何時までも逃げているわけにもいかないので、僕はテントに戻る事にした。途中で炎さんと御影さんに声を掛けられ、立ち止ろうとしたら世界が反転してしまった。
「あ、あれ……?」
「元希!? 大丈夫か!」
「元希君……何で何も無いところで転んでるの?」
「えっ……僕、転んだの?」
自分が転んだ事すら、御影さんに言われるまで気づかなかった。別に体調不良とか、そんな感じでは無いんだけどな……
「って元希! お前、凄い熱いぞ!」
「へ? そうなんだ……自分ではそんな感覚、無いんだけど」
「元希君は無意識に自分の熱を感じないようにしてるのかもしれないけど、確かに熱い。これは早く安静にしなければいけないレベル」
「急いで運ぶぞ! 確か、水たちと一緒のテントだよな?」
「う、うん……」
何だか重体のようだし、ここは素直に運ばれておこう……って、今日は水もリンも別の場所で寝るから、バエルさんも安心して寝れるはずだったのに……まさか僕が迷惑を掛ける事になるなんてな……
「ここか!」
「炎さん、御影さん、何かご用で……元希さん!?」
「凄い熱で、外で倒れた」
「と、とりあえずここに。今色々と持ってきますから!」
僕の寝袋に僕を寝かすよう指示したバエルさんは、何かに弾かれたようにテントから飛び出して行った。
「やっぱり心配するよなぁ……元希が倒れた、って聞かされたらアタシでもああなるぞ」
「炎は意外と冷静に受け止めそうだけどね」
「そんな事ねぇぞ! まぁ、水奈や美土よりは冷静に受け止めるかもしれないけどな」
確かに、あの二人は大慌てだろうな……その点炎さんや御影さんに見つけてもらって良かったのかもしれないな……
「なぁ元希、あんな場所でなにしてたんだ?」
「えっと……結界強度の確認を」
「別に結界なんて無くても、ここで生活してるやつらなら問題ないと思うんだけどな」
「こんな場所で戦闘するわけにはいかないでしょ。私有地とはいえ近所には民家だってあるんだから」
それに、ここで問題を起こせば、恵理さんを失脚させるのに使われる可能性があるんだし……そうなると今のように魔法科の生徒が自由に動けなくなる可能性が出てくる訳で、絶対に結界は必要だと思うんだけどな。
「持ってきました! 元希さん、少し頭を上げてください」
「こう?」
僕が頭を上げると、バエルさんはその隙間に氷枕を滑り込ませた。もしかしてこの氷、バエルさんが作ったのかな……
「後は私が引き受けますので、炎さんと御影さんは理事長たちに報告をお願いします」
「おう! 任されたぜ!」
「ちゃんと突撃しないように抑えておくから」
珍しく御影さんが拳を握った。何でこんな事で気合いが入ってるんだろう……
「元希さん、あまり心配させないでくださいよ」
「ゴメンなさい……僕も自分が高熱だって事に気づいて無かったから」
「そうなんですか?」
「う、うん……恥ずかしながら」
もしかして、さっきバエルさんと一緒にいた時にドキドキしたのって、熱の所為なのかな? だとしたら、何であの時に気づけ……あれ? 今もドキドキしてる……でも、さっきまで炎さんや御影さんがいた時にはドキドキしてなかったし……
「元希さん? どうかなさいました?」
「うえぇ!? な、何でも無いよ。うん、何でも……」
「? やっぱり何かあるんじゃ……」
僕の言動を訝しんだバエルさんが、僕に近づいて来る。どうしよう、ドキドキが更に強まってるような気がするよ……
「ホントに大丈夫だから! それより、あんまり近づくと熱が移っちゃうよ?」
「……確かにそうですね。本当に何も無いんですね?」
「うん、何も無いよ」
このドキドキが何なのか、ハッキリわかるまでは誰にも言わない方がよさそうだ。だって、自分でも何なのか分からないのに、他の人に分かられたら何となく嫌だからね……
恋心なのか、それともただの風邪なのか……