妖精と聖剣使い   作:使い手なない

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第97話「初代マスター、内乱を鎮める」

 

 X784年。

 

 フィオーレ王国、マグノリア。

 

 魔導士ギルド、妖精の尻尾。

 

「ただいま戻りました!」

 

「ただいまですー!」

 

 ギルドの扉が開き、二人の少女が姿を現した。

 

 黒髪のハーフツインテールを揺らす、青と金のオッドアイの美少女。

 

 イリス・アストレア。

 

 そして、その隣で楽しそうに笑う金髪の少女。

 

 妖精の尻尾の初代マスター、メイビス・ヴァーミリオン。

 

 二人は海沿いのリゾート旅行を終え、久しぶりにギルドへ帰ってきたところだった。

 

「ふふっ。やっぱり、ここは賑やかですね」

 

「はい! 帰ってきたって感じがします!」

 

 メイビスが嬉しそうに笑う。

 

 しかし。

 

「……あら?」

 

 イリスが首を傾げた。

 

 ギルドの中が、妙に静かだったのだ。

 

 普段なら聞こえてくるナツとグレイの喧嘩声もない。

 

 代わりに、何やら騒然とした空気が漂っている。

 

「……皆さん?」

 

「イリスさん!!」

 

 突然、ルーシィが駆け寄ってきた。

 

「メイビスさんも! 大変なんです!!」

 

「まあ、ルーシィさん」

 

「どうしたんですか?」

 

「ラクサスが……!」

 

 ルーシィは、息を切らしながら叫んだ。

 

「ラクサスが、ギルドの仲間同士で戦わせようとしてるんです!!」

 

「…………」

 

「…………」

 

 二人は顔を見合わせた。

 

「……メイビス」

 

「……はい」

 

「どうやら、旅行中に何かあったようですね」

 

「そうみたいですね……」

 

 メイビスが、少し困ったように笑った。

 

◇

 

 事情を聞いた二人は、ギルドの奥へ進んだ。

 

 そこには。

 

「……まあ」

 

 イリスが目を丸くした。

 

 エルザをはじめとする女性魔導士たちが、石像となって並んでいたのだ。

 

「……これは」

 

「エバーグリーンの魔法なんです!」

 

 ルーシィが説明する。

 

「ラクサスの仲間の雷神衆が、みんなを石にしちゃって……!」

 

「なるほど」

 

 メイビスが石像の一つに近づいた。

 

 軽く指先を触れる。

 

「……ふむふむ」

 

 淡い黄金色の魔法陣が浮かび上がった。

 

「石化魔法ですね」

 

「そ、そうなんです!」

 

「では、解除しましょう!」

 

「……え?」

 

 ルーシィが瞬きをする。

 

 次の瞬間。

 

 ――ぱぁぁぁっ!!

 

 柔らかな光が、ギルドの中を満たした。

 

 石像となっていた女性たちの身体が、次々と元の姿へ戻っていく。

 

「……っ!?」

 

 エルザが目を見開いた。

 

「……私は……?」

 

「エルザさん!」

 

 イリスが微笑む。

 

「おかえりなさい」

 

「……イリスさん!?」

 

「はい!」

 

 メイビスも元気よく手を振る。

 

「石化を解除しました!」

 

「…………」

 

 エルザは、しばらく二人を見つめた。

 

「……もう、解除したのですか?」

 

「はい!」

 

「…………」

 

 その隣で、ルーシィが頭を抱えた。

 

「……やっぱり、この二人おかしいわ……」

 

「ふふっ。褒め言葉でしょうか?」

 

「違います!!」

 

◇

 

 その頃。

 

 マグノリアの街中では、妖精の尻尾の魔導士たちが混乱していた。

 

「くそっ! 何だよ、この術式!!」

 

「ここから出られねえぞ!!」

 

 フリードが仕掛けた術式。

 

 特定の条件を満たさなければ、通過することすらできない魔法の結界。

 

 街の至るところに張り巡らされたそれが、ギルドメンバーの行動を制限していた。

 

