妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第96話「パジャマ姿の救世主」

 

 X784年。

 

 フィオーレ王国、楽園の塔。

 

 ――ドゴォォォォン!!

 

 凄まじい轟音が響き渡った。

 

 巨大な魔力を纏った拳が、ジェラール・フェルナンデスを吹き飛ばす。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

 ナツ・ドラグニルの咆哮。

 

 エーテリオンの魔力を取り込んだ彼の一撃が、ついにジェラールを打ち倒した。

 

「……ぐっ……!」

 

 ジェラールの身体が地面を転がる。

 

 そして、そのまま動かなくなった。

 

「……はぁ……はぁ……!」

 

 ナツも膝をつく。

 

 全身は傷だらけ。

 

 激闘の末、ようやく掴んだ勝利だった。

 

「……ナツ……!」

 

 エルザ・スカーレットが駆け寄る。

 

「大丈夫か!?」

 

「……へへっ」

 

 ナツは、疲れ切った顔で笑った。

 

「……勝ったぜ……エルザ……」

 

「……ああ!」

 

 エルザの瞳に涙が浮かぶ。

 

「ありがとう……ナツ……!」

 

 長い間、自分を縛り続けてきた過去。

 

 その象徴ともいえる男が、ついに倒れた。

 

 これで、すべてが終わる。

 

 ――そう思った、そのときだった。

 

 ――ふわり。

 

「……ん?」

 

 エルザが顔を上げた。

 

 目の前の空間が、突然歪み始めたのだ。

 

 淡い黄金色の魔法陣。

 

 そこから、二人の少女が姿を現す。

 

「……あら?」

 

「ここが落下地点でしょうか?」

 

 金髪の少女と、黒髪の少女。

 

 どちらも、見覚えのある顔だった。

 

「…………」

 

 エルザが固まる。

 

「……イリス……さん?」

 

「まあ!」

 

 黒髪の少女が、ぱっと顔を輝かせた。

 

「エルザさん!」

 

「エルザではありませんか!」

 

 隣の金髪の少女も嬉しそうに笑った。

 

「こんばんは!」

 

「……メイビスさん……?」

 

 エルザは、二人を交互に見つめた。

 

 妖精の尻尾の初代マスター。

 

 そして、ギルド創設者の一人。

 

 その二人が、突然現れた。

 

 それだけでも驚くべきことなのだが。

 

「…………」

 

 エルザの視線が、ゆっくりと下がる。

 

 淡い青色のパジャマ。

 

 柔らかなクリーム色のパジャマ。

 

 胸元には、小さなリボン。

 

 どう見ても、寝間着だった。

 

「…………」

 

「……エルザさん?」

 

 イリスが首を傾げる。

 

「どうかしました?」

 

「……なぜ」

 

「はい?」

 

「なぜ、パジャマなのですか!?」

 

 エルザの叫びが、塔の内部に響き渡った。

 

「……ああ!」

 

 イリスが、自分の服装を見下ろす。

 

「これから寝るところだったんですよ」

 

「はい!」

 

 メイビスも元気よく頷いた。

 

「今日は旅行中なんです!」

 

「りょ、旅行……!?」

 

「とっても美味しいディナーでした!」

 

「それに、スイーツも素敵でしたね」

 

「はい! 最高でした!」

 

「…………」

 

 エルザは、しばらく言葉を失った。

 

「……いや、そうではなく……」

 

 そのとき。

 

「……お?」

 

 地面に座り込んでいたナツが、顔を上げた。

 

「イリスじゃねえか!」

 

「まあ、ナツさん!」

 

 イリスが微笑む。

 

「こんばんは。ずいぶん大変そうですね」

 

「へへっ! ちょっと強え奴と戦ってたんだ!」

 

「そうだったんですね」

 

 イリスは、倒れているジェラールへ視線を向けた。

 

「……なるほど」

 

 そして、再びナツを見る。

 

「お疲れ様でした。頑張りましたね」

 

