっていく。

 

「ま、まさか……!」

 

 そして。

 

「えええええええっ!?」

 

 ギルド中に絶叫が響き渡った。

 

「イリス・アストレアって、あの週刊ソーサラーのイリス・アストレア!?」

 

「……はい?」

 

「創刊以来初の大ヒットを記録した、伝説のグラビアの!?」

 

「あ、ああ……」

 

 イリスは少し困ったように笑った。

 

「そちらのことでしたか……」

 

「そちらのことでしたか、じゃないですよ!!」

 

 ルーシィが勢いよく詰め寄る。

 

「あの特集、すっごく話題になったんですよ!? どこの本屋に行っても売り切れで!」

 

「そ、そうだったんですね……」

 

「しかも、実物の方が綺麗ってどういうこと!?」

 

「ええっ!?」

 

 イリスが思わず頬を赤らめる。

 

 すると。

 

「ふふーん!」

 

 隣でメイビスが得意げに胸を張った。

 

「当然です!」

 

「……?」

 

「私のイリスですから!!」

 

「メイビス!?」

 

 ルーシィは二人を交互に見つめた。

 

「……あれ? もしかして、姉妹なんですか?」

 

「え?」

 

 イリスが瞬きをする。

 

「こっちの子が妹さん?」

 

「妹じゃありません!!」

 

 メイビスが即座に反論した。

 

「私の方がお姉さんです!」

 

「…………え?」

 

 ルーシィが固まる。

 

 イリスは口元に手を当てた。

 

「ふふっ。メイビス、それは少し無理がありませんか?」

 

「イリスまで!?」

 

 周囲から笑い声が上がった。

 

「……な、なんなの、この二人……」

 

 ルーシィは早くも困惑していた。

 

◇

 

「それでは、せっかくですから皆さんをご紹介しましょうか」

 

 イリスが微笑んだ。

 

「えっ、いいんですか!?」

 

「もちろんです。これから同じギルドの仲間ですから」

 

「私も案内します!」

 

 メイビスも元気よく手を挙げる。

 

 こうして、二人によるギルド紹介が始まった。

 

「まず、こちらがナツさんです」

 

「おう! よろしくな、ルーシィ!」

 

「いや、ナツはもう知ってますよ!」

 

 ルーシィが即座に突っ込む。

 

「私をここに連れてきてくれたの、ナツですから!」

 

「あら、そうだったんですね」

 

「俺が連れてきたんだぜ!」

 

 ナツが得意げに笑う。

 

「そして、こちらがグレイさんです」

 

「よろしくな」

 

「よろしくお願いします!」

 

 ルーシィが頭を下げた、その瞬間。

 

「……って、なんで服脱いでるの!?」

 

「……あ?」

 

 グレイが自分の身体を見下ろす。

 

「うおっ!? いつの間に!?」

 

「自分で脱いだんでしょ!?」

 

 イリスは慣れた様子で微笑んでいた。

 

「グレイさんは、少し服を脱ぐ癖がありまして」

 

「少しどころじゃないですよ!?」

 

「ふふっ。元気ですねー!」

 

 メイビスは楽しそうだった。

 

「それから、こちらがエルフマンさんです」

 

「おう!」

 

 筋骨隆々の青年が立ち上がる。

 

「俺はエルフマン! 漢だ!」

 

「……はい?」

 

「漢なら、何事にも全力だ!!」

 

「……えっと」

 

「漢とはな!!」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!?」

 

 突然始まった熱弁に、ルーシィが後ずさる。

 

「ふふっ。エルフマンさんは、とても家族思いの優しい方なんですよ」

 

 イリスが穏やかに付け加える。

 

「……イリスさん」

 

 エルフマンが少し照れたように頭を掻いた。

 

「そ、そういうことを言われると、なんか……」

 

「ふふっ。本当のことですから」

 

 その様子を見て、ルーシィも小さく笑った。

 

 見た目は少し怖いけれど、悪い人ではなさそうだ。

 

「それから、今は依頼で出かけていますけれど、エルザさんという方もいるんですよ」

 

「エルザさん?」

 

「はい。とても頼りになる剣士さんです」

 

 イリスが嬉しそうに微笑む。

 

「剣の腕も素晴らしいんですよ」

 

「へえー! イリスさんと同じ剣士なんですね!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 メイビスも頷く。

 

「エルザさんは、とってもしっかり者なんです!」

 

「そうなんですか!」

 

 ルーシィはまだ知らなかった。

 

