お風呂で騒ぎ過ぎたのか、テントに戻るなり僕は気絶したように眠った。
『すみません、元希。何度も何度もお呼び立てしてしまって』
「(なるほど……気絶したように感じたのはこの為なんだね)」
眠ったのではなく、リンに呼ばれたからなのか……てか、何時までこの世界にいるつもりなんだろう?
『現在わたしたち姉弟は、元希の精神世界でしかこの姿を保つ事が出来ませんので』
「(どういう意味? リンは前の姿でも生活出来てたよね?)」
『あの姿ですと、元希に多大なる迷惑を掛ける事になりますので、もう少し魔力を溜めてから外の世界に出ようと思っています。もちろん、元希が召喚するのであれば、わたしは喜んで外の世界に馳せ参じますが』
『姉上! このような餓鬼にそこまでへりくだる必要は……アダっ!?』
『口を慎みなさい、この愚弟! 元希は貴方の主でもあるんですからね!』
弟の言葉に、リンがげんこつを振り下ろした。今のは痛そうだな……
「(ところで、僕は君の事を何と呼べばいいの? 何時までも弟って呼んでるのも変だし)」
『好きにしろ。我々神族は、人間に真名を教えるわけにはいかないのだ。だから姉上も貴様に名前を付けさせたんだ』
「(そうだったんだ……じゃあリンの弟だし、シンでいい?)」
実に安直かもしれないが、名前というのは分かりやすいのが一番だ。当て字とかにすると、読めなくて大変だったりするもんね。
『貴様がそう呼びたいなら、好きにしろ。俺は別にその名前に愛着など持たんからな』
『では、わたしも貴方の事はシンと呼びましょう。愚弟などと呼んでは、身内の恥を晒してるようなものですから』
『姉上……せめて弟と呼んでくだされば……』
『わたしは、貴方と血縁だと思われるだけで嫌なのです。今回も恵理や涼子にまで迷惑を掛けたんですから』
『人間など、我々神族がいなければなにも出来な……アダっ!?』
シンが何かを言いかけたが、途中でリンのげんこつが振り下ろされたので、その先を聞く事は出来なかった。
「(それじゃあ、二人はもう少しの間、この世界で生活するって事?)」
『そうですね。十分な魔力を蓄えたら、また元希をこの世界にお連れします』
「(外に出る時、僕に何か影響でもあるの?)」
『いえ、そう言わけではありません。何故そう思われたのです?』
僕が些細な事に引っかかったのを、リンは不思議そうな顔で見詰めてきた。
「(いや、外に出るなら僕に断らなくても自由に出ればいいのにな、と思っただけ)」
『身体的には問題ありませんが、少し疲れるかもしれませんので、こちらの世界でお休みいただいている間に、わたしたちが勝手に外に出るという感じの方が良いと思いまして。嫌なら元希が起きたまま外に出ますが』
「(そこら辺の判断は、リンに任せるよ。僕はどっちでも大丈夫だからさ)」
『そうですか。ところで、わたしたちが外に出た場合、この愚弟は何処で生活させればいいのでしょうか? 近くの池にでも放り込んでおけばよろしいですか?』
『何故そうなるんですか、姉上! 放り込むならこの餓鬼を……』
『何か言いましたか?』
『いえ、何でもありません……』
リンに睨みつけられて、シンは大人しく引き下がった。この姉弟のパワーバランスは、実に分かりやすいな……
「(なんならリンとシンの分の新しいテントを用意するし、それが嫌なら結界でプライベートスペースを用意するけど)」
『では、この愚弟はその結界で覆ってください。わたしはそのまま元希と同じテントで寝泊まりしますので』
「(だってさ。シンもそれで良い?)」
『……好きにしろ』
リンに逆らう事が出来ないシンは、リンの言葉を不承不承ながらも聞きいれたのだった。てか、僕はどうやって現実世界に戻ればいいんだろうか……
当分は元希君の中で……