昨日お風呂で疲れちゃった所為で、今日一日は散々だった。まず結界の張り直しの際にもう少しで雑木林を消しそうになったり、授業での戦闘訓練で、威力を間違えて危うく仲間ごと消し炭にしちゃいそうになったり、挙句の果てには特別戦闘訓練では、他の人に任せるはずだった敵を木端微塵にしてしまったりと、全く加減が出来なかったのだ。
「元希君、もしかしてストレスが溜まってるんじゃないかな?」
「ストレス……ですか?」
訓練の後、僕は涼子さんに残るように言われて、今の状況に至っている。体育館のモニター室に涼子さんと二人きりの状況だ。
「昨日はさすがに私もやり過ぎだと思ったんだけど、やっぱり元希君でもストレスを感じるのね」
「えっと……馬鹿にされてます?」
「いえ、ただ普段から大人しく、あまり苛立ったところを見なかったから」
別に今も苛立っているわけではないのだけども、涼子さんから見れば今の僕は苛立っているのだろう。てか、今日の僕の魔法を見ればそう思うだろう……僕だってそう思うだろうし。
「とりあえず今日は――今日だけはゆっくりしてもらうために、元希君は一人でお風呂に入っても良いですよ。何か言われたら、私が何とかしますので」
「大丈夫ですか? 恵理さんが認めてくれるとは思えないんですけど……」
「大丈夫。いざとなったら魔法で気絶させるから」
何が大丈夫なんだろう……僕は大丈夫かもしれないけど恵理さんが全然大丈夫じゃないような気がするんだけどな……
「とにかく、明日まで引き摺るのは良くないし、明日も今日みたいな状態だと、さすがに訓練の意味が無くなっちゃうしね」
「ゴメンなさい……」
六人に任せなければいけなかったのに、僕は今日の訓練で殆どのモンスターを倒した……いや、消し炭にした。木端微塵にした。跡形もなく消し去った。つまり全然指示を出さずに一人でモンスターと戦ったのだ。
「調理担当は私が代わりを引き受けますので、元希君はリラックスしてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
入寮してから今日まで、一人でお風呂に入ったのなんて数えるほどだ。今日は本当にゆっくり出来るかもしれないな。
拠点に戻ってすぐ、僕はお風呂に入る為に脱衣所に向かった。昨日は引き摺られるようにして女子脱衣所に連れ去られたが、今日は一人で入れるために男子脱衣所だ、当たり前だけど。
「一人で入るには広すぎるよな、このお風呂……でもまぁ、独り占め出来ると思うとワクワクするな」
それ程長い時間入ってるわけではないんだけど、お風呂でゆっくり出来るのは嬉しい。何時も騒がしいのを考えると、こうして静かなお風呂に入る事が新鮮に思えるから不思議でならない。
「さーて、今日はゆっくりしようかな」
誰もいないお風呂で、誰に聞かせるでも無い独り言を呟いてから僕は軽くお湯を身体にかけた。普段はこんな行為をする暇もなく湯船に引っ張り込まれ、そのまま流れで全身を洗われる事になってしまうのだが今日は違う。誰もい無く、誰に遠慮する必要もなくお風呂に入れるのだ。
『涼子ちゃん、何で元希君を一人でお風呂に入れちゃうのよ!』
『姉さんだって見たはずですよね、今日の元希君。感情がコントロール出来て無いのか、魔法の威力が普段の数倍から数十倍にまで膨れ上がってるんですよ』
『つまり、元希君の感情を爆発させれば、大型モンスターだろが何だろうが瞬殺出来る、って事でしょ?』
『違います! そういう事じゃ無く、今のままだと元希君も危ないって事です!』
僕が危ない? どういう事だろう……
『このままストレスを溜め続けると、親しい相手だろうが危険に曝してしまう事になります。現に今日だって危なかったんですから。もし本当に何かが起こってしまったら、元希君はその事を一生背負う事になってしまうんですよ! 原因が私たちにあるとはいえ、元希君は私たちの所為にはしないでしょうし』
『そうね……あの子は優しい子だものね』
脱衣所から声が聞こえなくなったのを合図に、僕はノロノロと立ちあがって洗面台の方に移動した。そうか、僕って無意識に威力を抑えていたんだな……その箍が外れると周りにも危険が及ぶのか……これからは気をつけなきゃいけないな。
偶に表に出ると大変な事に……