バエルさんと二人で早蕨荘の掃除を済ませた僕は、確認の意味も込めてリンが治めていた雑木林に立ち寄る事にした。最近では元々の風景に戻りつつあるこの場所だが、環境が戻ったからと言って、在来種が戻ってくる訳では無い。そこら辺は気長に待つしかないのだ。
「異変はなさそうかな」
「元希さんは大変ですね。こんな事もしているんですね」
「土地神様のリンの記憶が戻れば、僕の仕事では無くなるんですけどね……」
その記憶が戻る兆候すら無いのだ。そもそも最近は、リンの記憶探しに付き合う時間も無くなってるし、リンも記憶を取り戻そうとしてないし……もしかしてこのまま僕がこの土地を管理しなければいけないんだろうか……
「私がお手伝い出来れば良いんですけどね……」
「バエルさんは十分助けてくれてますよ」
主に精神面で大いに助けてもらっている、などとは言えないけどね。だけどあのメンバーの中に、バエルさんがいてくれるだけで精神的疲労が抑えられている気がするのだ。偶にバエルさんも悪戯を仕掛けてくる時もあるけども、大抵は僕と一緒にツッコミを入れてくれたり、僕の苦労を分かってくれるので助かっているのだけども……
「今日はゆっくりお風呂に入りたいけど、炎さんたちが許してくれないだろうな……」
「では夜中に入ったらどうです? その時間なら誰もいないと思いますけど」
「そうなんでしょうけども、僕も寝てますよ、そんな時間だと……」
「そうですね……そうなると早朝になるんですけど、この前炎さんとはち合わせたんでしたっけ」
「まさかあんな時間に炎さんがお風呂に入ってるなんて思いませんでしたよ」
偶々早くに目が覚めて、偶々運動したから汗を流してサッパリしたかったらしいんだけども、あれ以降怖くて朝風呂も遠慮してるのだ。
「難しいですね……寮でも全員一緒に入るのが決まり事ですし」
「恵理さんが急に作ったルールらしいですけど、涼子さんもリーナさんも文句を言いませんからね……」
「アンジェリーナ先生も、そろそろ戻ってくるんじゃないですか?」
「リンの事を報告しにアメリカに戻って、そろそろ解放される頃だろうって恵理さんが言ってましたけど、もうしばらくは戻って来ないんじゃないですかね」
土地神などという概念は日本にしか無いのかもしれない。アメリカでリンの事を説明する際に、リーナさんはかなり苦戦したらしく、何か隠しているのではないかと疑われ今に至っているのだ。
「無事に帰って来られると良いですね」
「さすがに拷問とかは無いと思いますけど……」
そもそも日本の、しかも小さな土地限定で起こっていた現象に、何故アメリカが興味を示したのかが分からない。初めは新種のモンスターなのかと疑っていたのだけど、それが神様だと分かったんだから、もう興味を失うものだと思ってたんだけどな……
「お帰り、遅かったのね」
「寮の掃除をしていましたから。ところで恵理さん、その手紙は?」
「手紙? ああ、これはリーナからの報告書よ。アメリカの戦力を教えてもらったの」
「戦力? 戦争するでも無いのに、何でそんな事を……」
「日本政府に、どれだけ差をつけられているかを教えてやろうかと思ってね」
「……どれだけ嫌いなんですか」
事の発端は向こうにあるとはいえ、そこまで手の込んだ嫌がらせをする事もないだろうに……
「ところで、今日の晩御飯の当番は恵理さんと涼子さんだった気が……」
「仕事があったから代わってもらったわ。岩崎さんと岩清水さんがね」
「炎さんと秋穂さんが? でも他の人でも良かったんじゃ」
「偶々通りかかったからお願いしたのよ。さすがにリンや水には頼めないからね。仕事も料理も」
妙に納得出来る恵理さんの言葉に、僕もバエルさんも頷くしかなかった。でも、料理は兎も角としても、仕事まで代わってもらおうとしないでほしかったな……
日本政府が無能なのか、恵理たちが有能過ぎるのか……