入学二日目の朝、今日こそは理事長に忍び込まれないように窓の鍵も掛けた。ドアの鍵もしっかりと掛けて、これで何処からも侵入出来ないはずだ。
「此処に来てからゆっくりと着替えも出来て無いんだよな……」
何故だか分からないけど、理事長も早蕨先生も僕のことを可愛がってくれる。それは嬉しい事なんだけども、何事も行きすぎは良く無い。
「高校生にもなって、着替えを手伝ってもらうなんて恥ずかしいよ……」
背も小さく、見た目も女の子みたいな僕だけでも、これでも男なのだ。異性に着替えを覗かれるのは恥ずかしいのだ。
「それにお風呂……」
何かにつけて一緒にお風呂に入りたがる二人。僕としては一人でゆっくりとお風呂に浸かりたいんだけども、二人はそれを許してくれないのだ……
「家賃がタダになったのは嬉しいけど、やっぱり他の場所探そうかな……」
校内でアルバイトすれば、ある程度のお金は稼げるかもしれない。そのお金で安い別の物件を探せば一人の時間が作れるかも……
「駄目よ、此処から出てくなんてさせないんだから」
「うわぁ!? 何で、何処から……」
「いくら元希君が警戒しても、お姉さんには敵わないのよ」
考え事をしながら着替えていたのに、何時の間にか理事長に手を押さえられていた。
「さぁ、脱ぎ脱ぎしましょうね~」
「何で僕の部屋に理事長が……」
「昨日約束したでしょ? 名前で呼んでって」
「あうぅ……何で恵理さんが僕の部屋に……」
「何でって、一緒に寝たからに決まってるでしょ?」
「うえぇ!?」
昨日僕は確かに一人で寝たはずだ。それなのに一緒に寝たって……如何いう事なんだ?
「ね、涼子ちゃん」
「おはよう、元希君……」
「早蕨先生まで……!?」
何故かいきなり早蕨先生にキスされた……
「姉さんの事は名前で呼ぶのに、私の事は苗字で呼ぶ悪い口は塞いじゃいます!」
「あうぅ……」
「あー! 涼子ちゃんズルイ! 私も元希君とキスするー!」
こうして今日も、朝から二人の全属性魔法師にからかわれて、僕の一日が始まる……何か嫌な始まり方だよね……
寮から学園に移動して、S組の生徒にしか分からない場所から教室に入る。S組の生徒以外がこの場所に来ようとしても絶対に辿り着けないらしいのだ。
「あ、元希おはよー」
「おはよう、炎さん」
「おはようございます、元希様」
「元希さん、今日も可愛らしいですね」
「あうぅ……美土さん、僕は男だよぅ」
「でも、元希君は可愛いってボクも思ってる」
「僕なんかより皆の方が可愛いよ……」
大体僕は男で、皆は女の子なのだ。僕なんかよりも可愛いのは当然だし、特に意識して言った訳では無い。だけどこの言葉で四人は程度の差はあるけども、顔を赤らめた。
「あれ? 僕おかしな事言ったかな……」
「もう! 元希ってナンパ師の素質があるんだね」
「元希様に可愛いと言われました……」
「お姉さんにそんな事言って、やっぱり可愛いんだから」
「うわぁ! 美土さん、離してよぅ……」
「ウリウリ」
「御影さん、目が回る~……」
美土さんに抱きしめられ、御影さんにウリウリされて、僕は目を回してその場に倒れる。霊峰学園に来てから、絶対一回は倒れてるような気が……
「皆さん、おはようございま……す?」
涼子さんが教室に入ってきたようだけども、僕の姿をみて言葉に詰まったようだ……だって僕は今目を回して床に倒れこむ直前だったのだから……
「元希君! 大丈夫ですか!?」
「うにゅぅ……」
床に倒れこみ、少し休む……ウリウリは危険だよぅ……
「とりあえず席に座らせましょう。皆さん手伝って下さい」
涼子さんに持ち上げられ、僕は自分の席に運ばれる。炎さんと水奈さんは僕の荷物を机に置いてくれ、美土さんと御影さんは椅子を引いたりしてくれている……なんだか情けないような気がするよぅ……
「ゴメンなさい、もう大丈夫です……」
回っていた世界も元通りになり、僕はみんなに頭を下げる。
「謝らないでください。わたしたちがやり過ぎちゃったんですから」
「ゴメン、反省してる」
「ううん、やっぱり僕が目を回したのがいけないんだよ……」
三人で謝り続けた所為で、HRの大半の時間を消費してしまった。
「えっと、それじゃあ落ち着いたところでクラス委員を決めたいと思います。まぁ名誉職だから進んでやりたいなんて人は居ないでしょうからね。誰か推薦したい人は居ますか?」
正直炎さんや美土さんが良いと僕は思う。炎さんはリーダーシップがありそうだし、美土さんは落ち着いた雰囲気があるから……たまにおっとりしてるけどね。
「元希が良いと思います」
「私も元希様を推薦しますわ」
「わたしも~、元希さんなら出来ると思います」
「ボクも」
「うえぇ!? 何で僕? 僕なんてそんなクラス委員なんて出来ないよ……」
振り回されるばっかで、とてもクラスを纏めるような事なんて……自分で言ってて情けないけども、こればっかりは事実だもんね……
「大丈夫よ。先生も元希君なら出来ると思うわ」
「あうぅ……」
「クラス委員って言っても、他クラスとの連絡の取り合いとか、対抗戦の時のくじ引きとかしか仕事は無いし、Sクラスは人数も少ないから簡単なのよ」
そんな事言われても、僕なんかよりも炎さんや美土さんの方がしっくりくると思うんですけど……って言えたらどれだけ楽なんだろうな……
「炎はいい加減な節があるし、美土はおっとりとして物事を忘れるから、やっぱり元希君が一番だと思う」
「また……そんなに僕って分かりやすいの?」
「元希君だって、慣れれば相手の思考を読む事くらい出来ると思うよ?」
「出来るようになりたくないよぅ……」
だって相手の思考を読むって事は、本音を聞くのと同じだもん……せっかく仲良く出来てるのに、本音が違ったらショックで学校にこれなくなっちゃう……
「それじゃあ、元希君がクラス委員って事で良いですね?」
「頑張ります……」
民主主義において、多勢に無勢では勝ち目が無いのだ……こうして僕はS組のクラス委員に任命されたのだった……
オリジナル作品はタイトルが難しいです……内容考えるのもですが……