お風呂で作戦会議を終えた僕たちは、そのまま解散……という事にはならず、何故か僕の頭を誰が洗うかで揉めはじめていた。
「最近元希は秋穂やバエルと一緒な事が多いから、ここはクラスメイトの誰かだろ」
「ですが、炎さんはこの間元希様と二人きりでお風呂に入られたではありませんか」
「それを加味するなら、炎を除く三人で決めるべきですわね」
「公平にじゃんけんで決める?」
「ですが、じゃんけんだと美土さんが強すぎるのではなくて?」
僕は自分で洗えるし、この三人の誰かだと絶対に頭だけでは終わらなそうなんだけどな……
「主様! おるかの!」
「元希! 大変だ!」
「水、リンも……どうしたの、そんなに慌てて?」
三人が揉めているところに、水とリンが駆けこんできた。とはいってもお風呂に入りに来たわけではなさそうなので、僕はとりあえず二人を落ち着かせてから事情を聞く事にした。
「それで、何かあったの?」
「さっき恵理が調理をしていたのを見かけたのじゃが、何やら涼子と揉めていてな」
「その内容が、元希に食べさせる料理に媚薬を入れるとか入れないとかで」
「……何を考えているんだ、あの二人は」
正確には恵理さんは、と言うべきなのだろうけども、涼子さんも本気で止めて無さそうな感じがするので同罪だろう。もし本当に仕込んでいたのなら、僕はあの二人を攻撃するかもしれない。
「じゃから、もしムラムラしたらワシを襲うが良い」
「違う! 元希はリンを襲うべき。それが正解!」
「はぁ……とにかく、教えてくれてありがとう。でも、僕に教える前に二人で止めてほしかったな」
媚薬が入っているかなんて、僕には識別出来ないので、確実な平穏を手に入れるには、晩御飯を食べないという事しか無くなったのだ……あの二人を問い詰めて素直に白状するとは思えないからね……
僕の前に出されたご飯だけ、他のみんなと違う……これはおそらく媚薬を入れた料理を捨てて、僕にだけ別のものを作り直した結果だろう。食材を無駄にするなんて、なんてもったいないんだろう……
「ごめんなさい、元希君……姉さんの暴走を止められなくて」
「あら、涼子ちゃんだってノリノリだったでしょ? 元希君が暴走するとどうなるのかって」
「だからって、あんな量を入れたら死んでしまいますよ! 一滴で十分なのに、姉さんは瓶一本全て入れるんですから」
……なんて恐ろしい会話だろう。てか、涼子さんもノリノリだったんですか……これから自分のご飯は自分で用意した方が良いのだろうか。
「とにかくごめんね、元希君。君のだけ別の料理だけど、これには媚薬も入って無いし」
「当たり前です! 姉さんが全て使いきったので、手元には無いんですから」
「……あったら入れるつもりだったんですか?」
それだったら恐ろしい……恵理さんよりも涼子さんの方に警戒心を向けておかなければならないのだろうか。
「入れませんよ。私は元希君が暴走するところなんて、それほど見たかったわけじゃないんですから」
「そうよね。涼子ちゃんは暴走する元希君を見たかったんじゃなくって、自分が襲われたかったんだもんね」
「違います!」
……とりあえず、この料理は安全らしいから食べるとしよう。もし何か入っていてもそれほど強力ではなさそうだしね。
「元希さん、先ほどから向こうが騒がしい気がするのですが」
「バエルさんもですか? 実は僕も何か騒がしいなと思ってるんですよね」
あっちって確か、ゴミを一時的に置いている場所じゃなかったっけ……おそらくは失敗した料理もあそこに置かれているのだろう。
「主様!」
「元希!」
「うわぁ!? 二人とも、何食べてるのさ」
気になって見に来たら、水とリンが他のゴミとは別に置かれていた料理を食べていた……それって媚薬が大量に入ってるんじゃ……
「何だか暑いのぅ……服を脱げばいいのじゃな」
「元希、身体が暑い……何とかして」
「分かってて食べたんだよね? 何でそんな事を……」
暴走しかかってる二人を止める為に、僕はまず二人を足止めして、止まった二人に催眠魔法を打ち込んだ。これでとりあえずは落ち着いたし、後は薬が切れるまで大人しくしててもらおう。
進展を狙った行動とはいえ……