その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

11 / 245
ずば抜けた才能の持ち主は、奇異の目で見られる事もあるそうですね。


周りの目

 二日目も難なく過ごせたけど、まさかクラス委員になっちゃうなんてなぁ……正直僕はトップなんて務まる器じゃないんだよね……

 

「はぁ……如何にかならないかな……」

 

「元希君、あんまり余所見してると危ないわよ?」

 

「あっ、早蕨先生……」

 

「ムッ!」

 

「あうぅ、涼子先生」

 

 

 名前で呼ばないと何かされそうな雰囲気になったので、僕は慌てて呼びなおした。でも、教師なのに生徒に名前で呼ばれても良いのだろうか……それとも皆名前で呼んでるのかな?

 

「それで、何をそんなにションボリしてたのかな? 先生に相談してみて」

 

「クラス委員の事で……僕は炎さんか美土さんが良いと思ったんですけど……」

 

「あら、多数決で決まったのよ? 今更弱音を吐くなんて男の子らしくないわよ」

 

「あうぅ……」

 

 

 そう言われちゃうと何も言えなくなっちゃうよぅ……見た目が男らしくないから、せめて中身くらいは男らしくなりたいと常々思ってる僕には、あの言葉はかなり効くのだ……

 

「それにね、私や姉さんも元希君がクラス委員になってくれるのが一番嬉しいのよ」

 

「何でですか?」

 

「折角凄い才能を持ってるのに、元希君はそれを凄いとは思って無いでしょ? だから他のクラスの委員と交流を持つことで、元希君には自分の実力を自覚してほしいのよ」

 

「もしかして……クラス委員は別に戦闘をするとかなんですか?」

 

 

 そんな事になったら、僕は皆に負けちゃうよぅ……

 

「違うわ。明日と明後日行われるクラス対抗戦、勝利条件は全生徒の戦闘不能かクラス委員が負けを認めた場合。つまりクラス委員を真っ先に狙うのも一つの手なのよ」

 

「うえぇ!? 聞いてないですよ……」

 

 

 ただでさえS-1は在籍してる生徒が少ないのだ。その上クラス委員が僕だから……かなり勝ち目が薄いじゃないか……

 

「大丈夫。元希君なら絶対に勝てるから」

 

「ですが、僕はこの間初めて魔法戦闘をしたんですよ?」

 

「あの四人が特殊なだけで、普通は元希君と一緒よ。このクラス対抗戦が初めての戦闘だって子も少なくないの」

 

「あっ、そうなんですか」

 

 

 何だか安心出来たような。バーチャルな上にランクをかなり下げてもらったけど、僕は一回戦闘を行ったのだ。経験がある分有利になれるかも。

 

「だから、元希君はそんなに緊張しなくて良いのよ。落ち着いて挑めば、元希君は負けないんだから」

 

 

 そう言ってさわら……あ、いや……涼子先生はほっぺたにキスをしてくれた。モノローグでも名前で呼ばないと口に出す時に何時まで経っても慣れないしね……

 

「それじゃあ、早蕨荘に帰りましょうか」

 

「先生はまだお仕事があるんじゃなんですか?」

 

「大丈夫。授業が始まれば忙しいけども、今の時期はそんなに忙しくないのよ。特に私はS組担当だからね」

 

「?」

 

 

 それが何の関係があるのかなんて、僕に分かるはずもなかった。でもまぁ、涼子先生のおかげで少しは落ち着く事ができ……

 

「あれがS組のクラス委員だって」

 

「明日のクラス対抗戦、結構楽してS組に勝てるかもね」

 

「あの『魔法の大家』の娘たちの方が苦戦したわよ、絶対」

 

 

 やっぱり……それが周りの人たちの僕に対する評価なんだろうな……見た目も強そうでは無いし、こんな性格だから弱いって思われるんだよね……

 

「貴女たち! 陰口なんて私が許しませんよ!」

 

「あっ、ヤベッ! 早蕨だ!」

 

「逃げろ! アイツ全属性魔法師だってさ!」

 

「ウッソ! ホントに居るんだそんなヤツ」

 

 

 涼子先生が僕の悪口を言っていた女の子たちに注意して、その女の子たちは逃げ出した。それにしても、全属性魔法師ってやっぱり珍しいんだなぁ……

 

「まったく! 教師を呼び捨てにするなんて……」

 

「あの、涼子先生?」

 

「ん、何かな?」

 

「何で僕だけ名前で呼ばせてるんですか?」

 

 

 さっきの女の子たちは『早蕨』って呼んでたし……

 

「だって元希君は特別だからよ」

 

「特別? それって僕が先生たちと同じだからって事ですか?」

 

 

 まだ周りに人が居るので、全属性魔法師という単語を使うのを避けた。だって本当に珍しいってさっきの女の子たちの反応で分かってしまったから……

 

「それもあるけども、元希君は私の初キスの相手だもの」

 

「うえぇ!? 先生なら僕以外でも沢山相手居るんじゃないんですか?」

 

 

 だって入学式で普通科の男の子も、魔法科の男の子も涼子先生に見蕩れてたし……でもその後恵理理事長にも見蕩れてたような……

 

「正直、姉さんや私って奇異の目で見られてる部分があるのよ。だからどれだけ好意を向けられても、それを完全に信じる事が出来ないの。その点元希君はそんな事無いからね」

 

「そうですけど……でも僕が相手でよかったんですか?」

 

「元希君が良かったの!」

 

「あうぅ……」

 

 

 涼子先生に強く出られたら、僕は何も言えなくなっちゃう……男らしくと思っても、それはなかなか難しいんだよね……

 

「後で姉さんにも聞いてみたら? 姉さんも初キスの相手は元希君だから」

 

「うえぇ!?」

 

 

 恵理理事長だって、僕なんかじゃなくても相手なんて選び放題なんだろうけど……やっぱり全属性魔法師って珍しくて奇異の目を向けられるものなんだ……

 

「だから、元希君もS組の子たちとは仲良くしたほうが良いわよ。私たちを恐れないなんて、魔法の大家の子じゃなきゃ無理なんだからさ」

 

「そうなんですか……でも、僕は先生たちを恐れる事はありません。だって僕も同属なんですから」

 

 

 ちょっとでも安心してもらうとして言ったのに、その言葉に感動しちゃって涼子先生は泣きそうになっちゃった……

 

「あうぅ……泣かないでくださいよぅ」

 

「だって、元希君が嬉しい事言ってくれたから」

 

 

 ギューって抱きしめられ、僕は抵抗出来ずに意識を手放した……何時になったら気を失わずに一日を終えられるんだろう……




次回クラス対抗まで行くかな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。