今日は久しぶりに実戦訓練の授業に参加する事が出来る。最近は化け蟹退治をして魔力をギリギリまで使いはたしたり、土壌汚染を食い止めるために結界に魔力を割いていた為に、授業で使える魔力に制限が掛かっていたので授業には参加せずにいたのだが、漸く何の制限も無く授業に参加する事が出来る。
「元希様が実戦訓練に参加するのは久しぶりですわね」
「仕方なかったとはいえ、元希さんがいなかった数回は、かなり苦戦しましたものね」
「司令塔になれる人間がいなかったからだろ。水奈も美土も好き放題魔法を放ってたし」
「炎が言える事じゃないと思う。もちろん、ボクもだけど」
「あはは……見てたから知ってるよ」
仮想世界での戦闘だったから良かったけど、この数回の実戦訓練で、四人は結構危ない戦い方をしていたのだ。四人共実力はあるし、連携も申し分ないものがあるのに、何故か全員が前に出ようとしてぐちゃぐちゃになっていたりしてたしな……
『聞こえてる? そろそろ始めるからね』
『今回はくれぐれもこの前みたいな事にはならないように注意してくださいね』
恵理さんと涼子さんの注意が聞こえ、四人は同時に視線を下に向けた。反省しているのと、自分たちでも自覚していたので、改めて言われると心に響いたんだろうな。
『今回はそれ程強い設定にはしないから、しっかりと連携を取って、確実に仕留めてね』
『全部で三体。属性は火、土、闇の三つ、種族はオーガです』
敵の説明を受け、僕は咄嗟にこの世界に影を飛ばす。何時、何処に現れてもすぐに対処出来るように、現れる前から探しておくのがこの授業の鉄則だ。
「北方向に一体、南に二体……北のオーガは闇属性だから、こっちは僕と御影さんで対処する。南の二体だけど、南東が火で南西が土だね。こっちは三人で対処出来る?」
さっそく現れたオーガの情報を四人に教え、どう戦えば一番効率が良いかを伝える。一番良いのは、僕が南の二体を引き受けるという事なのだけども、それじゃあ授業の意味が無いと仮想世界に来る前に恵理さんと涼子さんに釘を刺されたのだ。
そうなるとこの布陣が最も効率よく敵を倒せるのだけども、三人で二体は少し厳しいかもしれないのだ。
「足止めくらいなら出来ますけど、わたしたち三人じゃどちらかを倒している間に背後から叩かれそうですね」
「火属性のオーガは私が引き受けますので、土属性の方は炎さんと美土さんにお願いします」
「了解。さっさと倒して援護に回るとするか!」
ヤル気満々の炎さんだけども、今回の敵はそれほど簡単に倒せるような相手では無い。それ程強くは無いが、それは同時にそれ程弱くも無いのだ。魔法大家の人間とはいえ、高校一年生が楽に倒せる相手ではないかもしれないのだから、出来るだけ早く一体を倒して、僕も三人の援護に回った方が良いのだろう。
「それじゃ、僕と御影さんは行きます。三人は出来るだけ怪我の無いように戦ってくださいね」
「元希君、敵が動いてる」
「分かってる。それじゃあ気をつけて」
三人に念を押して、僕と御影さんは北方面に向かう。オーガは素早くは無いが攻撃に重さがあるので、僕や炎さんのように身体の小さい魔法師ならば、掠っただけで吹き飛ばされる可能性だってある。仮想世界とはいえ、それなりに痛みは感じるだろう。
「あそこだね。とりあえずボクが足止めを……」
「いや、僕が注意をひきつけるから、御影さんが倒して」
今回の授業の目的は、僕が倒すのではなく他の四人がオーガを倒す事にある。生徒でありながら何故教官みたいな立場で参加しなければいけないのかと抗議はしたけど、恵理さんと涼子さん相手にあえなく言いくるめられたのだ。
「でも、ボクは攻撃性の魔法はあんまり……」
「うん。だから御影さんにはコイツで練習してほしいんだ」
幸いにして、今の僕は他の事に魔力を割いていないので、コイツ一体を足止めするくらいは楽勝に出来る。だが御影さんが倒せるかどうかは、彼女の気持ち次第の所が強いので、あんまり気弱になられると倒せない可能性が大きくなってしまうのだ。
「練習だし、最悪でも痛い思いをするだけだからさ。気楽にやってみなよ」
「……分かった。何時までも元希君のワンマンクラスだと言われたくないもんね」
別にワンマンでは無いし、四人だってかなり高い魔法的性と攻撃力を有しているんだから、それほど卑下する事も無いと思うんだけどな……
彼だけ実力が飛びぬけてますからね……普段は頼りなさそうですが……