 その名前の持ち主が、ギルドの仲間たちからどれほど恐れられているのかを。

 

◇

 

「それから、こちらがギルドマスターのマカロフさんです」

 

「おお、ルーシィか」

 

 小柄な老人が椅子に座っていた。

 

「改めてよろしくのう」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

「ふむ。元気があってよろしい!」

 

 マカロフが満足そうに頷く。

 

 すると、メイビスがひょいと顔を覗かせた。

 

「マカロフ! お土産ですよ!」

 

「おお、そうかそうか」

 

「今回は温泉饅頭です!」

 

「……また菓子か」

 

「美味しいんですよ!」

 

「お主が食べたいだけじゃろうが!」

 

「えへへ!」

 

 ルーシィは目を瞬かせた。

 

「……あの」

 

「なんじゃ?」

 

「メイビスさんって、マスターとすごく仲がいいんですね」

 

「うむ。まあ、昔からの付き合いじゃからな」

 

「昔から……?」

 

 ルーシィがメイビスを見る。

 

 どう見ても、自分より幼い少女にしか見えない。

 

「……メイビスさんって、何歳なんですか?」

 

「ふふっ!」

 

 メイビスが笑顔になった。

 

「女の子に年齢を聞くのは失礼ですよ!」

 

「えええっ!?」

 

 イリスは楽しそうに笑っていた。

 

◇

 

 紹介を終えた三人がカウンターへ戻ると、ミラジェーンがお茶を用意してくれていた。

 

「お疲れさま。どうだった、ルーシィ?」

 

「……すごいギルドですね」

 

 ルーシィがしみじみと呟く。

 

「ふふっ。そうでしょう?」

 

 イリスが微笑む。

 

「でも、まだ紹介していない方もたくさんいるんですよ」

 

「えっ、まだいるんですか!?」

 

「はい。今は依頼で出かけている方もいますから」

 

「ギルダーツさんなんて、なかなか帰ってきませんしね!」

 

 メイビスが笑う。

 

「ギルダーツ?」

 

「とっても強い魔導士さんですよ!」

 

「へえ……!」

 

 ルーシィは感心した。

 

 そのとき。

 

「……あっ!」

 

 彼女がミラジェーンを見つめる。

 

「そういえば、ミラジェーンさんも週刊ソーサラーのモデルですよね!」

 

「ふふっ。そうよ」

 

「私、見たことあります!」

 

「ありがとう」

 

 ミラジェーンが嬉しそうに笑う。

 

「実はね、私がモデルを始めたのはイリスさんのおかげなの」

 

「えっ!?」

 

「イリスさんが編集部の方に推薦してくれたのよ」

 

「そうだったんですか!?」

 

 ルーシィがイリスを見る。

 

「ふふっ。ミラちゃんはとても綺麗ですから」

 

「もう、イリスさんったら」

 

 ミラジェーンが少し照れたように笑った。

 

「それに、ミラちゃんの笑顔は素敵ですからね」

 

「……ありがとう、イリスさん」

 

 二人は顔を見合わせて微笑んだ。

 

 その光景に、ルーシィは何となく胸が温かくなった。

 

◇

 

 ところが。

 

「おい、グレイ!!」

 

「ああ!? なんだよ、ナツ!」

 

 突然、ギルドの反対側から怒鳴り声が響いた。

 

「さっきから何見てんだよ!」

 

「別にてめえなんか見てねえよ!」

 

「やんのか!?」

 

「上等だ!」

 

 次の瞬間。

 

 ドゴォン!!

 

 テーブルが吹き飛んだ。

 

「きゃあああっ!?」

 

 ルーシィが悲鳴を上げる。

 

「ちょっと!? 何してるのよ!?」

 

「おおっ! 始まった!」

 

「今日も元気だな!」

 

 周囲の魔導士たちまで騒ぎ始める。

 

「……え?」

 

 ルーシィが固まる。

 

「なんで誰も止めないの!?」

 

「ふふっ。いつものことですよ」

 

 イリスは優雅にお茶を飲んでいた。

 

「今日も賑やかですねー!」

 

 メイビスはケーキを頬張っている。

 

「賑やかってレベルじゃないですよ!?」

 

 そのとき。

 

「やかましいわい!!」

 

 マカロフの怒声が響き渡った。

 

 次の瞬間、巨大化した拳がナツとグレイの頭上に振り下ろされる。

 

 ゴンッ!!

