一人でのんびりとお風呂に入ったおかげで、少しは心に余裕が出来てきた。元々自分では苛立っていた、という事に気付けなかったので、常にリラックスしていたつもりだったのだけども、こうしてのんびりお風呂に入った事で、かなりリラックスしている事が自分でも分かるのだ。
「こんなにリラックスしてるのって、何時ぶりなんだろう……」
最早自分が何時リラックスして、何時苛立ってたのかすら分からないのだ……こんな生活をしていたら、他の人だったらどうなっているんだろうな……
「あら、元希さん。もう出たんですか?」
「もう? 僕、結構入ってたつもりだったんですけど」
テントに戻ったら、バエルさんが不思議そうに首を傾げたので、僕は携帯を取り出して時間を確認した。
「十五分も入ってたら、僕的には十分なんですけど」
「そうなんですか? 何時もはこの倍以上入ってるので、元希さんは長風呂が好きなのかと思ってました」
「あれは……恵理さんたちや炎さんたちに捕まった場合ですよ……普段はこれくらいです」
その「普段」は、高校に入ってから訪れなかったから、バエルさんが僕の入浴時間を知らなくても仕方ないんだけどね。
「ゆっくり出来ました?」
「バエルさんも、僕が苛立ってたのに気づいてたんですか?」
「……むしろ、気づいていない人がいないくらいに、元希さんはイライラしてましたよ」
「自分ではそんなつもり無かったんだけどな……」
無意識に溜めこんで、無意識に吐き出していたのか……反省しなきゃな。
「今日は水さんもリンさんも別のテントで寝ると言ってましたし、今日くらいはゆっくり眠れるんじゃないですか?」
「そうですね……でも逆に、騒がしくないと眠れないかもしれませんよ?」
「くす……そうかもしれませんね」
小さく笑ったバエルさんの表情に、僕はドキっとした。今までだって見た事あるはずの表情なのに、何でこんなにドキドキしてるんだろう……
「ぼ、僕! ちょっと結界の様子を見てきます!」
「えっ? 元希さん……?」
慌ててテントから逃げ出す僕を心配してくれているバエルさんが、僕の事を心配してくれている眼差しを向けてくれている。騙すようにしてるのが心苦しいけど、僕自身なんでこんなにドキドキしてるのかが分からないので、とりあえず何かしたかったのだ。
「なんだ……? 何で僕、こんなにドキドキしてるんだろう……」
バエルさんとは、普段から一緒にいる事が多いし、あの笑顔だって何度も見てるはずなのに……
「どうしちゃったんだよ……いったい何がどうなってるんだよ……」
誰もいない林の中で、僕は何度も繰り返しそう呟く。こんな事を誰かに相談出来るわけもなく、また相談しようとしたとしても、どうやって説明すればいいのか分からないので意味は無いだろうな。
「とりあえず落ち着け……僕は結界を確認しに来たんだから……」
誰に言うでも無く、自分に言い聞かせるように呟き、僕は結界に触る。うん、異常は無いな……当たり前だけど。特に結界に異常を感じたわけでもないので、確認するまでも無く正常に結界が作動している事は分かっていた。
「どうしよう……今日はリンも水も別のテントで寝るらしいし、僕とバエルさんの二人きりって事だよね……」
一緒の部屋で寝た事もあるのに、何で今日に限ってこんなにドキドキしてるんだろう……
「と、とりあえず……テントに戻らなきゃ……」
おそらく、バエルさんは僕の事を心配してくれてるだろうし、無意味に心配を掛けるのは良くないしな……
「とりあえず、何でドキドキしてるのかは分からないけど、バエルさんから逃げる理由は無いもんね」
実に無意味だと分かる宣言だが、僕はそう言うしか無かったのだ。これがどんな感情なのか、今はまだ分からないからね……
これは本当に恋なのだろうか……