残りのオーガも倒して、僕は観察している恵理さんと涼子さんに声を掛ける。
「今回はそれ程強くない設定のはずでしたよね? それなのに、どうして四人が苦戦したんですか?」
『ごめんなさいね。「私たちの基準」ではそんなに強く無かったのよ。実際に元希君はそれほど強いとは感じなかったでしょ?』
「それはそうですけど……いや、そうじゃなくてですね」
実力を見たかったとはいえ、これではどれほどの力なのか分からないし、結局は僕が倒したのだから今回の授業の意味は殆ど無くなったと言っても過言ではない。
『まぁ、誰も怪我無く終わったんだから良いじゃないの。元希君も久しぶりに戦闘訓練をやってストレス解消になったでしょ?』
「別のストレスがたまりそうですよ……」
恵理さんの言葉を鵜呑みにした自分にも責任があるのだが、これほどまでにオーガを強く設定していたとは聞いていない。おそらく僕が架空世界に来た後で設定を変えたのだろう。
『ごめんなさい、元希君。姉さんの暴走を止められなくて……』
『ちょっと、涼子ちゃん! 貴女だって納得したでしょ! 悪いのは私だけじゃないわよ!』
「……とりあえず僕たちを現実世界に戻してください。事情はそこで聞きますので」
言い争う二人に、僕はそう提案した。喧嘩するのも別に構わないのだが、操作してもらわないと僕たちはここから出られないのだ。
「元希、今回はアタシたちの未熟さが良く分かったよ……」
「そうですわね。Sクラスという事で、何処かに驕りがあったのかもしれませんわね」
「普段は元希さんが指示を出してくれますし、万が一があっても元希さんが助けてくれるとどこかで安心していたのかもしれません」
「ボクも元希君に足止めしてもらってたのに、全然倒せなかった……苦手だからといって訓練を疎かにしちゃいけなかったんだ……」
四人がそれぞれ反省しているけど、僕から見れば四人は良く戦ったと思う。設定が高かったから倒せなかっただけで、普通に出現する魔物レベルなら十分に通用するだけの戦闘技術、そして連携も取れていた。だけど今ここでその事を言っても、四人には僕が慰めているとしか思えないかもしれないので口にはしない。反省して更なる高みを目指そうとしているのだ。ここで無粋な事を言ってその意欲を削ぎ落すのは失礼だろうしね。
「お帰りなさい。元希君、お疲れ様でした」
出迎えてくれた涼子さんの両脇から、勢い良く僕に何かが飛び込んできた。
「主様!」
「元希!」
「うわぁ!?」
飛び込んできたのは、もちろん水とリンだ。架空世界には連れて行けないと説明して、何とかモニター室に留まっていてもらっていたのだが、現実復帰と共に突撃は止めてもらいたかったよ……
「元希! 何故リンを召喚しない! アイツだけ召喚、ズルイ!」
「お主は主様と契約していないじゃろうが! ワシは主様と契約しておるからの! 何処におっても主様の詠唱一つでワシは何処でも駆けつけられるのじゃ」
「あの……喧嘩なら僕の上じゃないところでしてくれない? 重くは無いけど動けないんだけど……」
水が自慢げに僕との関係をリンに言い、その事でリンがムッとして一発触発の雰囲気を醸し出していたので、とりあえず退いてもらおうと思って声を掛けた。すると何故か二人とも僕に鋭い視線を向けてきたのだ。
「な、なに……?」
「主様はこのおちびよりワシの方が大切じゃよな!?」
「元希はリンの方が大事? それともコイツ?」
「え、えっと……僕は二人とも大切だと思ってるし、その気持ちに優劣は無いよ。だからとりあえず退いて……」
「そんな綺麗事は聞きたくないの! このちびとワシ、どちらがより主様にとって大事かを聞いておるのじゃ!」
「元希、ハッキリ言う!」
「いや、だからさ……」
あ、あれ? もしかしてこれって無限ループなのかな……どちらかを答えないと永遠に先に進めないとか……某RPGの選択肢じゃないんだから、そんな事無いよね?
「二人とも、そろそろ元希君の上から退いて。大切な話があるんだから」
「じゃが恵理! こやつとの因縁もそろそろ決着をの……」
「退・き・な・さ・い!」
「「は、はいぃ……」」
恵理さんの怒った顔を見て、水とリンが震えあがりながら抱きあう。普段は息の合わない二人だけども、こういった時だけは息ピッタリなんだよね……
理事長兼大家さんを怒らしてはいけない……