 

「「いってえええっ!!」」

 

「少しは静かにできんのか、お主らは!!」

 

「「すみませんでした!!」」

 

 ルーシィは呆然とした。

 

「……すごい」

 

「ふふっ。マカロフさんも大変ですね」

 

 イリスが満足そうに頷く。

 

「いや、イリスさんも止めてくださいよ!?」

 

「え?」

 

「え、じゃなくて!!」

 

 メイビスが楽しそうに笑った。

 

「あははっ! ルーシィちゃん、面白いですね!」

 

「私が変なの!?」

 

 ギルド中に笑い声が響き渡った。

 

◇

 

 そんな賑やかな時間が流れていた、そのときだった。

 

 バタン!!

 

 ギルドの扉が勢いよく開いた。

 

「マスター!!」

 

 幼い男の子が駆け込んでくる。

 

「……ロメオ?」

 

 マカロフが振り返った。

 

「父ちゃんは!? 父ちゃん、まだ帰ってこないの!?」

 

 少年の声は震えていた。

 

 先ほどまでの騒がしさが、少しずつ静まっていく。

 

「マカオは、まだ依頼から戻っておらん」

 

「……もう一週間だよ!」

 

 ロメオが叫ぶ。

 

「父ちゃん、ハコベ山に行ったまま帰ってこないんだ!」

 

「…………」

 

「何かあったんじゃないの!?」

 

 マカロフは難しい顔をした。

 

 そのとき。

 

「ロメオ君」

 

 柔らかな声が聞こえた。

 

 イリスだった。

 

「……イリスねえちゃん」

 

「マカオさんが心配なんですね」

 

「……うん」

 

 ロメオが俯く。

 

「父ちゃん、いつもはちゃんと帰ってくるのに……」

 

 小さな拳が震えていた。

 

「……俺、心配で……!」

 

 イリスは膝を折り、少年と目線を合わせた。

 

「そうですよね」

 

 優しく頷く。

 

「大切な家族ですものね」

 

「……うん」

 

 イリスは、そっとロメオの頭を撫でた。

 

 その様子を、ナツが黙って見つめていた。

 

「……ったく」

 

 やがて、ナツが立ち上がる。

 

「ナツ?」

 

 ルーシィが振り返った。

 

「ハッピー!」

 

「あい!」

 

「行くぞ!」

 

「えっ!? どこに!?」

 

「決まってんだろ!」

 

 ナツがにっと笑う。

 

「マカオのおっさん、迎えに行ってくる!」

 

「……ナツ!」

 

 ロメオが顔を上げた。

 

「ほんと!?」

 

「おう! 任せとけ!」

 

 ナツは拳を突き出した。

 

「絶対連れて帰ってくるからよ!」

 

「……っ!」

 

 ロメオの瞳に、涙が浮かぶ。

 

「ありがとう……!」

 

 その光景を、イリスは嬉しそうに見つめていた。

 

「ふふっ。ナツさんらしいですね」

 

「ですね!」

 

 メイビスも微笑む。

 

 すると、ルーシィが慌てて立ち上がった。

 

「ちょ、ちょっと! 私も行くわよ!」

 

「あ? なんでだ?」

 

「なんでって……!」

 

 ルーシィはロメオを見た。

 

 父親の帰りを待つ、小さな男の子。

 

「……放っておけないでしょ!」

 

 ナツが笑った。

 

「へへっ! じゃあ行くぞ!」

 

「あいさー!」

 

 三人は勢いよくギルドを飛び出していった。

 

◇

 

「……イリスねえちゃん」

 

 ロメオが小さく呟いた。

 

「……父ちゃん、帰ってくるかな」

 

 イリスは少年の隣に腰を下ろした。

 

「……心配ですよね」

 

「……うん」

 

「でも、ナツさんたちが迎えに行ってくれました」

 

 イリスは優しく微笑む。

 

「きっと、力になってくれますよ」

 

「……うん!」

 

 ロメオが小さく頷いた。

 

 メイビスも隣に座る。

 

「それじゃあ、帰ってくるまで一緒に待ちましょう!」

 

「……いいの?」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスが元気よく答える。

 

「お菓子もありますよ!」

 

「……ふふっ」

 

 ロメオが少しだけ笑った。

 

 イリスも微笑む。

 

 誰かの帰りを待つ時間。

 

 その不安を、二人はよく知っていた。

 

 だからこそ。

 

 今は、この少年のそばにいようと思った。

 

◇

 

 それから、しばらく後。

 

「ただいまー!!」

 

 ギルドの扉が開いた。

 

「……っ!」

 

 ロメオが勢いよく立ち上がる。

 

 そこには。

 