 しかし。

 

「……なるほど」

 

 街の広場。

 

 メイビスが、足元に浮かぶ術式を眺めていた。

 

「ずいぶん丁寧に組まれていますね」

 

「解除できそうですか?」

 

 イリスが尋ねる。

 

「もちろんです!」

 

 メイビスは、にっこり笑った。

 

「ただ、一つずつ解除するのは面倒ですね」

 

「……ということは?」

 

「まとめて解除しましょう!」

 

 メイビスが両手を広げた。

 

 その足元に、巨大な黄金色の魔法陣が展開される。

 

 幾重にも重なる術式。

 

 複雑に絡み合う魔力の線。

 

 それらが、街全体へと広がっていく。

 

「……メイビス?」

 

「はい?」

 

「街中の術式を、全部ですか?」

 

「はい!」

 

 メイビスが得意げに胸を張る。

 

「せっかくですから!」

 

「ふふっ。では、お任せしますね」

 

 そして。

 

「――術式解放!」

 

 ――キィィィィン!!

 

 澄んだ音が、マグノリアの街に響き渡った。

 

 次の瞬間。

 

 街中に張り巡らされていた術式が、一斉に砕け散った。

 

「……お?」

 

「……あれ?」

 

 結界に閉じ込められていた魔導士たちが、顔を見合わせる。

 

「……出られるぞ!?」

 

「術式が消えた!!」

 

 街のあちこちから、歓声が上がった。

 

 一方。

 

 別の場所では。

 

「……なっ!?」

 

 フリード・ジャスティーンが、目を見開いていた。

 

 自分が時間をかけて構築した術式。

 

 そのすべてが。

 

 たった一瞬で、消滅したのだ。

 

「……馬鹿な……!」

 

 フリードは、呆然と呟いた。

 

「……誰が、こんなことを……!?」

 

◇

 

「……さて」

 

 メイビスが、満足そうに手を叩いた。

 

「これで皆さん、自由に動けますね!」

 

「そうですね」

 

 イリスも微笑む。

 

「では、あとは皆さんに任せましょうか」

 

「はい!」

 

 そのとき。

 

「イリスさん!」

 

 エルザが駆け寄ってきた。

 

「雷神衆の相手は、私たちがします!」

 

「ふふっ。もちろんですよ」

 

 イリスが頷く。

 

「皆さんなら大丈夫です」

 

「……ありがとうございます!」

 

 エルザは力強く頷き、街へ駆け出していった。

 

 その後ろ姿を見送りながら、メイビスが小さく笑う。

 

「みんな、頼もしくなりましたね」

 

「ええ」

 

 イリスも嬉しそうに頷いた。

 

「本当に」

 

 百年前。

 

 まだ小さなギルドだった妖精の尻尾。

 

 それが今では、これほど多くの仲間を抱える場所になった。

 

 だからこそ。

 

 すべてを自分たちで解決する必要はない。

 

 仲間たちが自分の力で乗り越えられることなら、その成長を見守ればいい。

 

 ――そう思っていたのだが。

 

 その直後だった。

 

 ――ゴロゴロゴロ……!!

 

「……ん?」

 

 イリスが空を見上げた。

 

 マグノリアの上空。

 

 そこに、無数の魔水晶が浮かび上がっていた。

 

 紫電を纏い、不気味な光を放つ巨大な結晶。

 

「……あら」

 

 メイビスも顔を上げる。

 

「これは……」

 

 街中に、ラクサスの声が響き渡った。

 

『聞こえるか!! 妖精の尻尾の連中!!』

 

 魔水晶が、激しく明滅する。

 

『これが俺の切り札だ!!』

 

『神鳴殿!!』

 

 街の人々が、空を見上げた。

 

「……何だ、あれ!?」

 

「雷が……!?」

 

『時間になれば、マグノリア全体に雷が降り注ぐ!!』

 

 ラクサスの声が響く。

 

『止めたけりゃ、俺を倒してみろ!!』

 

「…………」

 

「…………」

 

 イリスとメイビスは、しばらく空を見上げていた。

 

