ホグワーツ特急を降りると、冬の空気が頬を刺した。
迎えの馬車に揺られ、マルフォイ邸へ向かう。窓の外には、雪をかぶった木々が流れていった。学校を離れた安堵よりも、これから父上に何を聞かれるのかという緊張の方が大きかった。
成績や授業のこと。エレノアと親しくなったこと。それなら話せる。
ハリーやハーマイオニーのことは、どこまで話せばいいのだろう。スリザリンで感じている居心地の悪さは、話すつもりがなかった。
馬車が止まり、扉が開く。出迎えた屋敷しもべ妖精が、私の荷物を抱え上げた。
「お荷物をお持ちいたします、マルフォイ様」
「あ、ありがとう」
妖精は一瞬、目を丸くした。それから小さく頭を下げ、荷物を持って屋敷の中へ入っていった。
その様子を、少し離れた場所にいた父上が見ていた。何か言われるかと思ったが、父上は何も言わず、母上の方へ歩いていった。
母上は玄関まで迎えに出てきた。
「お帰りなさい、ドラコ」
「ただいま、お母様」
母上は私の頬に手を添え、顔を確かめるように見つめた。
「少し痩せたかしら。学校の食事は足りているの?」
「大丈夫よ。元気にしていたわ」
母上の指が、頬に残る薄い線のそばで止まった。
「これは?」
「学校で少し、怪我をしたの。でも、もうほとんど治っているわ」
「そう。痛みはない?」
「ないわ」
母上はそれ以上尋ねず、私の肩に積もった雪を払った。
「長旅で疲れたでしょう。夕食まで部屋で休むといいわ」
問い詰められなかったことに、私はほっとした。その安堵を、申し訳なくも思う。
屋敷の中は、学校とは違う静けさに包まれていた。磨かれた床には窓の明かりが映り、壁にはマルフォイ家の先祖たちの肖像画が並んでいる。肖像画の人々は、通りかかる私を見て満足げにうなずいたり、品定めするように目を細めたりした。
ここでは、何も言われなくても、マルフォイ家の娘として見られている。
自室には、学校へ行く前と同じ家具が置かれていた。机の上には母上が整えた花瓶があり、暖炉にはすでに火が入っている。窓辺には、幼いころに使っていた本が何冊か並んでいた。懐かしいものに囲まれているのに、すぐにくつろぐ気にはなれなかった。
夕食の席で、父上は銀のナイフを皿の脇に置いた。
「学校はどうだった?」
いつか聞かれると分かっていた問いなのに、喉が少しこわばる。
「授業は順調よ。成績も悪くないと思うわ」
「そうか。どの授業が気に入った?」
「変身術と魔法薬学。それから、防衛術も興味深いわ」
リドル先生の仮面が頭をよぎった。青白い肌と細い口元。父上に先生のことを話せば、仮面の理由まで尋ねられるかもしれない。
「防衛術の教師は、リドル先生だったな」
「ええ。危険な魔法の痕跡について教わったわ」
「経験のある教師から学べるのは幸運だ。だが、教師の言葉をそのまま信じるのではなく、自分で考えることも忘れるな」
父上は穏やかな口調だった。けれど、言葉の端には、マルフォイ家の娘として身につけるべき慎重さがにじんでいる。
「分かっているわ」
「授業についていけているなら結構だ。マルフォイの名を持つ者は、学ぶことを怠ってはならない。知識は、いざというとき自分を守る盾にもなる」
「はい」
父上の助言は、間違っていない。けれど、正しい言葉だからこそ、期待を裏切れないという重さも一緒に背負わされる気がした。
「友人はできたか?」
私はナプキンの端を指で整えた。
「同じ部屋のエレノア・ロウルと、少し親しくなったの」
「ロウル家の娘か」
父上の表情がわずかに和らぐ。
「そうよ。同室なの。落ち着いた子で、よく気にかけてくれるわ」
「ロウル家の娘なら申し分ない。付き合う相手は、慎重に選びなさい」
エレノアと過ごす時間を、父上は知らない。あの夜、談話室で紅茶を差し出してくれたことも、私がスリザリンで浮いているときに、そっとそばにいてくれたことも。
父上にとっては、まず家の名前が大切なのだ。
「ええ」
その返事は、エレノアを友人として大切に思っていることへの同意なのか、ロウル家の娘だから付き合うべきだという父上の考えへの同意なのか、自分でも分からなかった。
「ほかには?」
父上の視線が、まっすぐ私に向いた。
「ポッターとは、話したことがあるのか?」
心臓が一度、強く打った。
「ない」と答えることはできない。汽車で話したし、ネビルの思い出し玉を返した。決闘を取り消した夜には、三つ頭の犬にも一緒に遭遇した。
けれど、そのすべてを父上に話す気にはなれなかった。
「学校で、少し話したことはあるわ」
「どんな話を?」
「授業や学校のことよ。特別に親しいわけではないわ」
それは嘘ではなかった。けれど、ハーマイオニーと一緒に箒の異変を整理したことや、ハリーが無事でよかったと思ったことは、言葉にしなかった。
「友人なのか?」
私は答えるまでに、少し間を置いた。
「まだ、そう呼べるほどではないと思う」
そう言ってから、自分の言葉が少し気になった。では、あの子が箒から落ちそうになったとき、私はどうしてあんなに怖かったのだろう。
父上は私の顔を見つめた。何かを見抜こうとしているのか、それとも言葉を選んでいるのか。表情からは分からなかった。
「ポッターの周りには、いつも騒ぎが集まる。有名だからといって、近づきすぎる必要はない」
「分かっているわ」
「マルフォイの名を背負っている以上、周囲からどう見られるかも考えて行動しなさい。だが、学校で困ったことがあれば知らせること。一人で抱え込むのは賢明ではない」
「はい、父上」
その言葉は、私を心配してくれているようにも聞こえた。家名を守るための忠告にも聞こえた。どちらか一方だと決めることはできなかった。
*
夕食のあと、自室へ戻ると、母上が温めたミルクを持ってきてくれた。カップを受け取り、私は暖炉のそばに腰を下ろす。
「学校では、楽しく過ごせている?」
母上に尋ねられ、すぐには答えられなかった。
「楽しいこともあるわ」
「そう」
母上は、それ以上答えを求めなかった。私の手元に目を落とし、ミルクが冷めないうちに飲むよう促してから、部屋を出ていった。
楽しいこともある。それは本当だ。
エレノアと話す時間。ハリーが手を振ってくれたこと。ハーマイオニーと図書室で過ごした時間。
けれど、その話をするとき、父上や母上がどんな顔をするのか、私にはまだ想像できなかった。
温かなミルクをひと口飲む。
この屋敷は、私の帰る場所だ。
それでも、学校で過ごした日々のすべてを、ここへ持ち帰ることはできなかった。