「おう!」

 

 ナツは満足そうに笑った。

 

 その様子を見て、エルザは額を押さえた。

 

「……どうして、こんなに普通に会話できるんだ……」

 

◇

 

「……ところで」

 

 メイビスが、周囲を見回した。

 

「ここ、ずいぶん変わった構造をしていますね」

 

 塔の内部には、膨大な魔力が満ちていた。

 

 壁も床も、異様な輝きを放っている。

 

「……エーテリオンの魔力……?」

 

 メイビスの瞳が細められた。

 

「なるほど……」

 

 彼女は床に手を当てる。

 

 淡い魔法陣が広がり、塔の内部構造が魔力の線となって浮かび上がった。

 

「……これは」

 

「どうしました、メイビス?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「この塔、エーテリオンの魔力を吸収しています」

 

「……まあ」

 

 イリスも周囲を見渡した。

 

 金色の瞳には、塔の内部を流れる膨大な魔力がはっきりと映っている。

 

「本当ですね。ずいぶん無理な魔力の循環をしています」

 

「はい。それに……」

 

 メイビスは、少しだけ表情を引き締めた。

 

「この術式、ただの魔力貯蔵施設ではありません」

 

「……?」

 

 エルザが顔を上げる。

 

「メイビスさん……?」

 

「何かを復活させるための術式ですね」

 

「……!」

 

 エルザの表情が変わった。

 

「……ゼレフを……」

 

「……え?」

 

 メイビスが振り返る。

 

「今、なんと?」

 

「ジェラールは……この塔を使って、黒魔導士ゼレフを復活させようとしていたんです」

 

「…………」

 

「…………」

 

 イリスとメイビスは、顔を見合わせた。

 

 数秒の沈黙。

 

「……メイビス」

 

「……はい」

 

「ゼレフさん、亡くなっていましたっけ?」

 

「……いえ?」

 

 メイビスが首を傾げる。

 

「少なくとも、私たちが最後に会ったときは元気でしたよね?」

 

「そうですね」

 

「…………」

 

 エルザが固まった。

 

「……え?」

 

「……ああ、いえ」

 

 イリスが微笑む。

 

「少し、昔の知り合いを思い出しまして」

 

「む、昔の知り合い……?」

 

「ふふっ。その話は、また今度にしましょう」

 

 メイビスも頷いた。

 

「それより、今はこの塔ですね」

 

 その瞬間。

 

 ――ゴゴゴゴゴ……!!

 

 塔全体が、大きく揺れ始めた。

 

「……っ!?」

 

 エルザが身構える。

 

「何だ!?」

 

「……あら」

 

 メイビスが、魔力の流れを見つめた。

 

「どうやら、内部の魔力が不安定になっているようです」

 

 壁に亀裂が走る。

 

 床から、激しい魔力の光が噴き出した。

 

 エーテリオンによって蓄積された膨大な魔力。

 

 その制御が失われようとしていた。

 

「まずい……!」

 

 エルザが叫ぶ。

 

「このままでは、塔が崩壊する!」

 

「……そうですね」

 

 イリスは、穏やかに頷いた。

 

「では、先に皆さんを避難させましょうか」

 

「……え?」

 

「メイビス、お願いできますか?」

 

「もちろんです!」

 

 メイビスが、にっこり笑った。

 

「任せてください!」

 

◇

 

 楽園の塔。

 

 各所では、崩壊の兆候に気づいた者たちが慌ただしく動いていた。

 

「おい! 何だ、この揺れは!?」

 

「塔が崩れるぞ!!」

 

 そんな彼らの足元に、次々と黄金色の魔法陣が浮かび上がる。

 

「……ん?」

 

 次の瞬間。

 

 ――ふわり。

 

 人々の姿が消えた。

 

 そして。

 

 楽園の塔から離れた、安全な海岸。

 

「うわあああっ!?」

 

「な、何だ!?」

 