 そして。

 

「……メイビス」

 

「……はい」

 

「さすがに、これは駄目ですね」

 

「そうですね」

 

 メイビスが、少しだけ表情を引き締めた。

 

「街の人たちまで巻き込むのは、いけません」

 

「では」

 

 イリスが、右手を差し出した。

 

「聖剣をお願いできますか?」

 

「はい!」

 

 メイビスが指を鳴らす。

 

 ――ふわり。

 

 小さな空間の裂け目が開いた。

 

 そこから、一本の美しい聖剣が姿を現す。

 

 白銀の刀身。

 

 黄金の装飾。

 

 星の意匠。

 

 イリスは、その柄を静かに握った。

 

「……さて」

 

 空を見上げる。

 

 金色の瞳には、魔水晶を繋ぐ魔力の流れがはっきりと映っていた。

 

 複雑に組まれた雷の魔法。

 

 街全体を覆う、巨大な攻撃術式。

 

 しかし。

 

 イリスにとっては。

 

「……少し、危ないですね」

 

 それだけだった。

 

 聖剣を、軽く振るう。

 

 ――シュンッ。

 

 次の瞬間。

 

 マグノリアの上空に、黄金色の斬撃が走った。

 

 ――キィィィィン!!

 

 澄んだ音が響く。

 

 そして。

 

 ――パキンッ!!

 

 無数の魔水晶に、同時に亀裂が入った。

 

「……っ!?」

 

 街の人々が息を呑む。

 

 次の瞬間。

 

 ――パァァァァッ!!

 

 神鳴殿を構成していた魔法が、黄金色の光となって消えていった。

 

 雷は落ちない。

 

 爆発も起きない。

 

 街への被害も、まったくない。

 

 ただ。

 

 先ほどまで空を覆っていた無数の魔水晶が、跡形もなく消滅していた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 街の人々が、呆然と空を見上げる。

 

「……消えた?」

 

「……雷が……?」

 

 その下で。

 

「……はい」

 

 イリスが、満足そうに頷いた。

 

「これで大丈夫ですね」

 

「お見事です、イリス!」

 

 メイビスが嬉しそうに拍手する。

 

「ふふっ。ありがとうございます」

 

 イリスは微笑んだ。

 

 そして、聖剣をメイビスの異空間へ戻す。

 

「……さて」

 

「はい!」

 

「そろそろ、ラクサスさんのところへ行きましょうか」

 

「そうですね」

 

 メイビスが頷いた。

 

 その笑顔は、先ほどまでとは少し違っていた。

 

◇

 

 マグノリア。

 

 カルト大聖堂。

 

「……何だと……?」

 

 ラクサス・ドレアーが、呆然と空を見上げていた。

 

 神鳴殿。

 

 自分が用意した、最大の切り札。

 

 それが。

 

 何の抵抗もできずに、消滅した。

 

「……ふざけんな……!」

 

 ラクサスが歯を食いしばる。

 

「……誰だ……!」

 

「私ですよ」

 

「……っ!?」

 

 突然、声が響いた。

 

 振り返る。

 

 そこには。

 

「こんばんは、ラクサスさん」

 

 黒髪の少女が、穏やかに微笑んでいた。

 

 その隣には、金髪の少女。

 

「ラクサス!」

 

 メイビスが、まっすぐに彼を見つめる。

 

「少し、お話しましょうか」

 

「……てめえら……!」

 

 ラクサスの表情が歪んだ。

 

「……初代マスターと、創設者様かよ……!」

 

「ふふっ。そうですね」

 

 イリスが微笑む。

 

「一応、そういうことになります」

 

「……ちっ!」

 

 ラクサスが舌打ちする。

 

「今さら出てきて、何のつもりだ!」

 

「……ラクサス」

 

 メイビスが、静かに口を開いた。

 

「あなたは、どうしてこんなことをしたんですか?」

 

「……あ?」

 

「仲間同士を戦わせて、街の人たちまで危険に晒して」

 

「……うるせえ!」

 

