クラス対抗戦を開始するために、僕たちは体育館へと移動する。今更ながら緊張してきちゃったな……昨日は気にしなくても大丈夫だって言い聞かせることはしなくてもよかったのに、何で直前になって……
「元希、一気に決めちゃおうよ!」
「一気に?」
「ほら、元希は全属性魔法師だろ? だから上級魔法の合わせ技だって出来るんでしょ?」
「一応は……でも、危なくない?」
「大丈夫ですよ、元希様。体育館での戦闘は全てバーチャル、架空世界での出来事ですから」
「そうそう。だから元希さんが気にする事はないんですよ。思いっきりやっちゃえーですよ」
美土さん、その笑顔でそんな事言うの……ちょっと怖いよ。
「何時までも元希君を甘く見てる他のクラスの人に、元希君の実力を示すチャンスだよ」
「甘く見てるって、しょうがないよ。僕はこんな見た目だし、田舎から出てきたばっかりだからね……」
「見た目は……うん、正直ボクも最初は女の子かと思った」
「あうぅ……」
何となく分かってたけど、やっぱり直接言われるとへこむなぁ……
「でも、しっかりと男の子の部分を見せてもらったからね。あの地竜戦はカッコよかったよ」
「そうだぞ元希! もっと自信持たなきゃ!」
「そうですわよ。元希様は私たちよりもお強いお方なのですから」
「お姉さんたちもしっかりバックアップするから、思いっきりやっちゃえーなのですよ」
四人に励まされて、僕は何となく頑張れる気がしてきた。もちろん怖いのは変わらないんだけどね……
体育館で開会式が行われ、早速バーチャル世界へと飛ばされた。相手のC-1は良くも悪くも平均的なクラスらしく、クラス委員は女の子らしい。
「まずは相手の場所を探らないとね」
「元希様、分かりますか?」
「ちょっと待って……いた。今地図に出すね」
空中に出すと相手にばれちゃうから、今回は地面に地図を出し相手が居る場所に印をつけた。
「やっぱり人数が多いから分散されてるんだね」
「それじゃあ、わたしたちは皆で攻めましょうか」
「何処の場所にクラス委員がいるかまでは、元希君でも分からなかったみたいだしね」
「あうぅ……ゴメンなさい」
「気にしないでください。元希様はこんなにも早く相手を見つけたのですから」
「そうだよ! まったく、元希はもっと自信を持たなきゃ駄目だね」
水奈さんに抱きつかれ、炎さんに頭をグリグリされ、僕は少し目が回った。
「とりあえず此処から一番近いところを攻めましょうか」
「美土、ボクに考えがあるんだけど、手伝ってもらえる?」
如何やら御影さんと美土さんが相手を誘い出すつもりらしいけど、大丈夫なのかなぁ……怪我しなければ良いけど……
「あれがC-1の人だね」
「あと少し……」
何をしたのか分からない炎さんと水奈さんは、何が起こるのか楽しみにしてるけど、美土さんの魔法と御影さんの魔法を合わせた攻撃に、僕は何となく想像がついたのだ。
「よし!」
「上手く行きましたね」
「何したの?」
炎さんが二人に質問するけど、何故かその二人は僕を見ている……つまりはそういう事なのかな?
「土の魔法で落とし穴を作って、影の魔法でその穴を見えなくしたんだよね? だから普通に歩いていたんだよ」
「正解。もっと詳しく言うと、直前まで穴を掘ってなかったんだけどね」
「さぁ元希さん、相手に攻撃魔法をぶつけちゃってください」
穴が結構深いから、相手は上に戻ろうと頑張っている。だけど美土さんの魔法の方が凄くって、C-1の人たちは簡単に穴から出る事が出来ないみたいだ。
「なら、美土さんの得意な魔法で行くよ」
「あら、お姉さんに対抗意識でも持ってるの? 可愛いくせに男の子なんだね」
「あうぅ……グリグリしないで~……」
普通の戦場ならこんな事してたら危ないけど、此処は仮想世界。そしてあくまでもクラス対抗戦だから危険は少ない。
「それじゃあ行くよ。風よ、砂塵を巻き起こし敵を切り刻め『サンド・サイクロン』」
落とし穴の中に竜巻を起こし、砂も交じり攻撃をする。視界を奪うのと同時に相手の皮膚を切る魔法だ。実世界で使えば最悪死んじゃうかもしれない魔法。上級魔法として教科書に載ってるらしいのだけど、実際は禁忌魔法にも数えられるほどの危険な魔法だ。仮想世界だから使ったけど、実世界では絶対に使わないって決めてる魔法だ。
「如何やらあの中にクラス委員は居なかったみたいだね」
「そのようですわね。それにしても元希様、凄い魔法をお使いになられるんですね」
「さっきみんなに言われたけど、何時までも甘く見られてたくないからね」
「その意気だよ、元希!」
「次、来たみたいだよ」
仲間がやられたと気付いたのか、C-1の人たちが慎重に隠れている。でも御影さんにはバレバレだったようだ。
「じゃあ今度は……光よ、その姿を雷に変え敵に降り注げ『ライトニング・ボルト』」
光魔法の上級では、雷を操る事が出来るようになるのだ。普段の生活において電気は重要な資源だからね。光魔法師の給料が高い理由の一つは、この電気を作れる事にあるんだよね。
『は~い、S-1VSC-1の試合は終了ね。現実世界に復帰してね~』
「お、やるじゃん元希。如何やらあの中に敵将が居たらしいよ」
「一回戦、最速で終了ですわね」
「お姉さんが褒めてあげるわ~」
「さすが元希君」
「あうぅ……」
四人に抱きしめられながら、僕は現実世界へと復帰する。抱きしめられるダメージも、現実世界に復帰した途端に僕の身体に襲い掛かってきた……こんなので次の試合大丈夫なのかな?
次回も対抗戦です