色々と溜まっていたストレスが原因か、それとも別の原因があるのか分からないけど、僕は体調を崩してしまった。そして高校に入学してから、これが二回目の長期欠席になるだろう。
「あの時はバエルさんも一緒だったからまだ退屈しなかったけど、今回は僕一人だからなぁ……」
一人で、しかもテントにだ。退屈をしのぐ方法に心当たりは全くと言っていいほど無い。こんなに暇なら、無理してでも学校に行けばよかったな……
「今から行っても辿りつけるかは分からないしな……」
今朝よりも今の方が体調は不調だと言えるだろう。寝てるだけでこれだけ苦しいんだから、起き上がる事も困難なんだろうな。そして朝なら誰かしらに支えてもらう事も出来ただろうけども、今は近くに誰もいない。少し離れた場所に水とリンの気配はあるけども、あの二人は監視要員として恵理さんか涼子さんに言われてあそこにいるのだろう。もし僕が学校に行く、などと言えばすぐに寝袋に押し戻されるのだろう。
「暇だなぁ……」
身体を動かす事が出来ないので、僕は意識をこの辺り一帯に張り巡らせた。結界が張ってあるので不審者とか、そういった心配は無いのだが、水やリンが暴れ回って自然破壊をしていないかを確認する為に、こうやって意識を広げているのだ。
「特に異常は無いかな……てか、相変わらず水とリンは言い争ってるよ……」
少し距離がある為、声は聞こえないが、気配で二人が言い争ってるのが分かる。そろそろ仲良くしてもらいたいのだけども、一向にそんな気配は無い。何で仲が悪いのかもよく分からないし、僕にはどうする事も出来ないのだ。
「水は自分が先に僕と主従契約を結んだからと言い、リンは僕と精神的にリンクしたと言い張ってるんだけど……それに何の意味があるのか、僕には分からないし」
別に優劣を付けるつもりもないし、そのどちらかが勝ってるなどと思って無いんだよな……でも二人はそれは譲れないものらしいので深くはツッコまないけど。
「退屈だなー……する事も無いし、寝ちゃおうか」
体調不良で休んでるんだから、寝る事が今の僕に課せられた使命なのだろう。僕はそんなくだらない事を考えながら眠りに落ちて行った。
誰かの気配を感じ、僕はゆっくりと目を覚ます。寝る前は誰もいなかったはずの場所に誰かの気配を感じたら、気になって起きてしまうのが僕の昔からのクセだった。
「……バエルさん?」
「起こしてしまいました?」
「いえ、大丈夫ですが……授業はどうしたんです?」
「くすっ、もう夕方ですよ」
「ふぇ!?」
バエルさんの言葉に、僕は驚いてしまった。寝る前はまだ昼前だったような気がするから、結構寝ちゃったんだなぁ……
「少しは楽になりましたか?」
「どうでしょう……まだダルイ気はしますが」
「まぁ無理もないですよ。あれだけの高熱だったんですから」
「……ところで、他の人は?」
「さっきまでお見舞いに来る、とか言ってましたが、理事長と早蕨先生に止められてました。私は同じテントだからという理由でここにいますがね」
「そうですか……まぁうつったら大変ですからね」
ただでさえ他のみんなは特別補習や通常授業で忙しいんだから、僕の看病をして後れを取るのはバカらしいと恵理さんと涼子さんが考えてもおかしくは無いかな。
「とりあえず、明日も安静にしててください。くれぐれも出歩くなんて事を考えないようにしてくださいよ」
「分かってますよ。そもそも、身体を起こす事すらままならなかったんですから……」
多少は楽になっているとはいえ、まだ身体を起こすまでに至っていない。そんな状態で出歩こうなどと考えるほど、僕は僕自身をいたわっていない訳では無いのだ。
「食欲はありますか? 一応おかゆ作りましたけど」
「いただきます」
「ダメです。私が食べさせてあげますから」
起き上がり手を伸ばそうとしたらバエルさんに押し止められてしまった。恥ずかしいけど、自由に身体が動かせない以上、バエルさんに食べさせてもらうしかないのだけども、やっぱり少しくらいは抵抗したかったな……
恋人、と言うよりは歳の離れた姉弟にしか見えない……