リンに身体を乗っ取られて、良く分からない魔法を放った結果、僕の意識は暗闇へと落ちて行った。
「(何だかあちこちが痛い……これ、明日動けるのだろうか……)」
リンの使った魔法は、人間では使う事は出来ない類の魔法だったのだろう。前回の時も、翌日身体の節々が痛くてたまらなかったしな……
「(それで……ここは何処何だろう?)」
本体はあの雑木林にあるんだろうけども、意識は良く分からない所にあるようだ。
『姉さま! 何故あの場所からいなくなったのですか!』
『いなくなったわけではありません。力を使い過ぎて元の姿ではいられなくなっただけです』
『ではなぜ、このような人間の餓鬼に従っているのですか! 我々神族は、人間になどに付き従うべき一族ではありません!』
『黙りなさい! この元希は、わたしが力を失った時に助けてくれた恩人です。神族だろうが人間だろうが、助けてもらった恩を仇で返すような真似はわたしはしたくないのですよ』
何で姉弟喧嘩を聞かなければいけないんだろう……てか、あの弟の方は、リンに会えなくてさみしかったから暴れてたのか……
『さて愚弟、わたしが管理するべき土地で、随分と暴れてくれたな……あれだけ暴れたのだ、どれほどの罰が与えられるか分かっているでしょうね?』
『あ、姉さま……俺はただ、姉さまを探そうとしただけで……』
『ならば、あれほど暴れなくても別の方法があったでしょうが。そんな事も分からないとは、やはり愚弟か……』
『グッ……姉さま、その「愚弟」というのは止めていただきたい。これでもこの近くの土地一帯を治めるほどの地位は確立してるのです』
『そんな事、わたしには関係ない事です。アナタがしたのは、わたしが治める土地で暴れ、わたしの恩人である元希を侮辱した事、わたしにはこれだけの事実しかないのです』
リン、かなり怒ってるような気がする……でも、普段の子供っぽい喋り方と本来の喋り方、随分と違うんだな……
『さて、元希』
「(うぇ? リン、僕が聞いてたの気づいてたんだ)」
『当たり前です。元希の意識をここへ連れてきたのはわたしです』
「(そうなんだ……それで、なに?)」
『この愚弟の処罰は元希が決めて下さい。わたしは二度も貴方の身体を借り、普通の人間では耐えられないほどの魔力を使いました。貴方が全属性魔法師であるから耐えられただけで、わたしは二度貴方を殺そうとしたのです。愚弟含め、わたしの処罰もお決めください』
「(べ、別に僕はリンをどうこうしようとか思って無いよ。リンがそうしなきゃあの土地は死んじゃったかもしれないんだし、今回だってリンが対処してくれなきゃ大変な事になってただろうし)」
そもそも、僕だってあの場所を守りたかったんだし、リンがそうしなきゃ守れなかったのも理解出来ているのだ。リンに関しては僕はどうこう言える立場でも、何かを決定出来る立場にも無いと思っている。
『ですが、わたしが納得出来ません。元希にあれだけの負担を掛けておいて、わたしはお咎めなしと言うのは……』
「(じゃあ、これからはもう少し手伝いとかしてくれると助かるかな。何時も水とふざけてるだけだし)」
『貴様! 姉さまに雑務を押し付けるというのか!』
『黙りなさい、この愚弟!』
『しかし……』
『二度は言いません』
僕の言葉にリンの弟は過剰に反応したが、リンに諌められて押し黙ってしまった。
「(それから、弟さんの方は、リンが好きにして良いよ。僕には彼を裁くだけの権限も勇気も無いし)」
『分かりました。では愚弟、暫く人間の姿で生活なさい』
『はっ? しかし姉さま……』
『先ほども言いました。二度は言いません』
有無を言わさぬリンの態度に、弟さんは反論を諦めてしょんぼりとしてしまった。任せておいて何だけど、本来のリンって、こんなに怖かったんだ……
このリン、やりにくい……