リンに呼ばれてこの精神世界にやって来た僕だが、この世界からの脱出方法を聞いていなかった。
「(ところで、僕はどうやってここから帰れるの?)」
『元希は今、わたしの精神とリンクしている状態です。ですから、このリンクが切れるまではこの世界に留まるでしょう』
「(それって後どのくらいなの?)」
『それ程長い時間ではありませんよ。最長でも一時間は掛らないでしょうし』
「(そっか……)」
現実世界では、僕が目を覚まさなくて騒ぎになってる予感がするけども、後一時間もしないうちに元の世界に戻れるならそれ程心配しなくても良いかな。
『おい、小僧』
「(? 僕の事ですか)」
『当たり前だ! この世界には俺と姉さまと貴様しかいないだろうが!』
『口を慎みなさい、この愚弟。元希はわたしの主ですよ』
いや、僕はリンと主従契約を交わしては無いんだけど……
『しかし姉さま! 人間など下賤の輩。我々神族と主従契約を結ぶとしても、姉さまが主のはずでは……』
『先ほども申しました。わたしは力の殆どを使ってしまい、消えかけていたところをこの元希に助けられたのです。そして、今もわたしは元希の身体を借りなければ元の力を発揮する事すら出来ないのです。そんな状態のわたしが、主となる契約など結ぶはずがないではありませんか』
だから、僕はリンと契約してないんだけど……いや、気絶してるうちに契約を交わしたのかもしれないけどさ。でもそれって契約としての効力を発揮するのだろうか? 本人の意思が介在してないから、無効だと思うんだけどな……
『では、今すぐそんな契約は破棄してください! 姉さまがこのような餓鬼の僕であるなど、俺には耐えられない屈辱です!』
『何をバカなことを。貴方の力の殆どを封じ込めたので、貴方もこの元希の僕として生活するのですよ』
『なんですと!?』
うん、僕もそのリアクションに同意するよ……そもそも僕なんて、僕は思って無いんだけどな……
『というわけです、元希。この愚弟も貴方の僕として――使い魔としてお使いください』
「(いきなりそんな事言われてもな……普通に土地を管理してくれるだけなら、お咎めなしでも僕は良いんだけど……)」
『何とお優しい。ですが、神族として、人間世界に影響を与えたこの愚弟を、お咎めなしでは他の神族に示しがつかないのです』
「(じゃあ、少しの間だけだよ。それ以上は僕には荷が重いから)」
『分かりました。ほら愚弟、挨拶しなさい』
『……よろしく頼む』
そこで僕の意識は途切れた。おそらく現実に復帰する為にあの精神世界からはじき出されたのだろう。
誰かに揺らされているのを感じながら、僕はゆっくりと目を開ける。
「ここは?」
「元希さん! 気がついたんですね」
「バエルさん? ここは……テント?」
「いきなり倒れたと聞かされた時は本当に驚きました。理事長先生が元希さんをここまで運んでくださったんですよ」
「恵理さんが? ……そう言えば、雑木林はどうなったんです?」
リンとその弟が散々暴れ回ったんだ。無事な訳は無いだろうな……
「それが、奇跡的になにも無かったそうです」
「なにも?」
「はい。リンさんに身体を乗っ取られた元希さんが、何か魔法を発動させて、あの空間を安定させたと聞いていますが」
「そうなんだ……なにも覚えて無いや」
おそらくリンが本来の魔法を使ってあの場所を安定させたのだろう。それなら僕のこの疲労感も納得がいく。
「とりあえずは安静にしていてくださいね。今身体を拭くものを持ってきますから」
「? ……うわ、随分と汚れてるや」
「水様が暴走して、あの辺り一帯をぬかるませた影響ですよ。今は元の土に戻ってますが」
「そうなんだ……水にも心配掛けちゃったな……」
疲労が抜けたらちゃんとみんなに謝っておかないとな……リンとその弟の姿も無いし、後で探さなきゃいけないんだろうしね。
シスコンの香りが……