 突然現れた人々が、次々と砂浜へ降り立った。

 

「……ここは!?」

 

「さっきまで塔の中に……!」

 

 その中には、ルーシィやグレイたちの姿もあった。

 

「……え?」

 

 ルーシィが周囲を見回す。

 

「ちょっと!? 何が起きたの!?」

 

「……空間転移か?」

 

 グレイが呟く。

 

 そして。

 

 ――ふわり。

 

 最後に、エルザ、ナツ、ジェラールを連れたイリスとメイビスが現れた。

 

「はい! これで全員ですね!」

 

 メイビスが、満足そうに手を叩く。

 

「……メイビスさん!?」

 

 ルーシィが目を見開いた。

 

「イリスさんまで!?」

 

「こんばんは、ルーシィさん」

 

「こんばんはー!」

 

「…………」

 

 ルーシィの視線が、二人の服装へ向かった。

 

「…………」

 

「……ルーシィさん?」

 

「……なんでパジャマなの!?」

 

「……またですか」

 

 イリスが、くすりと笑った。

 

「旅行中だったんですよ」

 

「旅行!?」

 

「はい!」

 

 メイビスが嬉しそうに頷く。

 

「今日は素敵なホテルに泊まっているんです!」

 

「……意味が分からないんだけど!?」

 

 その隣で、グレイが呆然と呟いた。

 

「……こいつら、どっから来たんだ……」

 

「ふふっ」

 

 イリスは微笑む。

 

「少し、夜空に気になるものが見えまして」

 

「……夜空?」

 

「エーテリオンです」

 

「…………」

 

 グレイは黙り込んだ。

 

「……それで、見に来たのか?」

 

「はい」

 

「……パジャマで?」

 

「はい」

 

「…………」

 

 グレイは、深いため息をついた。

 

「……もう何も言わねえ」

 

◇

 

 安全な海岸。

 

 気を失ったジェラールは、メイビスの空間魔法によって隔離されていた。

 

 エルザは、その姿を静かに見つめていた。

 

「……イリスさん」

 

「はい?」

 

「……ありがとうございます」

 

「ふふっ。まだ何も終わっていませんよ?」

 

 イリスが、海の向こうを見つめる。

 

 そこには、巨大な楽園の塔がそびえ立っていた。

 

 塔の各所から、膨大な魔力が噴き出している。

 

「……あれを、このままにはできませんね」

 

 メイビスも頷いた。

 

「そうですね。放っておけば、周囲に被害が出てしまいます」

 

「……どうするつもりだ?」

 

 エルザが尋ねる。

 

 イリスは、にっこり微笑んだ。

 

「壊してしまいましょうか」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……え?」

 

 ルーシィが、間の抜けた声を上げた。

 

「……壊す?」

 

「はい」

 

 イリスは、何でもないことのように頷いた。

 

「もう必要のない施設でしょう?」

 

「い、いや、そうだけど……!」

 

「では、メイビス」

 

「はい!」

 

 メイビスが手をかざす。

 

 その隣に、小さな空間の裂け目が開いた。

 

 そして。

 

 ――すらり。

 

 イリスが、一本の剣を取り出した。

 

 白銀の刀身。

 

 黄金の装飾。

 

 星の意匠を持つ、美しい聖剣。

 

「……!」

 

 エルザの瞳が見開かれる。

 

 あの剣だ。

 

 かつて、ギルダーツとの模擬戦で見た聖剣。

 

 イリス・アストレアの真の武器。

 

「……イリスさん……」

 

「皆さん、少し離れていてくださいね」

 

 イリスは微笑んだ。

 

 そして。

 

 パジャマ姿のまま、聖剣を構えた。

 

「…………」

 

 ルーシィが、小さく呟く。

 

「……なんか、すごい光景ね……」

 

「……ああ」

 

 グレイも頷いた。

 

「……格好だけ見たら、寝る前の女の子なんだけどな……」

 

 イリスは、海の向こうにそびえる塔を見据えた。

 

