一日中考えていたけど、結局良い案は出て来なかった。あの雑木林を早く何とかしなければ、別の問題が起きた場合に素早い対応が出来なくなってしまうかもしれないのだ。
「今のところは平和ですけど、何時また問題が起こるか分かりませんものね」
「美土は心配し過ぎなんだって。元希もだけど、問題なんて起こってから考えればいんだよ」
「炎さんは些か楽観視し過ぎですが、確かに元希様も美土さんも考え過ぎなのかもしれませんわね」
「そうかな……でも、考え無さ過ぎよりは良いと思うけどな……」
今日も今日とて特別訓練があるので、僕たちは秋穂さんとバエルさんを迎えに行く為にA組前の廊下で話しあっている。ちなみに水とリンは記憶探しという名の冒険へと旅立つといって既にこの場にはいない。
「お待たせ。何か考え事があるみたいだけど、体調はもう大丈夫なの?」
「お陰様で。一応は冷静な考えが出来るくらいには回復したかな」
「治りかけの時に出かけようとしたのには、本気で怒りそうになりましたよ」
「反省してます……」
一昨日、少し良くなったから周りの結界を確認しに行こうとして、バエルさんに注意されたのだ。自分では大丈夫だと思ってたんだけど、どうやらバエルさんはその事が気に障ったらしく、その日一日僕の側を離れなかった。
「それで、何を考えていたの?」
「例の雑木林の事だよ。美土が精霊から聞いた話だと、そろそろ加護が切れるって」
「正確には切れ始める、ですけどね。それでも、徐々にまたあの場所が不安定になっていく事には変わりませんけども……」
「元希君の結界で何とか維持してるんじゃなかったの?」
「あくまでも、あの結界は加護が切れるのを遅くするだけのものだから……徐々に切れて行くのは仕方ないんだよ……」
あの魔法だって、何度試みても発動する事は出来ないし、結界の効果だって永続的なものではないのだ。
「私たちの誰かが結界を張れれば、元希君たちの負担も減るんだろうけどね……土地を加護する結界なんて、そんな高度な事は出来ないし……」
「わたしが使えるのも、せいぜいより活性化させるための魔法だけですからね……土地そのものに加護を与える魔法なんて、わたしの家にも文献がありません」
「美土の家にないんじゃ、何処の家にもないな。もう一回元希の身体をリンに乗っ取らせる方が早そうだ」
「うん……だけど、何度試してもダメなんだよね……リンはあの場所に行きたがらないし、行っても機嫌が悪くなるだけで何の変化も起きないし……」
唸りながら廊下を歩いていると、横から声を掛けられた。
「なに唸りながら歩いてるんだ? 不気味だぞ」
「ちょっと考え事をね……健吾君こそ、こっちは魔法科の校舎だよ? 何か用事でもあったの?」
「理事長を探してるんだが、何処にいるか知らないか?」
「恵理さんならきっと、魔法科の体育館にいると思うけど……何か用事?」
普通科の健吾君が恵理さんに用事があるとは思えないけどな……霊峰学園の理事長とはいえ、恵理さんは魔法科の方に重きを置いているので、普通科の問題は普通科一本にしたがっている副校長が大半を処理してるって聞いてたけど……
「大した用事じゃないんだけどな。向こうの山で何かが光ったように見えたって、近隣住民の人が伝えてきたんだと。それを理事長に報告に行きたくない副校長が、偶々近くを通った俺に伝言を頼んだだけだ」
「そうなんだ。じゃあ僕が伝えておくよ」
「そうか? 悪いな、じゃあ頼んだ」
「うん、頼まれた」
健吾君から頼まれた伝言の内容に、僕は何となく嫌な予感がしていた。山の方ってまさか、あの雑木林じゃないよね……
復帰したばかりなのに……