転生したら女体化マルフォイだったフォイ!   作:赤佐田奈

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はじめまして。こちらは『ハリー・ポッター』シリーズを題材にした二次創作小説です。

過労死した会社員が、女の子として生まれ変わったドラコ・マルフォイの記憶とともにホグワーツへ向かう――そんな設定で、原作とは異なる展開や独自の解釈を含みます。

本文の作成には生成AIを使用しています。
どうぞよろしくお願いします。


第一章
転生したら女体化マルフォイだったフォイ!


 目を開けると、窓の外を緑の景色が流れていた。

 

 赤い車体の汽車が、がたん、ごとんと揺れている。向かいの席には、銀色の髪をした少年が座っていた。窓辺には、革張りのトランク。膝の上には、見覚えのない黒いローブ。

 

 いや、見覚えがないどころじゃない。

 

 どれもこれも、映画で見たことがある。

 

「……ホグワーツ特急?」

 

 呟いた声が、思ったより高くて、かすれた。

 

 喉に手を当てる。細い指。白い手袋。胸元には、見慣れないリボンと、ぴったりと仕立てられた制服。膝に落ちた銀髪が、汽車の揺れに合わせてさらりと動いた。

 

 その瞬間、頭の中で記憶が雪崩れた。

 

 ――父さんに連れられて魔法道具の店へ行ったこと。

 ――母さんが髪を整えてくれたこと。

 ――幼いころから教えられてきた、マルフォイ家の誇り。

 ――魔法学校、ホグワーツ。もうすぐ一年生として入学すること。

 

 そしてもうひとつ。

 

 都内の安いワンルーム。パソコンの明かり。午前二時を過ぎたオフィス。終電を逃し、タクシー代を惜しんで会社の椅子で仮眠した夜。上司の「明日の朝までに頼む」の一言。三十代、独身、ブラック企業勤めの会社員。昼も夜も仕事に追い立てられ、ある朝、駅のホームで胸が苦しくなって――。

 

 そこまで思い出して、私は息を止めた。

 

 死んだ。たぶん、過労で。

 

 なのに今は、汽車に乗っている。しかも、映画で見た魔法使いの学校へ向かう列車だ。

 

「夢……じゃないよな」

 

 自分の声を聞いて、もう一度混乱する。

 

 記憶の中の私は、男の子だった。名前はドラコ・マルフォイ。これから同級生のハリー・ポッターに出会い、彼をからかい、何度も失敗し、やがて――。

 

 映画で見た場面が、断片的に浮かんだ。緑のネクタイ。意地悪そうな笑顔。大人になってからの、少し疲れた顔。筋書きはうろ覚えだ。そもそも映画は何作か観たが、細かいところはかなり忘れている。

 

 それでも、ドラコが男の子だったことは覚えている。

 

 私は座席から立ち上がり、窓ガラスに顔を近づけた。

 

 映っていたのは、青白い肌、薄い金髪、整った顔立ちの少女だった。年齢は十一歳くらい。制服の襟元からのぞく首は細く、肩も華奢。胸のあたりには、当然ながら、ささやかな膨らみがある。

 

 私は目を閉じ、もう一度開いた。

 

 少女は消えない。

 

「……女の子だ」

 

 確かに、マルフォイとしての記憶はある。私はドラコとして生まれ、マルフォイ家の子として育った。だが、その身体は私の知っているドラコとは違っていた。

 

 どうして女の子なのか。いつからそうだったのか。周囲は誰も疑問に思っていないのか。

 

 考えていると、向かいの少年が眉をひそめた。

 

「どうしたんだ、ドラコ。顔色が悪いぞ」

 

 少年の名は、たしか……ブレーズ? いや、まだ映画に出てきていたかどうかも曖昧だ。マルフォイの友人。私の記憶では、何度か一緒にいた気がする。

 

「ちょっと、頭が痛いだけよ」

 

 口をついて出た言葉に、私はまた驚いた。声だけでなく、言葉遣いまで自然に女の子らしくなっている。自分の中にいる会社員が慌てているあいだに、ドラコの記憶が勝手に受け答えをしていた。

 

「無理するなよ。入学前から具合が悪いなんて、父上に知られたら大騒ぎだ」

「大丈夫。少し考えごとをしていただけ」

 

 少年は、納得したようなしていないような顔で窓の外へ目をやった。

 

 私は膝の上で手を握りしめた。

 

