日本支部の人たちを追い払った事は、炎さんたちにも伝わっていたようで、拠点に戻った僕は手荒い歓迎を受けた。もちろん、気を失うほどではないが……
「いやー、まさか元希が日本支部の連中を追い払えるだけの度胸があるなんて思って無かったぞ」
「ですが、確かに水神様は私たちを護ってくださっておりました。討伐される言われはありませんでしたわ」
「いくらわたしたちが無害を訴えたとしても、日本支部の方々は水神様を討伐したでしょうけどね」
「あの人たち、思い込んだら止まらないらしいからね」
「それにしても、見事だったようね、元希君」
「初め聞いた時は驚きましたが、元希さんも男の子ですものね」
何だか酷い言われようだが、僕は最初から男だし、僕の身体を使ってシンが追い返したのだから驚くのは無理は無いだろう。
『おい、分かってると思うが、俺たちの事は言うなよ。色々と厄介だからな』
『愚弟の意見はともかく、元希の負担になるでしょうし、わたしたちの事は内密にお願いします』
不意に頭に直接声が響く。どうやらリンとシンの事は皆には内緒にしなければならないらしい……さて、どうやって日本支部の人たちとのやり取りを説明したものか……
「あったりまえじゃない! なんて言ったって『私の』元希君だもの!」
「姉さん、生徒相手に張りあうなんて……恥ずかしくないんですか?」
「全然!」
「そうですか……それと、一つだけ訂正させていただきますが、元希君は姉さんのでは無く私のです」
うえぇ! 訂正ってそこなの!? てか、僕は誰のものでも無いんだけどな……
『お前、随分とモテるんだな』
『当たり前です。我らの主なんですよ』
そこ、自慢しなくて良いから……てか、何の根拠にもなって無いから……
「元希ちゃんは私がアメリカに連れて帰る予定だったのに! まぁ、もうアメリカに義理立てする必要も無いから、このまま元希ちゃんと愛の逃避行でも……」
「「一人で行け(行きなさい)」」
「相変わらず息ピッタリね、貴女たち……」
とりあえず、今分かる事は、この場に誰も味方がいないという事だろうか……唯一助けてくれそうなバエルさんも、今はどうしようもないって顔してるし……
「お主ら! 我が主様が困っておるだろうが! さっさと離れるのじゃ!」
「水! 今まで何処に行ってたのさ!」
「何、水害被害のあった村をちょちょっとな。それよりも主様、近隣集落で日本支部の連中が威張り散らしてるとの情報が……」
「それなら元希君が纏めて解決してくれたわよ」
「何と!? さすがは我が主、見事な手際よの」
「あ、あはは……」
そんな情報、僕聞いて無かったんですけど……そんな意味を込めた視線を恵理さんに向けると、何を勘違いしたのか恵理さんが飛び込んできた。
「うわぁ!?」
「さっすが私たちのナイト! ご褒美にチューしてあげる」
「姉さん! それは私の役目です!」
涼子さんを筆頭に、次々と僕目掛けて飛び込んで来る。当然僕は一番下にいるわけで、一人増える度に僕にかかる体重は増して行く――つまり僕は意識を失った……
誰が助けてくれたのか、それ以前に誰がここ迄運んでくれたのかも分からないけど、僕は自分のテントで目を覚ました。てか、良く生きてたな、僕……
「自分で思ってるほど弱くないのかもしれないな、僕の身体」
霊峰学園に通うようになって、僕は何度か押しつぶされているけど、不思議と何処も怪我をした記憶がない。これは僕の身体が頑丈なのではないだろうかと思えてくるよ。
「気が付きました?」
「バエルさん……僕をここに運んでくれたのって」
「はい、同じテントですから。それに水様とリンちゃんはまたいなくなってしまいましたし」
「また? リンが帰ってきてたの?」
リンの気配は僕の内側にちゃんとあるんだけどな……
「いえ、水様だけですよ。リンちゃんは相変わらず帰ってきてません」
「そっか……今はとある場所で魔力を回復させてるから、そのうち戻って来ますよ」
「そうですか。でも、今だけは二人がいない事に感謝しなきゃいけませんね」
「? それって……っ!?」
どういう事なのか、とは続けられなかった。なぜなら、僕の唇はバエルさんの唇によって塞がれているからだ。
出遅れをものともしない行動力はさすが……