恵理さんと涼子さんの黒い考えを聞かされた僕たちは、何となく居心地の悪さを覚えたので理事長室から逃げ出すように帰路に就いた。
「何だか凄い事聞かされちゃいましたね」
「僕もああなるのかと思うとぞっとしますよ……」
僕と恵理さん、涼子さんは全属性魔法師としてどの国からも注目されるのだ。一応学生である僕はまだそれ程でも無いんだろうけども、正式なライセンスを持っている二人がどのように見られてるのなんて想像出来ない。多分誰にも分からない苦労とかがあったからあれほど黒い事をサラリと言ってのけるのだろうな……
「僕、戦闘魔法師目指すのやめようかな……」
「やめてどうするんですか?」
「自然保護とか土地開拓とかを専門にする魔法師を目指そうかと……」
「元希さんが普通の魔法師ならそれも可能でしたでしょうし、本人が目指したいと思っているのなら尊重されるべきでしょうが、先ほど元希さんご自身が言ったように貴方は全属性魔法師、戦闘魔法師になるしか道は無いんですよ」
「そうなんですよね……」
恵理さんや涼子さんだって、望んで今の地位にいるわけでは無いのだろうし、おそらく僕も望まない未来が待っているのだろう。
「せめて国籍は奪われたくないな……」
「国籍フリーにしてもらえば良いのでは? 無国籍とは別の意味で入国審査は必要ありませんし」
「でも結局は、不法滞在って言われるんだろうし……」
こうなったら僕も霊峰学園で教師を目指すしか方法は無いな。今リンとシンが僕の中にいるからかもしれないけど、あの土地の事が心配でたまらないのだ。あの場所の管理が出来るのなら、僕は教師だろうがなんだろうがやってみせる……といっても当分先の事なんだけどね。
「おーい! 元希たちも今帰りか?」
「こんなところで奇遇ですわね」
「炎さん、それに水奈さんも。何してたんですか?」
「許可を貰って魔法訓練をな。攻撃ばかりじゃダメだって思い知らされたし、ちょっと改良出来たらと思ってさ」
「前に元希様が指揮された戦闘で、岩を砦に使いましたでしょ? あれを改良して攻撃を防ぐ魔法を作れないかと思いまして」
なるほど。それで炎さんはこんな時間まで……ん? だったら水奈さんは何で残ってるんだろう……付き添いとかかな?
「でも全然ダメだったんだよな……水奈の攻撃すら防げなかったし」
「所々脆い個所がありましたからね。そこに集中して攻撃をすれば私でも破れますわ」
「一重で防ごうとしたの? 戦場で使うのなら二重三重に重ねて作らなきゃダメだよ。岩を別のものに……何かもっと硬いものに変化させるのなら別だけど」
それなら一重でも防げるかもしれないけど、変化させるよりは二重三重に重ねた方が負担が少ないし確実だろう。変化の魔法は成功率が低く研究も凍結されているとか聞いた事があるし。
「変化ねぇ……例えば?」
「金剛石とか?」
「ですが元希様、変化の魔法は私たちでは使えませんわ」
「うん、だから重ね掛けの方が確実。明日僕たちもその訓練に参加しても良いかな?」
「それは構わないけど、バエルもか?」
「おそらく、私は攻撃側で参加するんだと思いますよ」
視線で問われ、僕は頷いてバエルさんの推測を肯定する。水奈さんの攻撃でも十分威力はあるけれど、バエルさんと一緒の攻撃でも防げるような技を編み出した方が実戦で使えるし、より安全だと言えるだろうしね。
「こうなったら美土や御影、秋穂も呼んで全員で特訓だ!」
「気合入ってるね、炎さん」
この気合いが空回りしなければ、きっと上手くいくだろうな。こうして皆と特訓するとかなら良いけど、何処か遠くに派遣されるとかがあるのが嫌なんだよね……戦闘魔法師になるなら仕方ないのかもしれないけどさ……
次回から特訓に入ります