 ラクサスが叫ぶ。

 

「俺は、このギルドを変えるんだよ!!」

 

「…………」

 

「弱え奴らを追い出して、最強のギルドにする!!」

 

 雷が、ラクサスの身体を走る。

 

「そうすりゃ、誰も妖精の尻尾を馬鹿にできねえ!!」

 

 メイビスは、静かに彼を見つめていた。

 

 そして。

 

「……ラクサス」

 

「……何だよ!」

 

「あなたにとって、妖精の尻尾は何ですか?」

 

「…………」

 

 ラクサスが、言葉を詰まらせた。

 

「……何?」

 

「強い魔導士だけが集まる場所ですか?」

 

「……!」

 

「弱い人を追い出して、強い人だけが残れば、それでいいんですか?」

 

「……当たり前だろ!」

 

 ラクサスが叫ぶ。

 

「弱え奴なんか、足手まといなんだよ!!」

 

「……そうですか」

 

 メイビスは、少しだけ寂しそうに笑った。

 

「でも、私はそうは思いません」

 

「……あ?」

 

「妖精の尻尾は、強い人だけが集まる場所ではありません」

 

 メイビスの声は、穏やかだった。

 

「嬉しいことがあったとき、一緒に喜んでくれる人がいる」

 

「…………」

 

「悲しいことがあったとき、隣にいてくれる人がいる」

 

 その瞳に、遠い昔の光景が浮かぶ。

 

 天狼島。

 

 まだ何も持っていなかった自分たち。

 

 ユーリ。

 

 プレヒト。

 

 ウォーロッド。

 

 そして。

 

 隣に立つ、黒髪の少女。

 

「……そういう場所を、私たちは作りたかったんです」

 

「…………」

 

 ラクサスは、何も言わなかった。

 

 メイビスは続ける。

 

「強いことは、素晴らしいことです」

 

「……!」

 

「でも、強さだけでは、守れないものもあります」

 

 そして。

 

「……ラクサス」

 

 メイビスは、まっすぐに彼を見つめた。

 

「あなたは、本当に仲間を失いたいんですか?」

 

「…………っ!」

 

 ラクサスの拳が、震えた。

 

「……黙れ……!」

 

 雷が、激しく迸る。

 

「百年前の亡霊が……!」

 

 ラクサスが、怒鳴った。

 

「今さらギルドに口出しするんじゃねえ!!」

 

「…………」

 

 メイビスは、少しだけ目を伏せた。

 

 その隣で。

 

「……ラクサスさん」

 

 イリスが、静かに口を開いた。

 

「あなたがギルドを大切に思っていることは、分かります」

 

「……何だと?」

 

「でも」

 

 イリスの青と金の瞳が、まっすぐに彼を捉える。

 

「大切なものを守るために、その大切なものを傷つけてしまっては、意味がありませんよ」

 

「…………」

 

 ラクサスは、歯を食いしばった。

 

「……てめえらに……!」

 

 その身体から、凄まじい雷が噴き上がる。

 

「……何が分かる!!」

 

 ――バチバチバチッ!!

 

 大聖堂の空気が震えた。

 

 しかし。

 

 イリスもメイビスも、動かなかった。

 

 ただ、静かに彼を見つめていた。

 

 そのとき。

 

「ラクサァァァス!!」

 

 大聖堂の入り口から、怒鳴り声が響いた。

 

「……っ!?」

 

 ラクサスが振り返る。

 

 そこには。

 

「ようやく見つけたぜ!!」

 

 ナツ・ドラグニル。

 

 そして、ガジル・レッドフォックスの姿があった。

 

「……ナツ……!」

 

 ラクサスが、低く呟く。

 

「……てめえ……!」

 

「ラクサス!!」

 

 ナツが拳を握る。

 

「勝負だ!!」

 

「…………」

 

 イリスとメイビスは、顔を見合わせた。

 

「……メイビス」

 

「……はい」

 

「ここからは、皆さんに任せましょうか」

 

「そうですね」

 

 メイビスが、静かに頷いた。

 

