ハリーポッターとケモノの子 ~その瞳に映るもの~ 作:火力万能主義
前回から思ったことだが、オチを想定したうえで描いてるのに編集と検討による書き直しを重ねるごとに、いやそも初稿が出来上がった時点で文字数が軽く1万を超えるのはどういうことだろうか...
最初に書き始めた作品の頃からつづく悩み。
せっかくこの作品だけは平均8千字を目指すって公言したのにまたしも2万を迎える.....文庫小説なら多けりゃ多い程うれしいのだが、主にスマホの画面で呼んでいる側からしたらやっぱ短めの方が読みやすくてテンポがよく感じるのか知りたいです。
一週間ぶりの投稿ですが、今後長くなりそうなら上下で分けるか、タイトルつけにくいけども頑張って分割するかにしてみます。なので残りの部分は今日の六時に予約投稿しておきます。
今後ともの課題をどうにかしなくちゃ。
作品や原作によってもやっぱ変わるものは変わるだろうし、この作品を読まれている皆さんのニーズをつかんでみたいですね。
あと、もうちょい明るくて元気な青春物語がほしいのかな。
「聞いた? 昨日、スリザリンの生徒が殺されたんだって」
「えっ。死んじゃったの?」
「いや、まだ生きてるって聞いたぞ」
「でも、頭がなくなったんでしょ?」
「違うって。天井に刺さったんだよ!」
そこだけは、間違っていなかった。
だから、余計に困るのである。
「死んでないよ。先生が医務室へ運んだんだ」
ハリーは、パンにバターを塗っていた手を止めた。
大広間へ来るまでにも、似たような話を三度は聞いている。階段では上級生が二人死んだことになっていたし、入口ではスリザリンの一年生が誰かの頭を食い千切ったことになっていた。
おまけに、食い千切った頭を天井へ放り投げたのだと、まるで見てきたかのように話す生徒まで現れた。
それも、スープが冷めるより早く。
「でも、天井には刺さってたんだろ?」
「それは、そうだけど」
「どうやって?」
「僕たちが行った時には、もうそうなってたんだよ」
「魔法じゃなくて、殴ったって本当?」
ハリーの手が、また止まった。
「……本人は、そう言ってたよ」
「やっぱり!」
目の前の同級生が、隣の生徒へ顔を向ける。
その口が開く前に、ハリーは言い足した。
「でも、殴ったところは見てないよ。何があったのかも、全部聞いたわけじゃないから」
「分かってるって」
本当に分かっているのだろうか。
同級生たちは、少し離れた席へ戻っていった。
間もなく、向こうで誰かが天井を指さした。
ハリーはパンを見下ろす。端に寄ったバターが、そこだけ厚く固まっていた。
「……朝から、あの話ばっかりだな」
隣で、ロンが言った。
「こっちに来る途中でも、聞かれたよ」
「僕も。……まあ、誰かに聞きたくなるのは分かるけどさ」
ロンは大広間の天井へ目を上げ、途中でやめた。
「人間の頭だぞ。何で、あんなところに」
続きは出てこなかった。
ハリーにも、答えはなかった。
昨日、地下回廊へ駆けつけた時には、黒いローブの下から両脚が垂れていた。誰かが悪戯で人形を吊るしたのだと思いたかったが、その下に立っていた少年の手を見た途端、そんな考えは消えた。
赤かった。
袖も、指も、足元の石も。
怪我をしていると気づいて近づくと、アッシュは叫んだ。
『来るな!』
ハリーは、止まった。
止まらなければいけないと思った。こちらがもう一歩近づけば、何かが起きる。そのくらい、あの時のアッシュの声は、いつものものとは違っていた。
「昨日、言ってたじゃないか」
ロンの声が、小さくなった。
「殺そうとした、って」
向かいで、ハーマイオニーの指が止まった。
脇へ寄せた教科書には、まだ栞が挟まっている。今朝は一度も開いていなかった。
「……うん」
「先生を連れて戻った時には、もう、誰も杖なんか向けてなかったのにさ。あいつ、ずっとあんな顔してたけど」
ロンは皿へ目を落とした。
「僕、ああいうの……初めて見たよ」
ハリーも頷いた。