 金色の瞳が、魔力の流れを捉える。

 

 膨大な魔力。

 

 複雑に絡み合った術式。

 

 そして、今にも暴走しそうな魔力の奔流。

 

「……まずは、こちらからですね」

 

 イリスが、聖剣を軽く振るった。

 

 ――シュンッ。

 

 それだけだった。

 

 次の瞬間。

 

 塔の内部を流れていた魔力の循環が、断ち切られた。

 

 暴走しかけていた魔力が、次々と消えていく。

 

「……なっ!?」

 

 グレイが目を見開く。

 

「……魔力が……消えた……?」

 

「……すごい……」

 

 エルザも息を呑んだ。

 

 あれほど膨大だった魔力が、瞬く間に無力化されていく。

 

「……これで大丈夫ですね」

 

 イリスは、満足そうに頷いた。

 

「では」

 

 聖剣を、ゆっくりと持ち上げる。

 

「片付けましょうか」

 

 ――斬ッ!!

 

 黄金色の斬撃が、夜の海を駆け抜けた。

 

 それは、あまりにも美しい一閃だった。

 

 そして。

 

 ――ズンッ!!

 

 巨大な楽園の塔に、一本の線が走った。

 

「…………」

 

「…………」

 

 誰もが、言葉を失った。

 

 次の瞬間。

 

 ――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

 楽園の塔が、真っ二つに割れた。

 

「…………は?」

 

 ルーシィの口から、思わず声が漏れる。

 

 巨大な塔。

 

 エーテリオンの魔力を吸収した、恐るべき魔法施設。

 

 それが。

 

 たった一振りで、綺麗に両断されたのだ。

 

「……すっげええええええ!!」

 

 ナツが叫んだ。

 

「イリス!! 今のどうやったんだ!?」

 

「ふふっ。少し斬っただけですよ?」

 

「少しって何だよ!!」

 

 グレイが思わず突っ込む。

 

 その間にも、切断された塔が崩れ始める。

 

 しかし。

 

「では、こちらは私が!」

 

 メイビスが両手を広げた。

 

 巨大な魔法陣が、海上に展開される。

 

 ――ふわり。

 

 塔の残骸が、空中で静止した。

 

 そして、次々と空間の裂け目へ吸い込まれていく。

 

 巨大な瓦礫。

 

 崩れ落ちる建材。

 

 海へ落下するはずだった破片。

 

 そのすべてが、メイビスの空間魔法によって安全に隔離されていった。

 

「……はい!」

 

 メイビスが、ぱんっと手を叩く。

 

「お片付け完了です!」

 

 海の向こう。

 

 そこには、もう楽園の塔の姿はなかった。

 

 ただ、穏やかな夜の海が広がっている。

 

「…………」

 

 エルザは、呆然と立ち尽くしていた。

 

 長い間、自分を苦しめてきた場所。

 

 多くの悲しみを生み出した塔。

 

 それが、今。

 

 跡形もなく消えていた。

 

「……終わった……」

 

 エルザが、小さく呟いた。

 

「……本当に……」

 

 その瞳から、一筋の涙がこぼれる。

 

「……終わったんだな……」

 

「……エルザさん」

 

 イリスが、優しく声をかけた。

 

「はい……!」

 

 エルザは涙を拭い、微笑んだ。

 

「……ありがとうございました……!」

 

「ふふっ」

 

 イリスも微笑み返す。

 

「どういたしまして」

 

 そして。

 

「……それにしても」

 

 エルザが、改めて二人を見つめた。

 

「……あの塔を、あんなに簡単に……」

 

「ふふっ。イリスですから!」

 

 メイビスが、得意げに胸を張る。

 

「……メイビス」

 

 イリスが苦笑する。

 

「あなたも十分すごいことをしていましたよ?」

 

「えへへ!」

 

 メイビスが嬉しそうに笑った。

 

 その姿を見て、ルーシィは頭を抱えた。

 

