バエルさんに身体を拭かれながら、僕はあの精神世界であった事を思い出していた。何時の間にか僕と主従契約を結んでいたリン、そしてその弟も僕の使い魔として暫く生活する事になったらしいのだけども、そっちの契約も僕はまったく知らなかったんだけどな……
「何か心配事でも?」
「えっ? まぁ色々と……今回はさすがに疲れましたし」
「急に連れて行かれたと思ったら、今度は気を失っているところを運ばれてくるんですから」
「あはは……ご心配をおかけしました」
多分バエルさん以外の人も心配した事だろう。これが終わったらちゃんと謝っておかないとな。
「それから、水様がかなり怒っていますので、覚悟しておいた方が良いですよ」
「それは知りたくなかったですね……」
「それだけ元希さんの事を心配してくれるんですよ」
「うん、それは分かります。でも、やっぱり怒られるのは嫌ですよ……」
そもそも、今回僕が意識を失った原因は僕には無いはずなんだけどな……リンに身体を使われたからであって、僕は悪くないような気も……
「いや、違うな……」
「なにがです?」
「い、いえ! 独り言です」
リンに責任を押し付ける様じゃダメだ。今回だって、僕がもう少し体力があれば気を失わなかったのかもしれないし、僕がリンの魔力を使いこなせればみんなに心配を掛ける事も無かったんだから。
「はい、綺麗になりましたよ」
「ありがとうございます……? あれ!? 何時の間に全身を拭いたんですか!?」
「ふふ、さぁ? 何時の間にでしょうね」
考え事に集中し過ぎたのか、バエルさんに全身隈なく拭かれてしまった……バエルさんは恥ずかしく無かったのだろうか……?
とりあえずテントから出て、僕はみんなの気配を探った。
「まずは恵理さんたちだな」
一緒に行動していた恵理さんと、逐一情報を集めていたであろう涼子さんに、心配を掛けた事を謝ろう。
「あら、元希君。もう大丈夫なの?」
「はい、ご心配をおかけしました」
「気にしなくても大丈夫ですよ。リンが説明してくれましたから」
「リンが? ……それで、そのリンは?」
「今は他の人に説明をしてるんじゃないかしら? 例の新しい使い魔の紹介も兼ねてね」
「使い魔? ……それってリンにそっくりな男の子、とかじゃ無いですよね?」
もしそうなら手遅れかもしれない……
「あら? 元希君の使い魔よね? 見た事無かったの?」
「……彼はリンの弟で、神族だと言ってましたよ」
「神族、ねぇ……道理でリンの事をモンスターとして調べても分からないはずだわ」
「? リーナさん!? 何時日本に戻って来たんですか?」
「元希ちゃんが気を失ってる間に。あまりにもアメリカの拘束が酷かったから、施設ごと燃やして逃げてきたのよ」
それって普通に犯罪じゃ……てか、良く飛行機に乗れたな……
「転移魔法って便利ね」
「あんなメールを送ってくるんだもん。使うしかないでしょ」
「……つまり、普通に脱走兵扱いだと?」
「私は元々兵士じゃないのにね。ほんと、自分勝手なんだから」
「何処の国もだいたい同じよ。日本政府だって私たちから情報を引き出そうとした事もあったし」
そうなんだ……僕はまだそんな経験無いけど、いずれはそんな事も経験するのだろうか……
「それじゃあ元希ちゃん、一緒にお風呂でも入ろっか?」
「えぇ!? 何で今の流れでそんな話になるんですか!?」
「だって、暫く一緒に入れなかったし、事情説明はリンがしてくれてるんでしょ?」
「そう言う問題じゃ……」
僕が何とか反論しようとしてる所に、別の場所から強い言葉が飛んできた。
「そうだ! 元希と一緒に入りたいのはアタシたちも一緒だ!」
「そうですわ! 元希様はこの間まで体調を崩されていて、漸く一緒に入れると思っていましたら今度はあんな事件……」
「わたしたちも我慢の限界です」
「元希君と一緒に入るのは、ここで生活してる人の当然の権利」
いや、違うでしょ……
「仕方ないわね。みんなで入りましょうか」
またですか……何故みんなは僕の主張を聞いてくれないんだろう……反論虚しく、僕は両脇を抱えられて脱衣所まで連れて行かれた。せめて男子の脱衣所でありますように……
普通に犯罪行為なような気も……ま、いっか。