あの人は生きているのかと聞いた時、アッシュは何も答えなかった。呼吸があると聞いたあとも、怒った顔にも、安心した顔にも、うまく戻れないように見えた。
そして、マクゴナガル先生へ言ったのだ。
殺そうとした。
けれど、やめた、と。
「やめたっていうのは、どういうことだったのかしら」
ハーマイオニーが呟いた。
「殴る前に?」
「分からないよ」
ロンが答えた。
「殴ったあとかもしれないだろ。それ以上は何もしなかったってことかも」
「でも、手も自分で傷つけたって」
ハーマイオニーは自分の掌を見て、そっと指を曲げた。
途中でやめ、膝の上へ下ろす。
「……あんなに血が出てたのよ」
ハリーは、すぐには何も言えなかった。
聞いた言葉なら、覚えている。杖を向けられたことも、自分が殴ったことも、アッシュは隠そうとしなかった。
けれど、その一つ一つを並べても、あの顔には繋がらなかった。
「そういえば、列車でもさ」
ロンが顔を上げた。
「僕がスキャバーズを黄色くしようとした時。アッシュ、急に怒っただろ」
「……杖を向けるなって?」
「そう、それ。向けてなかったのに、こっちの手ばっかり見てさ。あの時は、何だよって思ったけど」
ハリーも思い出した。
それまで窓の外を眺めていた少年が、いつの間にかロンの手元を見ていた。呪文が成功するか楽しみにしている顔ではなかったことは、覚えている。
「昨日、杖を向けられたって言ってたね」
「うん」
ロンは頷いたが、それで納得した様子ではなかった。
「でも、それだけで……」
口を閉じる。
ハリーにも、その先は分かった。
魔法学校なのだ。杖を出す生徒も、振る生徒も、毎日そこら中にいる。授業で失敗した呪文が、思いも寄らない方へ飛ぶことだってある。
それを嫌がるのと、相手を殺そうとするのとでは、同じではない。
何があったのだろう。
昨日の回廊だけでなく、その前にも。
ハリーは、スリザリンの食卓へ目を向けた。
灰色の髪は見当たらなかった。
「……まだ、医務室なのかな」
「そうじゃない? あれだけ怪我をしてたんだから」
ハーマイオニーも、そちらを見た。
「会いに行くの?」
ロンに聞かれ、ハリーは顔を戻した。
「行けるなら」
「また、構うなって言われるかもしれないぞ」
「そうだね」
昨日の授業のあとにも、そう言われたばかりだった。
ただ、あの時は顔色が悪かった。いつも以上に返事が短くて、こちらを見るのも嫌そうだった。
あそこで、何か聞けていれば。
そう思いかけて、ハリーはパンの端をちぎった。聞こうとはした。けれど、アッシュは話したくなかったのだ。
「僕、まだ友達になりたいんだ」
ロンが、こちらを見る。
「……昨日のことがあっても?」
「うん。でも」
ハリーは少し迷った。
「またあんなふうに怒鳴られたら、びっくりすると思う」
「そりゃするよ」
今度の返事は、すぐだった。
ロンは肩を落とし、ようやくパンへ手を伸ばした。
「僕だって、あいつと話すのが嫌だったわけじゃないんだよ。僕のこと、赤髪なんて呼ぶけどさ」
「嫌じゃないの?」
「嫌な時もあるよ。ちゃんと名前があるんだから」
ロンは、自分の髪を一房摘まんだ。
「でも、あいつに言われるのと、ほかの奴に言われるのとじゃ、何か違うんだ」
「どう違うの?」
「ほら。赤毛だからウィーズリーだって分かるだろ。そうすると、うちは貧乏だとか、またお下がりかとか。そういうのまで、くっつけてくる奴がいるんだよ」
摘まんでいた髪を放し、パンの端をちぎる。
「アッシュは、そこまで考えてない気がする。本当に赤いから、赤髪。それだけ」
ハリーは、少し考えてから頷いた。
「僕がポッターなのと、同じかな」
「君はポッターだろ」
「うん。だから、それだけなんだよ」
ロンが眉を寄せる。
うまく伝わらなかったらしい。
額を見られることも、名前を聞かれた途端に相手の顔が変わることも、
皆、ハリーについて何かを知っていた。
ハリー自身の覚えていないことまで。