「……もう、本当に何なのよ、この二人……」

 

◇

 

 しばらくして。

 

「……さて」

 

 メイビスが、ぱっと顔を上げた。

 

「イリス!」

 

「はい?」

 

「そろそろ帰りましょう!」

 

「……そうですね」

 

 イリスが頷く。

 

「もう夜も遅いですし」

 

「明日の朝食も楽しみです!」

 

「ふふっ。そうでしたね」

 

「…………」

 

 ルーシィが、ゆっくりと顔を上げた。

 

「……え?」

 

「では、皆さん」

 

 イリスが、にこやかに微笑む。

 

「私たちは、そろそろ失礼しますね」

 

「おやすみなさーい!」

 

 メイビスも元気よく手を振った。

 

「……ちょ、ちょっと待って!?」

 

 ルーシィが叫ぶ。

 

「本当に帰るの!?」

 

「はい?」

 

 イリスが首を傾げる。

 

「もう危険はありませんし……」

 

「そういう問題じゃなくて!!」

 

「……ルーシィ」

 

 グレイが、そっと肩に手を置いた。

 

「……もう諦めろ」

 

「諦められるわけないでしょ!?」

 

 その隣では、ナツが楽しそうに笑っていた。

 

「イリス! 今度、俺とも本気で勝負してくれよな!」

 

「ふふっ。考えておきますね」

 

「絶対だぞ!!」

 

「はいはい」

 

 イリスが笑う。

 

 そして、エルザへ視線を向けた。

 

「エルザさん」

 

「……はい」

 

「また、ギルドでお会いしましょうね」

 

「……はい!」

 

 エルザは、深く頷いた。

 

「本当に、ありがとうございました!」

 

「ふふっ。では」

 

 メイビスが、足元に魔法陣を展開する。

 

「帰りますよ、イリス!」

 

「はい、メイビス」

 

 ――ふわり。

 

 二人の姿が、夜の海岸から消えた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 残された妖精の尻尾の魔導士たち。

 

 しばらく、誰も口を開かなかった。

 

 やがて。

 

「……なあ」

 

 グレイが、ぽつりと呟いた。

 

「……あの二人、結局何しに来たんだ?」

 

「……さあ?」

 

 ルーシィが、遠い目をする。

 

「……塔を壊しに来たんじゃねえか?」

 

 ナツが答えた。

 

「……パジャマでな」

 

 グレイが付け加える。

 

「…………」

 

 ルーシィは、深いため息をついた。

 

「……このギルド、本当におかしいわ……」

 

◇

 

 翌朝。

 

 フィオーレ王国、海沿いのリゾートホテル。

 

 大きな窓から、朝日が差し込んでいた。

 

 青く澄んだ海。

 

 白い砂浜。

 

 穏やかな波の音。

 

 そんな美しい景色を眺めながら、二人の少女が朝食を楽しんでいた。

 

「……ん〜!」

 

 メイビスが、幸せそうに頬を緩める。

 

「イリス! このパン、とっても美味しいです!」

 

「ふふっ。本当ですね」

 

 イリスも微笑む。

 

 テーブルには、焼きたてのパンや新鮮な果物、色鮮やかな料理が並んでいた。

 

「こちらのジャムもおすすめですよ」

 

「本当ですか!?」

 

「はい。少し食べてみます?」

 

「いただきます!」

 

 メイビスが嬉しそうにパンを差し出す。

 

 イリスは、その上にジャムを少し乗せてあげた。

 

「……美味しいです!」

 

「ふふっ。良かったですね」

 

 二人は楽しそうに笑い合う。

 

 昨夜、巨大な魔法施設を消滅させたことなど、まるでなかったかのように。

 

「……そういえば、イリス」

 

「はい?」

 

「昨日の塔、ずいぶん大きかったですね」

 

「そうですね」

 

「でも、綺麗に片付いて良かったです!」

 

「ふふっ。メイビスのおかげですよ」

 

