教室に着き、僕は何となく炎さんに見られている感じがしたので炎さんの方に視線を向けると、炎さんだけではなく全員に見られていた。
「えっと……何か?」
「元希様! お身体の具合はもう大丈夫なのですか!?」
「あまり無理しないで、お姉さんに頼ってくれてもいいのよ?」
「朝お風呂で炎に頼ったように、ボクにも頼ってほしいな」
「アハハ……ゴメン、元希。バレちった」
なるほど……それで炎さんが謝るような視線を僕に向けていたのか……それにしても、みんな凄い勢いだよね、感心してしまう。
「とりあえずは大丈夫だし、朝のアレは完全に偶然だから……僕から頼んだ事でもないんだしさ」
「そうなのですの?」
「炎は元希君に頼まれたって言ってたけど」
「良く考えれば、元希さんがそんな事頼むはずないわよね」
「てか、アタシは頼まれたなんて一言も言って無いぞ?」
つまりは三人の早とちり。炎さんの説明不足とも言えなくは無いかもしれないけど、とりあえず誤解は解けたようで安心した。
「主様、本当に大丈夫なんじゃな? キツイと感じたらワシを頼ってくれても良いんじゃぞ?」
「うん……ありがとう、水」
でもそんな事言いだすと、張りあうような子がいるんだよな……
「元希こんななったの、リンの所為。だから元希、リンを頼る!」
ほらやっぱり……今まで黙ってた水とリンが言葉を発したらこうなるのは何となく分かってた……うん、分かってたんだけどさ……
「黙れ小娘! ワシが先に主様に頼っても良いと言ったのじゃ! 新参者は引っ込んでおれ!」
「元希の不調、リンの所為! だからリンが元希の事カバーする! 無関係者は黙る!」
「無関係じゃと!? ワシと主様はお主が現れる前からの付き合いじゃ! 無関係なのはむしろお主の方じゃろうが! ワシと主様の間にはお主には無い絆があるからの!」
絆って……もしかして主従契約の事じゃないよね? そんなのを絆として誇示するのはどうかと思うし……そもそも水は望んで無かったような気もするんだけど……
「ほらほら、何時までも言い争ってないで。辛かったらみんなに頼るからさ。ね?」
「主様が言うなら仕方ないの……」
「元希、約束!」
「うん、約束するから」
四人は生温かい目で見ていたので、これは僕が止めるしかないんだろうと理解したので仲裁に入る事にした。思ってもらえる事は嬉しいけど、何かみんな過剰なんだよね……美土さんとバエルさんは大人しいけど。
「そういえば、一時限目って合同授業じゃなかったか? 急がないと遅刻するぞ」
「HRがあるんじゃないんですの? 早蕨先生もまだいらしてませんし」
「ですが、時間的にはそろそろ移動しないといけませんね……」
「元希、何か聞いてない?」
「……え? えっと、確か涼子さんは土地の調査があるから朝はいないって恵理さんが言ってたような……でもHRは恵理さんが代理でやるとか言ってたんだけど……」
あの人、もしかして忘れてるんじゃないだろうか……携帯を取り出して恵理さんに電話を掛けてみる事にした。
『元希君? 何かあったのかしら?』
「えっと、涼子さんの代理でHRをするんじゃなかったでしたっけ?」
『特に連絡事項は無いわ。そろそろ移動しないと遅刻するから急いでね』
「そういう事は教室に来て言ってくださいよ!」
やっぱり忘れていたようだった……何事も無い風を装ってるが、恵理さんの言葉には所々焦りの色が見え隠れしていたのだ。
「どうやら忘れてたみたい……とりあえず移動しようか」
「そうだな! よし、元希」
「なに? 炎さん」
「体育館まで競争しようぜ!」
「僕の何処に炎さんに勝てる要素があるのさ……」
魔法力や戦闘技術なら勝てるかもしれないけど、肉体的能力で僕が炎さんに勝てる要素など、僕自身から見ても見当たらないんだからさ……
「炎さん、廊下は走ってはいけませんよ?」
「元希さんはまだ万全じゃないんですから、炎の相手なんてしたら悪化しちゃうわよ」
「元希君はボクたちと一緒にゆっくり行くから、炎は先に行ったら?」
「それじゃあ、つまらないだろー! 仕方ない、ゆっくり行くか」
水奈さん、美土さん、御影さんの説得のお陰で(?)炎さんもゆっくりと体育館に向かってくれる事になった。遅刻するのは嫌だったけど、廊下を走るのは何処の学校でも禁止されてるし、そもそも恵理さんが原因でこんな事態になってるんだから、少しの遅刻くらいなら許してくれるだろうしね。
クラス公認の弟的存在、になりつつある……でもヒロインたちは好意を持って接しているんですけどね。