「アッシュは、僕の名前を聞いても、傷を見せてくれって言わなかっただろ」
「ああ……」
「何をしたのか、僕に聞いてくることもなかったし」
そのくせ、教室で顔を合わせれば、ポッター、と呼ぶ。
面倒くさそうに返事をする。分からないことを聞けば、知らねぇよ、と言う。ハリーだからという理由で、急に愛想がよくなることもない。
嬉しいことばかりではなかった。
けれど、気楽だったのだ。
「……何も知らないだけかもしれないけどね」
「多分、知らないんだろうな」
ロンが、あまりにも素直に頷いた。
ハリーは少し笑った。
ロンの口元も動いたが、その目が隣の食卓へ向いたところで、笑みは消えた。
向こうでは、まだ誰かが昨日の話をしていた。
「僕たちだって、あいつのこと、あんまり知らないんだな」
ロンが言った。
ハリーは頷く。
知らないまま、昨日の一言だけで、もう話せない相手になってしまうのは嫌だった。
だからといって、あの言葉を聞かなかったことにもできなかった。
「会えても、いきなり昨日のことを聞かない方がいいと思うわ」
ハーマイオニーが言った。
「まだ、手が痛むかもしれないし」
「うん」
「それに、説明してって言えば、全部話してくれるわけじゃないもの」
ハリーは彼女を見た。
ハーマイオニーは、栞の端を教科書の中へ押し戻している。
「……それは、私も分かってるわよ」
誰も何も言っていないうちに、そう付け加えた。
ロンは口を開きかけ、パンを一口かじる方を選んだ。
「ポッター」
その時、食卓の脇から声がした。
顔を上げると、プラチナブロンドの少女が立っていた。
カリーナ・マルフォイだった。
「昨日、あそこにいたのは、あなたたちなのね」
「うん。途中からだけど」
「そう」
カリーナは、こちらの皿へ一度目を落とした。朝食の邪魔をしていることには、気づいているらしい。
ただし、謝るつもりはなさそうだった。
「あの子も、怪我をしたと聞いたわ」
「アッシュ?」
「ええ」
ハリーは頷いた。
「右手を。僕たちが行った時には、もう血が出てた」
少女の視線が、ハリーの手元へ下がった。
「今は?」
「分からない。先生と医務室へ行ったから」
「ハンカチで押さえてもらったけれど、それだけじゃ止まらなかったの」
ハーマイオニーが付け加えた。
カリーナは、彼女へ顔を向ける。
「……先生には、見ていただいたのね」
「ええ」
「そう。分かったわ」
それだけだった。
少女は制服の袖を直し、踵を返した。
「それだけ?」
ロンの口から、つい出たらしい。
カリーナが振り返る。
「ほかに何を聞けばよろしいの?」
「いや。別に」
「でしたら、朝食を続けたら?」
言われなくても、そのつもりだったのだろう。ロンは手にしたパンを見てから、彼女の背中へ顔をしかめた。
「そっちから来たんじゃないか」
カリーナは、もう返事をしなかった。
淡い金色が、生徒たちの間を抜けていく。
何を聞かれるのかと思っていた。
誰が何をしたのか。どうやって天井へ刺さったのか。つい先ほどまで、散々聞かれていたことを、また聞かれるのだろうと。
けれど、彼女は一度も天井の話をしなかった。
ハリーがその後ろ姿を見ていると、別の声に名前を呼ばれた。
「ポッター。ウィーズリー。グレンジャー」
今度こそ、三人は姿勢を正した。
いつの間にかマクゴナガルが立っていたのだ。
「朝食を終えたら、私の部屋へ来てください。昨日の件で、お話を聞きます」
ハリーは頷いた。
知らないことは、まだ多い。
けれど、昨日見た顔まで、誰かが食卓で作った話に置き換えられたくはなかった。
「着いた時には、すでに上級生は天井に埋まっていたのですね」
「はい」
ハリーが答えると、マクゴナガルは羊皮紙へ短く書き込んだ。
机の向こうには、スネイプもいた。
椅子へ腰を下ろしたまま、三人の話を聞いている。
口を挟まれなくても、あの黒い目がこちらへ向いているだけで、落ち着かなかった。
「では、上級生が杖を向けるところは?」
「見ていません。アッシュが、あとでそう言ったのを聞きました」