「えへへ!」

 

 メイビスが、嬉しそうに笑った。

 

 そして、ふと窓の外を眺める。

 

「……今日もいいお天気ですね!」

 

「ええ」

 

 イリスも海へ視線を向けた。

 

「朝食が終わったら、海辺を散歩しましょうか」

 

「はい!」

 

 メイビスが、満面の笑顔で頷いた。

 

 百年近くをともに生きてきた、二人の妖精。

 

 昨夜は少しばかり、予定外の出来事があったけれど。

 

 それでも。

 

 二人にとって大切なのは、こうして一緒に過ごす穏やかな時間だった。

 

「イリス! 次はあちらのフルーツも食べてみましょう!」

 

「ふふっ。そんなに食べて、お腹いっぱいになりませんか?」

 

「大丈夫です!」

 

「……本当ですか?」

 

「もちろんです!」

 

 二人の楽しそうな笑い声が、朝のレストランに響く。

 

 こうして。

 

 世界を揺るがしかねなかった楽園の塔の事件は。

 

 パジャマ姿の二人の少女によって、あっさりと幕を閉じたのだった。

 




【こそこそ妖精話】
~伝説のパジャマ~

 数日後。

 妖精の尻尾。

ルーシィ「……ねえ、みんな。あのときのこと、覚えてる?」

グレイ「あのとき?」

ルーシィ「楽園の塔よ! イリスさんとメイビスさんが来たとき!」

ナツ「ああ! パジャマだったな!」

グレイ「……あれは忘れられねえよ」

ルーシィ「だって、おかしいでしょ!? あんな大事件の真っ最中に、二人揃ってパジャマで現れるなんて!」

エルザ「……二人にも事情があったのだろう」

ルーシィ「エルザは冷静ね……」

エルザ「当然だ。イリスさんもメイビスさんも、私たちを救ってくださった恩人だからな」

グレイ「……まあ、それはそうなんだが」

ナツ「でもよ! イリス、あの格好で塔を真っ二つにしたんだぜ!」

ルーシィ「しかもメイビスさん、『お片付け完了です!』って!」

グレイ「……世界を滅ぼしかねない魔法施設を、掃除みたいに言うなよな」

エルザ「…………」

ルーシィ「……エルザ?」

エルザ「……ふっ」

グレイ「……おい?」

エルザ「……いや、すまない……」

ナツ「何笑ってんだ?」

エルザ「……思い出したら……ふふっ……!」

ルーシィ「エルザが笑ってる!?」

エルザ「……だ、だって……あのときのイリスさん……!」

グレイ「……ああ」

エルザ「……あんなに可愛らしいパジャマで……聖剣を構えて……!」

ルーシィ「しかも、ものすごく真面目な顔してたわよね!」

エルザ「……ふふっ……あはははっ!」

ナツ「エルザが爆笑してるぞ!!」

グレイ「……まあ、気持ちは分かるけどな」

ルーシィ「……でも、エルザがこうして笑ってくれるなら、良かったかもね」

エルザ「……ああ。そうだな」

 そのとき。

イリス「皆さん、何のお話ですか?」

メイビス「楽しそうですね!」

ルーシィ「あっ! 噂をすれば!」

ナツ「おう! パジャマの話だ!」

イリス「……パジャマ?」

メイビス「……あっ!」

イリス「……ふふっ。そんなにおかしかったですか?」

エルザ「……い、いえ! 決してそのような……!」

メイビス「でも、イリスのパジャマ、とっても可愛かったですよね!」

イリス「まあ。メイビスのも可愛かったですよ?」

エルザ「…………っ!」

ルーシィ「……エルザ?」

エルザ「……ふっ……ふふふっ……!」

グレイ「……駄目だ、完全にツボに入ってやがる」

ナツ「ぎゃはははは!!」

メイビス「……?」

イリス「……ふふっ。エルザさん、楽しそうですね」

ルーシィ「原因はあなたたちよ!!」



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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