昨日の注意が意外と効いているのか、テントで寝る時もリンと水は僕の隣で寝ようとは思わなかったらしい。なので僕はテントの中で端っこで寝る事が出来た。ちなみに隣はバエルさんだ。
「何だか新鮮な気分だったな」
何時もなら、両サイドに誰かしらの気配を感じながら寝ていたのだけども、今日はバエルさんの気配だけ。しかもバエルさんは炎さんや水奈さんのように抱きついてきたり、恵理さんや涼子さんのように僕の寝袋に侵入してくる事も無いので、安心して眠る事が出来た。
「とりあえず、結界の様子は問題なさそうだし、水があの辺り一帯の水質管理を引き受けてくれたからそっちの問題も片付いたからね。今日はゆっくりとしよう」
昨日みたいにお風呂に入らなかったから、という事も無いので、今朝はお風呂に向かう必要も無いし、朝食当番でも無いので、もう少しだけ寝ようと思い目を閉じた。
「元希さん、起きてますか?」
「起きてますよ。バエルさん、おはようございます」
横から声を掛けられて、僕はそっちに顔を向けて目を開けた。視界いっぱいにバエルさんの笑顔が飛び込んできたのだった。
「ち、ちょっと近いですね……」
「ご、ごめんなさい……寝返りを打ったらこの距離になってしまって……」
四人用とは言っても、リンと水がなるべく距離を取りたがっていたので、僕とバエルさんは本当に隅っこのスペースを使って寝たのだ。だからバエルさんが言うように、寝がえりを打っただけでもこんな距離になってしまうのだ。
「リンさんと水さんはまだ寝てますね」
「昨日反省して疲れたんじゃないですかね? 普段はそれ程反省する事の無い二人ですし、僕と出会う前は二人とも神様でしたので」
「そう考えると、元希さんは神様にお説教したという事になるんでしょうか?」
バエルさんの顔は、少し面白がっているのが隠せていなかった。普段は真面目に話相手になってくれるバエルさんだけども、ちょっとしたからかいはたまにあるのだ。
「今の二人を神様だと表現するのは、他の神様に失礼だとは思いますけどね」
「妹みたいな感じですものね。元希さんは二人になんだかんだで甘いところがありますからね」
「そんな事……」
無い、と言い切れるだけの根拠が、僕の中には無かった。むしろ甘やかしている記憶しか無く、バエルさんの言うように僕は二人に甘かったのだ。
「なんだか情けなくなってきましたよ……」
「優しいお兄ちゃんだから、二人は元希さんに懐いているのだと思いますけど?」
「僕と水の関係は、主と使い魔ですし、リンとの関係だって、兄妹では無いんですけどね……僕が甘いからそんな感じになってしまってるんですよ……」
「そんなに落ち込むような事ではありませんよ。それに、私だってみんなのお姉ちゃんみたいに思われてますけども、同い年なんですからね」
「ご、ごめんなさい……」
バエルさんは確かにお姉ちゃんぽいので、ついついみんな甘えてしまうのだが、彼女の言うとおりバエルさんは僕たちと同い年、甘えるのはほどほどにしなければいけないのだろう。
「私だって偶には甘えたいと思う時だってあるんですからね」
「そうなんですか? 僕で良ければ聞きますけど」
バエルさんでも誰かに甘えたいと思う時はあるんだ。僕は普段甘えたいと思った時はバエルさんに甘えているので、そのバエルさんが甘えたいなどと思ってるとは全然気づかなかった。
「それじゃあ元希さん、私と一緒にお風呂に入ってください」
「お風呂……ですか?」
「元希さんの頭とか背中を洗いたいんです」
「それだけで良いのなら……」
「もちろん、私のも洗ってほしいですが」
なるほど……昨日の炎さんの行動が羨ましく思えたんだろうな。それにしても、バエルさんがそんな事を思っていたなんて気づかなかったな……
「それでは、リンさんと水さんが起きる前に、お風呂に行きましょうか」
「そうですね」
まぁ、バエルさんなら他の人のような行動は取らないだろうし、僕も幾分か安心してお風呂に入る事が出来るだろうしね。
二人でお風呂に入った結果、僕は他の人とは違う感じでお風呂からあがる事が出来た。バエルさんはやっぱり僕にとって安心して付き合える人だったと確認出来たし、何だか別の意味でドキドキしたような気もしたけど、この気持ちは何なのだろう……何時か分かるのかな?
断じてお姉さんでは無い! と言う事で短期間に二度目の甘いシーン……