 マルフォイとしての記憶は、夢のようにぼやけていない。両親の声も、屋敷の冷たい廊下も、父に「マルフォイ家にふさわしくあれ」と言われたことも、はっきり覚えている。今の私にとっては、どれも自分の人生だ。

 

 けれど、会社員だった私の人生も消えていない。

 

 毎朝、満員電車に押し込まれたこと。眠気をこらえて会議に出たこと。理不尽な叱責に頭を下げ、帰宅後に冷めた弁当を食べたこと。休みの日に何もできず、天井を見ていたこと。

 

 そして、最後に思ったこと。

 

 ――こんなふうに終わるなら、もう少し自分のために生きればよかった。

 

 私は胸元のリボンをつまんだ。細い指先が少し震える。

 

 もし本当に、映画で見た世界に来たのなら。私はこれから、ハリー・ポッターと同じ学校に通う。あの映画の通りなら、ドラコはハリーに嫌われ、危険な事件に巻き込まれ、家族の事情に振り回される。

 

 ただし、私は映画の主人公ではない。覚えているのは、印象に残った場面だけ。魔法の仕組みも、詳しくは知らない。未来を変えられると決まったわけでもない。

 

 それに何より、私はドラコ・マルフォイとして育ってしまっている。

 

 頭では「友達になろう」と思っても、身体の奥に染みついた誇り高さが、すぐに「そんなことをする必要はない」と囁く。誰かに軽く見られたくない。弱みを見せたくない。自分の家の名前を背負っているのだから、堂々としていなければならない。

 

 その感覚は、前世の会社員生活にも少し似ていた。

 

 期待に応えなければ。失敗してはいけない。休んではいけない。役に立たなければ、ここにいる意味がない。

 

 そんな考えに追い立てられて、私は死んだのだ。

 

 なら、今度こそは。

 

 そう思ったとき、コンパートメントの扉が勢いよく開いた。

 

「ここ、誰かいる?」

 

 赤毛の少年が顔をのぞかせた。その後ろには、丸い眼鏡をかけた黒髪の少年がいる。映画で見た姿と同じだ。ハリー・ポッター。隣の少年はロン・ウィーズリーだろう。

 

 心臓が跳ねた。

 

 映画の場面が、頭の中でざっと巻き戻る。マルフォイはハリーに近づき、握手を差し出す。そして、ハリーがそれを断る。たしか、そんな流れだったはず。

 

 いや、待って。ここで何を言うんだっけ。映画の台詞をそのまま言えばいいのか? 私の記憶に、そこまで正確な台詞はない。

 

「空いてるか?」とロンが訊ねた。

 

 ドラコとしての私は、反射的に顎を上げた。

 

「どうかしら。あなたたちが座るのにふさわしい場所か、考えてみないと」

 

 言った瞬間、しまったと思った。

 

 それは、記憶の中にあったマルフォイの言葉だった。相手を値踏みするような、冷たい口調。私は言うつもりなんてなかったのに、ドラコの記憶が先に動いた。

 

 ロンの顔が赤くなった。ハリーは、私を見つめている。映画の中で見たあの視線。敵意というより、何を言われるか警戒しているような目。

 

 私は、いったん深呼吸した。

 

「ごめんなさい。今のは、言いすぎたわ」

 

 ロンが目を丸くした。向かいの少年も、私を見た。

 

 ハリーは少しだけ眉を上げた。

 

「……いいの?」

「ええ。頭が混乱していて、変なことを言ったの。席なら、空いているわ」

 

 そんな説明は変だったかもしれない。でも、謝るのは悪いことじゃない。前世で何度も、謝っても仕方のない場面で頭を下げてきた。それとは違う。今のこれは、相手を見下す言葉を吐いた自分への、まっとうな謝罪だ。

 

 ハリーは、わずかにためらってから頷いた。

 

「ありがとう」

「待てよ、ハリー。こいつ、マルフォイだぞ」

「名前くらい知っているわ。そちらも、ウィーズリーでしょう?」

 

 また嫌味になりかけた。私は唇を結んだ。

 

「……その、悪口を言うつもりじゃないの。名前は知っていたから」

 

 ロンはまだ疑っている顔だったが、ハリーは「じゃあ、少しだけ」とコンパートメントに入ってきた。二人が向かいの席に腰かける。車内に、妙な沈黙が落ちた。

 

 映画の筋書きは、もう変わり始めているのかもしれない。あるいは、これが何の影響もない小さな出来事なのかもしれない。

 