 ナツとハッピー。

 

 ルーシィ。

 

 そして、傷だらけになりながらも、自分の足で立っている一人の男がいた。

 

「……父ちゃん?」

 

 ロメオが呟く。

 

「……ロメオ」

 

 マカオが申し訳なさそうに笑った。

 

「心配かけちまったな」

 

「……っ!!」

 

 次の瞬間。

 

「父ちゃあああん!!」

 

 ロメオが駆け出した。

 

 マカオの胸に飛び込む。

 

「ばか!! ばか父ちゃん!!」

 

「お、おいおい……!」

 

「ずっと……ずっと心配してたんだぞ!!」

 

 マカオは息子を強く抱きしめた。

 

「……悪かった」

 

「……っ!」

 

「もう大丈夫だ」

 

 ロメオは父親の胸に顔を埋め、声を上げて泣いた。

 

 ギルドの仲間たちは、静かにその光景を見守っていた。

 

「……よかったですね」

 

 イリスが小さく呟く。

 

「……はい」

 

 メイビスも微笑んだ。

 

 カウンターの向こうでは、ミラジェーンが目元をそっと拭っていた。

 

 失われた家族がいる。

 

 もう二度と会えないと思っている、大切な人がいる。

 

 だからこそ。

 

 こうして誰かが無事に帰ってくることが、何より嬉しかった。

 

「……おかえりなさい、マカオさん」

 

 イリスが微笑む。

 

「ああ。ただいま、イリス」

 

 マカオが笑った。

 

「ナツたちにも助けられちまったよ」

 

「ふふっ。頼もしいですね」

 

「まったくだ!」

 

 ナツが得意げに胸を張る。

 

「へへっ! 俺に任せりゃ楽勝だぜ!」

 

「途中で乗り物酔いしてたくせに!」

 

 ルーシィが突っ込む。

 

「うるせえ!」

 

「あい! ナツは乗り物に弱いからね!」

 

「ハッピーまで言うな!!」

 

 再び、ギルドに笑い声が響いた。

 

◇

 

 夕方。

 

「よーし!!」

 

 マカロフが大きな声を上げた。

 

「今日は新しい仲間の歓迎じゃ!!」

 

「おおおおおっ!!」

 

 ギルド中から歓声が上がる。

 

「ルーシィの歓迎会だー!!」

 

 ナツが叫んだ。

 

「ええっ!? 私の!?」

 

「当然じゃろう!」

 

 マカロフが笑う。

 

「新しい家族が増えたんじゃからな!」

 

 テーブルには料理が並び、飲み物が配られる。

 

 ロメオもマカオの隣で、嬉しそうに笑っていた。

 

「ルーシィさん!」

 

 イリスが声をかける。

 

「はい!」

 

「こちらへどうぞ」

 

 イリスとメイビスの隣に、席が用意されていた。

 

「……ありがとうございます!」

 

 ルーシィが笑顔で腰を下ろす。

 

「どうですか? 妖精の尻尾は」

 

 イリスが尋ねた。

 

「……正直、びっくりすることばっかりです」

 

「ふふっ」

 

「喧嘩はするし、物は壊すし、変な人ばっかりだし……」

 

「そうですね!」

 

 メイビスが楽しそうに頷く。

 

「でも……」

 

 ルーシィは、ギルドの中を見渡した。

 

 笑い合う仲間たち。

 

 親子で食事をするマカオとロメオ。

 

 騒がしいナツとグレイ。

 

 優しく微笑むミラジェーン。

 

「……すっごく、温かいところですね」

 

 イリスが目を細めた。

 

「……はい」

 

 そして、優しく微笑む。

 

「私も、そう思います」

 

 そのとき。

 

「それじゃあ、乾杯ですよー!」

 

 メイビスが元気よく立ち上がった。

 

「新しい仲間、ルーシィちゃんに!」

 

「「「かんぱーい!!!」」」

 

 歓声が響き渡る。

 

 ルーシィは満面の笑顔でグラスを掲げた。

 

「よろしくお願いしまーす!!」

 

◇

 

 賑やかな宴の中。

 

 イリスは、ふとギルドの仲間たちを見つめていた。

 

 百年近く前。

 

 まだ、このギルドにはほんの数人しかいなかった。

 

 メイビス。

 

 ユーリ。

 

 プレヒト。

 

 ウォーロッド。

 

 そして、自分。

 

 小さな建物から始まった、妖精の尻尾。

 

 あれから、どれほどの年月が流れただろう。

 

 たくさんの仲間と出会った。

 