 そして、ラクサスへ視線を向ける。

 

「……ラクサス」

 

「……何だよ」

 

「あなたが本当に守りたいものを、もう一度考えてみてください」

 

「…………」

 

 ラクサスは答えなかった。

 

 イリスは、ナツたちへ微笑む。

 

「ナツさん、ガジルさん」

 

「おう!」

 

「……何だ?」

 

「後は、お願いしますね」

 

「任せろ!!」

 

 ナツが、力強く笑った。

 

 その様子を見て、イリスも笑う。

 

「ふふっ。頼もしいですね」

 

 そして。

 

 二人は、大聖堂の外へ歩き出した。

 

◇

 

 それから、しばらくして。

 

 大聖堂に響いていた激しい戦闘音が、ようやく止んだ。

 

 ラクサスは、ナツとガジルとの戦いに敗れた。

 

 ギルドの仲間たちも、次々と戻ってきた。

 

 バトル・オブ・フェアリーテイル。

 

 それは、こうして幕を閉じた。

 

 そして。

 

 妖精の尻尾。

 

「……ラクサス」

 

 マカロフ・ドレアーが、静かに口を開いた。

 

 その前には、傷だらけの孫が立っている。

 

「……お前は、やりすぎた」

 

「…………」

 

「仲間を傷つけ、街の人々を危険に晒した」

 

「…………」

 

「……それを、見過ごすわけにはいかん」

 

 ラクサスは、何も言わなかった。

 

 マカロフは、深く息を吐く。

 

「……ラクサス」

 

 そして。

 

「お前を、妖精の尻尾から破門する」

 

「…………」

 

 ギルドの中が、静まり返った。

 

 誰もが、その言葉の重さを理解していた。

 

 ラクサスは、しばらく俯いていた。

 

 やがて。

 

「……ああ」

 

 小さく答えた。

 

「……分かった」

 

 そして、背を向ける。

 

 その背中を、マカロフは静かに見つめていた。

 

 ――そのとき。

 

「……ラクサスさん」

 

 柔らかな声が響いた。

 

 イリスだった。

 

「……何だよ」

 

「また、いつか」

 

 イリスは、優しく微笑んだ。

 

「一緒に笑える日が来るといいですね」

 

「…………」

 

 ラクサスは、振り返らなかった。

 

 しかし。

 

「……ふん」

 

 小さく鼻を鳴らす。

 

「……余計なお世話だ」

 

 そう言い残し、ギルドを出ていった。

 

 その後ろ姿を、メイビスも静かに見送っていた。

 

「……イリス」

 

「はい?」

 

「いつか、分かってくれるでしょうか」

 

「……きっと」

 

 イリスは、穏やかに頷いた。

 

「ラクサスさんも、妖精の尻尾の仲間ですから」

 

「……はい」

 

 メイビスが、小さく微笑んだ。

 

◇

 

 その夜。

 

 マグノリアの街には、色とりどりの光が灯っていた。

 

 ファンタジア。

 

 妖精の尻尾が参加する、年に一度の大きなお祭り。

 

 街の人々が、楽しそうに歓声を上げる。

 

 華やかな魔法の光。

 

 賑やかな音楽。

 

 笑顔に包まれた街。

 

 その中を、妖精の尻尾の魔導士たちが進んでいく。

 

「わあああっ!!」

 

「すごーい!!」

 

 歓声が響く。

 

 そして。

 

 パレードの一角。

 

「イリス! 見てください!」

 

 メイビスが、目を輝かせた。

 

「とっても綺麗です!」

 

「ふふっ。本当ですね」

 

 イリスも微笑む。

 

 夜空には、無数の魔法の光が舞っていた。

 

「……百年前には、こんなお祭りになるなんて思いませんでしたね」

 

「はい!」

 

 メイビスが嬉しそうに頷いた。

 

「みんなのおかげです!」

 

 イリスは、隣に立つ少女を見つめた。

 

 百年前。

 

 天狼島で出会った、小さな妖精。

 

 あの日から、ずっと一緒に歩いてきた。

 

