恵理さんと涼子さんと一通りの情報交換を済ませた僕は、誰もいないであろうお風呂に向かった。最近ゆっくりお風呂に浸かる事も出来なくなってきているので、偶にはゆっくりお風呂を満喫しようと考えてやってきたのだが、どうやら考えが甘かったようだった。
「まさか一人でお風呂に入ろうなんて思って無いわよね?」
「早蕨荘でのルールは、ここでも適用されていますからね」
「だって……偶にはゆっくりお風呂に入りたいんですよ」
「入りたいのなら、入ればいいじゃない。私たちはいくらでも付きあうわよ?」
脱衣所に向かっていた僕の後をつけていた恵理さんと涼子さんに捕まり、僕は軽い抵抗を試みたが意味無し。そのままテントを張った場所まで連れて行かれてしまう……
「ルールを破ろうとした悪い子には、お仕置きが必要ね」
「そんな大それたことじゃないですよね!? てか、恵理さんや涼子さんだって一人でお風呂に入りたくなる時だってあるはずですよね?」
「私は別に。元希君と一緒の方が嬉しいわよ」
「私もですね。姉さんと二人きりっていうなら兎も角、元希君と一緒に入れる方が嬉しいです」
誰か味方がいないか探してみたが、生憎近くには誰もいなかった。例えいたとしても、僕の気持ちを理解してくれる人はバエルさんくらいだろうし、水奈さんや美土さんは恵理さんたちと同じ考えっぽいから、呼んだ場合は余計に僕が一人でお風呂に入れる可能性が低くなってしまうだろうし。
「ゆっくり入りたいのなら、私たち全員が元希君に素敵な時間を提供するけど?」
「『一人で』ゆっくり入りたいんですけど」
「それは却下」
「何でですか!?」
僕の悲鳴にも似た叫びは、恵理さんと涼子さん以外の人には聞こえなかったらしい。だが聞こえた二人にも、僕の心の叫びは響かなかったようだった。
「だって元希君と一緒にお風呂に入りたいんだもん」
「せっかく一緒に生活してるんですから、親睦を深めるのは大事な事だと思います」
「もっと別の事でも深められると思うんですけど……」
むしろ僕にとって一緒にお風呂に入っても親睦を深める事にはならないんだけどな……距離を取りたくてしょうがなくなってしまうので、親睦を深めるという目的は達成出来ていないのだ。
「さて、それじゃあみんなを呼んで改めてルールを決めましょうか」
「あ、改めて?」
「そ、元希君と一緒にお風呂に入りたいか、それとも個人でゆっくりとお風呂に入りたいかを決めるのよ」
「それって結局今と変わらないって事ですよね!?」
「そんな事無いわよ。一人でゆっくりしたいって子が多かったら、さすがに私たちも諦めるわよ」
そんな事言って、最初から多数決で勝てるから提案してるんだろうな……恵理さんは理事長だし、もっと言えば僕が生活してる早蕨荘の大家さんだから逆らう事が出来ないんだよね……それじゃなくても、水奈さんとか美土さんとかは率先して恵理さん側に付きそうだしな……
突如集められた他の人も、初めは不思議そうな顔をしていたが、理由を聞いて納得したのか、すぐに多数決を取る事になった。
「それじゃあまずは、一人でゆっくりお風呂に入りたい人」
恵理さんの問い掛けに、僕とバエルさん、そして御影さんが手を上げる。
「じゃあ今度は、みんなで仲良くお風呂に入りたい人」
残りのメンバーが一斉に手を上げ、結局今まで通り纏めてお風呂に入る事が決定してしまった。
「それにしても御影、何で一人で入りたいって思ったんだ?」
何となく引っかかりを覚えたのか、多数決を終えた後で炎さんが御影さんに問いかけた。
「だって、ボクは他の人のように見せられる体付きじゃないし……」
「そんなの気にするなよな! 元希だって気にしてねぇだろうしよ! な?」
「うえぇ!? そ、そうだね……」
なんて答えるのが正解なのか分からない質問に、僕はとりあえず頷いておいた。そもそも僕はみんなの体付きをじっくり見た事なんて無いし、何がそんなに気になるのかも良く分かっていない。僕みたいに、健吾君の身長が羨ましいとかなのかな……?
元希君に安らぎの時間は無いのだろうか……