 たくさんの笑顔を見た。

 

 そして、たくさんの別れも経験した。

 

 それでも。

 

 こうして、新しい家族が増えていく。

 

「……イリス?」

 

 隣から声が聞こえた。

 

 メイビスだった。

 

「どうしたんですか?」

 

「……ふふっ」

 

 イリスは小さく笑った。

 

「少し、昔のことを思い出していました」

 

「……ああ」

 

 メイビスも、優しく微笑んだ。

 

「……本当に、大きくなりましたね」

 

「はい」

 

 二人は並んで、ギルドを見渡した。

 

 騒がしくて。

 

 賑やかで。

 

 少し乱暴で。

 

 けれど、誰よりも仲間を大切にする魔導士たち。

 

 それは、あの日に夢見たギルドの姿だった。

 

「……メイビス」

 

「はい?」

 

「これからも、たくさんの仲間が増えるといいですね」

 

 メイビスは満面の笑顔になった。

 

「もちろんです!」

 

 そして、イリスの手を握る。

 

「だって、妖精の尻尾ですから!」

 

「……ふふっ。そうですね」

 

 二人は顔を見合わせて笑った。

 

 その向こうでは、ルーシィがナツたちと楽しそうに笑っている。

 

 新しい時代。

 

 新しい仲間。

 

 そして、新しい物語。

 

 百年近い時を経ても、妖精たちの物語は終わらない。

 

 これからも、きっと。

 

 何度でも、新しい笑顔が咲いていくのだろう。

 

 イリス・アストレアは、そんな未来を思い描きながら、愛する家族たちを優しく見つめていた。

 




【こそこそ妖精話】
~乙女の秘密~

 妖精の尻尾。

 ルーシィの歓迎会が終わった後。

 カウンターでは、イリスとメイビスが仲良くケーキを食べていた。

ルーシィ「……ねえ、ミラさん」

ミラジェーン「なあに?」

ルーシィ「イリスさんとメイビスさんって、いったい何歳なの?」

ミラジェーン「あら、どうして?」

ルーシィ「だって、マスターと昔からの知り合いなんでしょ? でも、どう見ても私と同じくらいか、それより若く見えるし……」

ミラジェーン「ふふっ。確かに不思議よね」

ルーシィ「ミラさんも知らないの!?」

ミラジェーン「そうね。聞いたことはないわ」

ルーシィ「……ますます気になる!」

 そこへ、ナツが顔を出した。

ナツ「何の話だ?」

ルーシィ「イリスさんとメイビスさんの年齢!」

ナツ「ああ? そんなの知らねえぞ」

ルーシィ「ナツも!?」

ナツ「俺がガキの頃から、ずっとあのまんまだしな!」

ルーシィ「……え?」

ナツ「イリスねえちゃんはずっとイリスねえちゃんだし、メイビスもずっとメイビスだぞ!」

ルーシィ「それ、全然説明になってないから!!」

 ルーシィは頭を抱えた。

 そのとき。

メイビス「ふふっ。何だか楽しそうですね!」

イリス「何のお話ですか?」

ルーシィ「……あっ!」

 本人たちがやってきた。

ルーシィ「あ、あの! お二人って、何歳なんですか!?」

メイビス「…………」

イリス「…………」

 二人は顔を見合わせた。

メイビス「……イリス」

イリス「……はい」

メイビス「どうしましょう?」

イリス「……どうしましょうね?」

ルーシィ「なんで相談してるんですか!?」

 そこへ、マカロフが通りかかった。

ルーシィ「あっ! マスターなら知ってますよね!?」

マカロフ「……何をじゃ?」

ルーシィ「二人の年齢です!」

マカロフ「…………」

 マカロフは、イリスとメイビスを見た。

 二人はにっこり微笑んでいる。

マカロフ「……知らん!」

ルーシィ「絶対知ってますよね!?」

メイビス「ふふっ! 女の子には秘密があるんですよ!」

イリス「そういうことにしておいてくださいね」

ルーシィ「えええええっ!?」

 結局。

 ルーシィは、二人の年齢を知ることができなかった。

 なお、その日の夜。

マカロフ「……まったく。わしよりずっと年上のくせに……」

メイビス「マカロフ?」

マカロフ「……なんでもありません!!」

イリス「ふふっ。マカロフさんも大変ですね」

マカロフ「誰のせいじゃと思っとるんじゃ!!」


ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。

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総合評価:1754/評価:8.95/連載:15話/更新日時:2026年10月30日(金) 17:00 小説情報


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