数日間ぐっすりと休んだおかげで、漸く自由に動けるくらいには回復した。僕が倒れていた間は恵理さんと涼子さんが交代で結界の維持や周囲の警戒を行っていたらしく、回復した途端に僕に全て丸投げしてきた……
「普段から交代制のはずなのに、何故か僕が毎日やってたんだよな……涼子さんは別の事で忙しそうだったから仕方ないけど、恵理さんは何をしてたんだろう?」
毎回「忙しいから」という理由で結界の確認、必要とあらば張り直す作業を僕に任せて、恵理さんは何処かに行ってしまっていたのだ。本当に何をしてたのか気になったので、僕は式を飛ばして調べようとしたのだが、毎回途中で見失ってしまうのだ。
「とりあえず仕事はしてるみたいだけど、これも恵理さんの仕事のはずなんだけどなぁ……」
雑木林の結界を確認しながら、僕は辺りを見渡しながら呟いた。リンに身体を乗っ取られて放った魔法のおかげで、この辺り一帯の土壌は安定している。他の霊力が介入出来ないくらいの魔力だったので、今のところは魔物もよりついていないが、そろそろその魔力も薄れ始めているのだ。
「リンの記憶も、戻るどころかどんどん幼児退行してるような気がするし……水も喧嘩ばっかじゃ無くて記憶を探す手伝いでもしてくれれば良いのにな……」
この場所の土地神であるリンは、本来の力を失ってしまっているので、この魔力が切れたらこの場所は再び不安定な状況に逆戻りだ。その時を少しでも遅らせる為にこうして結界を張っているのだが、それもあくまで応急処置だ。何時までも続く訳では無い。
「せめてもう一度、あの魔法が使えれば良いんだけど……」
その為には、リンをここに連れてきてもう一度僕の身体を乗っ取らせる必要がある。だが、あれ以降何度この場所に連れてきてもリンに変化は見られない。それどころか、この場所に来るたびに気分を害しているようにすら思える。
「何か良い手は無いだろうか……」
この場所を調べてくれているリーナさんはまだ戻って来ない……というか、アメリカ軍に質問責めという拘束を受けていると、恵理さんたちが話しているのを聞いてしまった。いったい何をそんなに聞く事があるというのだろうか……
「まっ、僕の事なんだろうけどね……」
世界で三人目の全属性魔法師、しかも男子では初めての存在だ。何処の国も情報が欲しくて仕方ないのだと言われてるし自覚もしている。そもそもリーナさんが霊峰学園に来たのも、バエルさんが編入してきたのもその為だ。だが二人とも政府より僕に好意的に接してくれているので、今のところ問題は発生していないが。
「さて、結界は安定してるし、周囲五キロに魔物の気配は無し、と……今日も平和に過ごせそうだな」
僕個人としては、平和に過ごした日など数えるくらいしか無いのだが、世間という大きなくくりで見れば、平和そのものだと言える一日になるだろう。
「あら? もう出歩けるようになったのね」
「美土さん? こんな場所で何を……」
「この土地の精霊にお願いして、結界以外でこの土地を護れないか試していたんですよ」
「精霊? 僕には出来ない事だけど、成果はありました?」
「いえ……前に使われた魔法が強力過ぎて、精霊では太刀打ちできないと言われました」
「あはは……その魔法、放ったの僕だ……」
正確には、僕の身体を使ってリンが放ったのだが、僕の魔力とリンの魔力が合わさって放たれたものだから、僕が放ったといっても決して過言では無いんだよね……
「もう少し効力が落ちれば出来るかも、とは言われましたが、これ以上効力が落ちれば危険とも言われましたわ」
「じゃあやっぱりこのまま結界を維持して、リンの記憶が戻るまで待つしかないのか……」
「それか、元希さんが贄としてこの雑木林で生活すれば、神として認められると……」
「それは遠慮したいな……」
そもそも贄って……僕は人柱になるつもりは無いよ……
「リンさんをこの雑木林で生活させても、記憶は戻らないんですか?」
「うん……記憶を取り戻すとか以前に、この場所に連れてくると機嫌が悪くなるんだよね……」
美土さんと唸りながら、僕はこの場所を後にした。
話が終わっちゃいますからね……