 そして今。

 

 自分たちが作ったギルドは、これほど多くの人々に愛される場所になった。

 

「……メイビス」

 

「はい?」

 

「これからも、ずっと見守っていきましょうね」

 

「……はい!」

 

 メイビスが、満面の笑顔で頷いた。

 

「もちろんです!」

 

 そのとき。

 

 少し離れた場所。

 

 人混みの向こうに、一人の青年の姿があった。

 

 ラクサス。

 

 彼は、静かにパレードを見つめていた。

 

 その視線の先。

 

 マカロフが、ゆっくりと片手を掲げる。

 

 親指と人差し指を伸ばし、空へ向ける。

 

 妖精の尻尾に伝わる、仲間への合図。

 

 ラクサスは、しばらくその姿を見つめていた。

 

 そして。

 

「…………」

 

 ゆっくりと、同じように手を掲げた。

 

 言葉はない。

 

 けれど。

 

 その想いは、確かに届いていた。

 

 遠くからその光景を見ていたメイビスが、小さく微笑む。

 

「……イリス」

 

「はい?」

 

「やっぱり、妖精の尻尾は素敵なギルドですね」

 

「ふふっ」

 

 イリスも微笑んだ。

 

「ええ。本当に」

 

 百年を越えて受け継がれてきた、妖精たちの絆。

 

 それは、ときにぶつかり合い、傷つくことがあっても。

 

 決して、簡単には消えない。

 

 夜空に、無数の光が舞い上がる。

 

 その下で。

 

 二人の妖精は、肩を並べて笑っていた。

 

 

 




【こそこそ妖精話】
~フリードの自信作~

 バトル・オブ・フェアリーテイル終了後。

 妖精の尻尾、ギルドホール。

フリード「…………」

ビックスロー「おーい、フリード。いつまで落ち込んでんだよ?」

エバーグリーン「そうよ。もう終わったことでしょ?」

フリード「……三日だ」

ビックスロー「あ?」

フリード「……あの術式を完成させるのに、三日かかったんだ」

エバーグリーン「……そう」

フリード「街の構造を調べ、魔力の流れを計算し、条件を一つずつ設定して……」

ビックスロー「お、おう」

フリード「それを……!」

 フリードが、拳を握りしめる。

フリード「……たった数秒で、全部解除された……!」

ビックスロー「ブハハハハ!!」

エバーグリーン「ちょっと! 笑っちゃ悪いでしょ!」

ビックスロー「だってよ! 三日かけて数秒だぜ!?」

フリード「…………」

 そのとき。

メイビス「あら? 皆さん、どうしたんですか?」

 噂の本人が、イリスと一緒にやってきた。

フリード「……初代マスター」

メイビス「はい!」

フリード「……一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか」

メイビス「もちろんです!」

フリード「……あの術式、どう思われましたか?」

メイビス「とっても丁寧に作られていましたよ!」

フリード「……!」

メイビス「条件の設定も面白かったですし、魔力の配分も綺麗でした!」

フリード「……そ、そうですか!」

 フリードの表情が、少し明るくなる。

メイビス「はい! ただ……」

フリード「……ただ?」

メイビス「解除するための術式を組むのに、少し時間がかかっちゃいました!」

フリード「……どれくらいでしょうか?」

メイビス「えっと……」

 メイビスが、指を折って考える。

メイビス「……十秒くらいです!」

フリード「…………」

ビックスロー「ブッ……!」

エバーグリーン「……っ!」

フリード「……十秒……」

イリス「ふふっ。でも、メイビスが十秒も考えたんですから、相当よくできた術式だったと思いますよ?」

メイビス「はい! また見せてくださいね!」

フリード「…………」

 フリードは、静かに天井を見上げた。

フリード「……もっと勉強しよう……」

ビックスロー「ブハハハハハ!!」

エバーグリーン「だから笑うなってば!!」

 ――初代マスターの壁は、あまりにも高かった。



ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

今後とも『妖精と聖剣使い』をよろしくお願いいたします。
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