 そんなことは分からない。

 

 私はひとまず、ハリーの顔を見た。彼は映画で見たより幼く、疲れているように見えた。ロンは、赤毛を気にするように前髪を押さえている。

 

 私だって、今は十一歳の女の子だ。大人の知識を持っていても、魔法は使えない。自分の気持ちだって、整理できていない。

 

 それでも、前世のように何もかも飲み込んで、限界まで我慢するのはやめよう。

 

「あなたたち、ホグワーツは初めて?」

「俺はそうだよ」とハリーが答えた。

「私もよ」

「えっ、マルフォイなのに?」とロンが思わず言った。

 

 私は苦笑した。

 

「マルフォイ家の人間だって、学校に入るのは初めてよ」

 

 話しているうちに、汽車の揺れが少しだけ心地よくなった。魔法界の常識も、これから起きることも、私には分からない。知らないことだらけだ。前世の私は、知らないことを知らないままにして、助けを求めるのが下手だった。

 

 今度は、分からないと言ってみよう。

 

 怖いときは、怖いと言ってみよう。

 

 それに、せっかく二度目の人生があるのなら、映画で見た悪役の役をそのまま演じなくてもいいはずだ。マルフォイ家の娘として、誇りを持つことと、誰かを傷つけることは同じじゃない。

 

 窓の外に、白い煙が長くたなびく。遠くに、山の稜線が見えた。

 

 私はローブの襟を整え、銀色の髪を耳にかけた。女の子になったことにも、マルフォイになったことにも、まだ答えは出ない。会社員だった自分が死んだことも、簡単には受け止められそうにない。

 

 でも、汽車は前へ進んでいる。

 

「ところで」とロンが言った。「さっきから、変なことを考えてる顔してるぞ」

「そう?」

「うん。なんか、困ってるみたいな」

 

 私は一瞬だけ迷った。マルフォイらしくない、と記憶のどこかが囁く。

 

 それでも、正直に答えた。

 

「たぶん、困ってるの。自分のことが、まだよく分からなくて」

「そっか」とハリーが言った。「俺も、分からないことばかりだ」

 

 ハリーの言葉は、慰めというほど立派なものではなかった。けれど、胸の奥で固まっていた何かを、少しだけ緩めてくれた。

 

「じゃあ、着くまでに少しずつ考えましょう」

「マルフォイが、俺たちと?」ロンが疑わしそうに言った。

「嫌なら、無理にとは言わないわ」

「いや、そういうわけじゃ……」

「なら、決まりね」

 

 私は自分の口調に、少しだけ笑ってしまった。

 

 汽車の窓に映った少女も、ほんの少し笑っていた。

 

 これから先、何度も失敗するだろう。魔法の授業で呪文を間違えるかもしれないし、マルフォイ家の期待に反発して、父とぶつかるかもしれない。ハリーと仲良くなれる保証もない。未来を知っているつもりで、肝心な場面を忘れているのだから、先回りして誰かを救うなんて簡単にはできない。

 

 それでも、少なくとも今は、ひとつだけ決められる。

 

 誰かに言われた役を、何も考えず演じるのはやめる。

 

 汽車がカーブを曲がり、窓の外の景色が大きく流れた。新しい学校、新しい友人、そして、男の子だったはずの自分とは違う身体。

 

 頭の中はまだぐちゃぐちゃだ。

 

 私は小さく息を吐いて、ハリーとロンに向き直った。

 

「ところで、ホグワーツって授業は厳しいのかしら?」

「さあ。俺も知らないよ」とハリー。

「俺は、食堂が楽しみだな」とロン。

 

 その答えに、私は肩の力を抜いた。

 

 この世界で最初に覚えることが、魔法の呪文でも、マルフォイ家の作法でもなく、誰かと同じ車内で他愛ない話をすることだったとしても、悪くない。

 

 ……いや、やっぱり女体化の理由は気になる。そこはあとで必ず調べる。記憶の中では男の子だったはずのドラコが、なぜ女の子なのか。そもそも、前世の私は本当に死んだのか。気になることは山ほどある。

 

 でも、今はひとまず。

 

 ホグワーツへ向かう汽車の中で、私はマルフォイとして、そして前世の私として、初めて自分の意思で席を選んだのだった。

 

「……いったい、どうなってるんだフォイ」

 

 ハリーが吹き出し、ロンも笑った。

 

 私も、つられて笑った。

 

 汽車は、魔法の学校へ向かって走り続けていた。

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