「殴るところも?」
「はい。見ていません」
答えるたびに、知らないことばかりが増えていく。
ハリーは膝の上で手を組んだ。
「でも、怪我をしていたのは本当です」
「それは、私たちも確認しています」
マクゴナガルは、責めるようには言わなかった。
「あなたたちが、どこから見ていたのかを確かめているのです。続けてください」
ハリーは頷き、アッシュへ近づこうとしたことを話した。
来るなと叫ばれたこと。足を止めると、それ以上何もされなかったことも。
ハーマイオニーは、ハンカチを渡した時のことを説明した。
「触らないと言ったら、受け取ってくれました。自分で押さえて……その時、悪い、って」
言いながら、少し声が小さくなった。
「私のハンカチが汚れたからだと思います。でも、それは、そういう時に使うものですから」
マクゴナガルが頷いた。
「分かりました。ウィーズリー、あなたはその間にセブルスを呼びに行ったのですね」
「はい。先生の部屋が一番近かったので。戻ってからは、ずっとそこにいました」
ロンが、スネイプへちらりと目を向ける。
教師は短く頷いただけだった。
「アッシュが、自分で殴ったと言ったのも?」
「聞きました」
ロンの声が、少し硬くなる。
「そのあとに言ったことも、全部」
部屋が静かになった。
廊下の向こうで、誰かの足音がした。
「……先生」
ハリーは顔を上げた。
「あの上級生は、もう目を覚ましたんですか?」
「今朝、前後の事情をある程度は聞かせてもらった」
答えたのは、スネイプだった。
「まだ治療は必要だが、命に別状はない」
隣で、ロンが大きく息を吐いた。
ハリーも、膝の上の手を解いた。昨日、呼吸があると聞いた時から、ずっと気になっていたのだ。
「……よかった」
口から出た言葉に、スネイプは何も返さなかった。
「騒ぎが起きる前に、何か気づいたことはありませんか」
マクゴナガルが尋ねる。
ハリーは、昨日の授業を思い出した。
「顔色が悪かったです。眠そうだったし、いつもより、返事をするのも嫌そうで」
「眠いだけだって言ってました」
ハーマイオニーが続けた。
「でも、授業中にも、何度も手が止まっていたんです。眠ったのか聞いたら……構うなって」
マクゴナガルの羽根ペンが止まった。
スネイプも、彼女へ一度目を向けた。
「それから、前にも杖を嫌がったことがあります」
ロンが言った。
列車で杖を持ち上げた時のことを、今度は教師たちへ話す。
「自分へ向けるなって。僕は向けてなかったんですけど」
「その時、あなたに何かしましたか?」
「いいえ。見てただけです」
スネイプが、机に置かれた羊皮紙へ目を落とす。
ハリーには、そこに何が書かれているのかは見えなかった。
「あの……僕たちの話以外にも、聞いてるんですよね」
口にすると、黒い目が上がった。
「当然だ、ポッター。君たちが来る前にいた者にも、話を聞いている」
「……はい」
少し恥ずかしくなった。
何も知らないのは自分たちだけではないと思っていたが、先生たちは、分からないまま座っているわけではなかった。
「ほかに、思い出したことはありますか」
三人は顔を見合わせた。
ハリーは首を振る。
言いたいことなら、まだあった。
列車でヒキガエルを見つけたことや、授業のあとで片手を上げてくれたこと。怖い顔ばかりしている少年ではないことも。
けれど、それは昨日の回廊で起きた話とは違う。
「分かりました。ほかにも思い出したことがあれば、いつでも知らせてください」
椅子を立ちかけてから、ハリーはもう一度口を開いた。
「アッシュに、会いに行ってもいいですか?」
マクゴナガルがこちらを見る。
「授業が終わってから、マダム・ポンフリーに尋ねなさい。ただし休んでいる時には、起こさないように」
ハリーは頷いた。
廊下へ出ると、ロンが隣へ並ぶ。
「何て話すんだ?」
「……まだ、考えてない」
「そこは考えとけよ」
言った本人も、困ったように頭を掻いていた。