僕は少し気になった事があったので、トイレだと断りを入れて理事長室から外へ出た。そして気を失わない程度に意識を内側へと向け、疑問に思っていた事を聞く。
「(シン、僕の身体を乗っ取ったでしょ。記憶を失わない程度に)」
『なんだ、気づいたのか。さすがは姉さまが認めただけはある、褒めて……あだっ!? 姉さま、痛いですよ』
「(でもどうして? 僕は君が乗っ取らなくても日本支部の人たちに君たちの居場所を教えるつもりは無かったのに)」
『どうして? そんなの決まってるだろ。あいつらが気にいらなかったからだ。これは姉さまも同意見だ』
「(リンも?)」
まぁ、あの人たちはシンだけでは無くリンも消滅対象として考えてるっぽかったから、リンが怒っても不思議ではないが……
「(でも、君が僕の身体を乗っ取った理由にはなって無いよね? 僕も追い返すつもりだったんだから。それは僕の内側にいる君たちにも分かったはずだ)」
『お前のやり方ではぬるいのだ。相手の様子を窺うようなやり方は気に食わん』
『言葉が悪いですが、わたしもこの愚弟の言い分を指示しますよ、元希。貴方は優しいが故に強く物事を言えない性質です。それだとあの傲慢な魔法師を打ちのめす事は出来なかったでしょう』
「(でも、出来る事なら仲良くしたいし……)」
『それが甘いと言っているのだ! いいか、あんな傲慢な人間、俺が喰らって……じょ、冗談ですよ姉さま』
「(僕の中でなにしてるのさ……)」
声は聞こえるが映像は見えない。だからこの姉弟が何をしているのか僕にはサッパリなのだ。
『とにかく、俺が貴様の内側にいる間に、貴様を少しでも男らしくしてやるからな』
『あまり愚弟に侵されないように、気を付けて下さいね元希。貴方までこの愚弟のように考え無しになってしまっては困りますから』
「(あはは……気を付けるよ)」
何だかシンが不憫に思えてきたが、あんまり影響を受け過ぎると僕もリンにこんな風に扱われるのだと思って、少し同情するのを止めた。それくらいシンはリンに呆れられているのだから。
「さてと……あんまり長いと不審がられるし、そろそろ理事長室に戻ろうかな」
シンが撃退してくれたけど、僕もあれくらい自分で出来るようにはなりたいな……まぁ、強制送還はやり過ぎだとは思うけどね。
理事長室に戻り、僕は恵理さん、涼子さん、リーナさんと今後の事を話あった。とりあえずリンとシンの加護は続いているので、今すぐリンたちを僕の内側から出す必要は無いのだ。だが、何時までも神様不在では、また別の神族が暴れ出すのではという懸念は最もなものだと僕も思った。
「元希ちゃんの内側で回復してるっていう神様は、どれくらい時間を掛けるつもりなの?」
「前の姿ではまともに力を使えないって言ってますので、少なくともあと一週間は掛るかと思います」
「一週間ね……その間に新しい問題が発生しない事を願いましょう」
「姉さん、日本支部から抗議の文書が送られてきましたが」
「無視よ、無視。せっかく元希君が追い払ってくれたんだから」
「あはは……」
本当は僕じゃない、なんて言い出せない雰囲気だな……まぁ、僕の身体を使ったシンが追い返したんだから、強ち僕が追い返したでも間違いでは無いんだけどさ……
「いっそのこと、日本支部ごと吹き消しちゃおうかしら」
「さすがにそれは……この学校のように、生徒だけでモンスターを追い払えるって訳では無いんですから」
「他の学校の為にも、一応あいつらは必要なのよね」
「威張り散らして、可愛い生徒を見つけると声を掛けるようなやつらより、私たちに相談してくれればいいのに……転移魔法で一瞬で駆け付けるのに」
「そんなことしたら路頭に迷う人たちが出てきちゃいますよ……人の仕事を盗るのはマズイですって……」
あまりに過激な考えを持っている恵理さんに、僕は一応釘をさしておいた。僕程度で何処まで抑えられるか分からないけどね……
解離性同一性障害……とはちょっと違いますが、そんな感じだと思ってください。記憶は元希君が全て引き継いでますがね……