その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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理事長ですし、ある程度は企める立場ですので……


恵理の企み

 恵理さんの迫力に負けて、水とリンは僕の上から退き、そそくさと向こうに逃げていってしまった。

 

「ありがとうございます、恵理さん」

 

「気にしないの。それよりも、今回の戦闘訓練だけど、元希君はどう感じた?」

 

「どう……とは?」

 

 

 何を聞きたいのかは何となく分かる。でも、ハッキリと訊かれて無い以上、僕は答える事が出来ない立場――てかあの四人と立場的には一緒なのだ。

 

「岩崎さん、氷上さん、風神さん、そして光坂さんの実力よ。この時期という事を考慮して判断する私たちとは違って、元希君は直接見た感じを答えて欲しいのよ」

 

「直接見た感じ……ですか? そうですね、まず御影さんはやはり攻撃性の魔法を苦手にしていますので、そこを強化するべきだと感じました」

 

「それで、他の三人は?」

 

「炎さん、水奈さん、美土さんの戦闘をじっくり見たわけじゃ無いので何とも言えませんが……あの設定のオーガを倒すには、もう少し周りとの連携と一発一発の魔法の威力を高めないとダメでしょうね。現に姿を隠したあの魔法は、オーガの視線を考慮していませんでしたし」

 

 

 普通の人間相手ならば、あの高さの目くらましで逃げる事は可能だったが、オーガの視線ではあの目くらましでは隠れ果せない。逃げたところで攻撃されるだけなのだ。

 

「なるほどね……じゃあ元希君は、あの四人……いえ、岩清水さんとアレクサンドロフさんを含めた六人を鍛えるには、どんなカリキュラムが良いと思う?」

 

「それは僕が考えるべき事ではありませんよ。先生たちが考えて、そして実行する事です。僕はあくまでも生徒なんですから、みんなに指示は出来ても指導は出来ませんからね」

 

 

 本当なら指示するのも偉そうで嫌なんだけど、みんなが偶に聞いてきたりするので、その時だけは指示してあげているのだ。

 

「じゃあ放課後、元希君も一緒にこの場所に来てほしいの。その事を全員に伝えておいてね」

 

「放課後、ですか? 何か特別な事でもするのでしょうか?」

 

「それは放課後のお楽しみよ。元希君には簡単かもしれないけどね」

 

 

 ウインクでも付いてきそうな感じで恵理さんは気軽にそんな事を言った。僕には簡単かもしれないことって、いったい何をするつもりなのか。そして、何故秋穂さんとバエルさんの実力まで僕に聞いて来たのか……僕は教師じゃないので、秋穂さんとバエルさんの実力を正確に把握しているわけではないのに……

 

「元希、理事長先生はなんて言ってたんだ?」

 

「えっとね、放課後にここに集まってほしいって。秋穂さんとバエルさんにも伝えておいてって」

 

「ここ、ですか? しかし放課後は特別な許可が下りない限り、架空世界での模擬戦闘訓練は禁止されているはずですが」

 

「恵理さんは理事長だし、ここ最近の魔物の発生頻度を考えると、僕たち一年でも出動しなければいけない機会があるかもしれないからね。そこら辺の事は僕には分からないけど、恵理さんが大丈夫って言うんだし、大丈夫なんじゃないかな」

 

 

 事情は深く聞かなかったし、聞いたところで僕にはどうする事も出来なかったので、僕は深く突っ込まずに恵理さんの言葉に従ったのだから。

 

「今日の訓練を見て、わたしたちに直接指導をしてくれるのではないでしょうか」

 

「でもそれなら授業でも十分出来ると思うんだけど」

 

「確かにそうだな。なぁ元希、もうちょっと詳しい事情は分からないのか?」

 

「うーん……さっきみんなの実力はどんな感じかって聞かれたから、それにも関係してると思う。あと僕には簡単かもしれないって言われた」

 

「元希様には簡単で、私たちにはそれなりに意味のある事……いったい何をさせられるのでしょうか」

 

「今から怯えていても仕方ないですし、とりあえずはご飯にしましょう」

 

「美土は相変わらずのマイペース……でも、確かに今から怯えてても仕方ないもんね」

 

 

 体育館から移動して、僕たちはご飯を済ませる事にした。みんなそれぞれ考えている事があるのだろうけども、何をするかは結局恵理さんの裁量次第だし、今から怯えるのも意味の無い事かもしれないから、この行動は気を紛らわせるには最適だったかもしれない。 

 ご飯を一緒に食べる為にS組に来た秋穂さんとバエルさんにも恵理さんからの伝言を聞かせたが、二人とも少し考えただけで、それ以上は何も聞いてこなかった。

 いったい何が目的で、どうして今日の放課後に何かをするのだろうか……僕は午後の授業中もその事をずっと考えていて、水とリンの事をすっかり忘れてしまって二人に怒られたのだった。




生徒の実力向上も仕事の一つですからね……

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