属性ごとに陣を作っておくのは悪い事では無い。だけど、一人ですべてを賄いきれないとなると、集団行動が必須になってくる。幸いな事に、ここには二種類の魔法を使い分ける事が出来る魔法師が四人と、一種類ながらも強力な魔法を放つ事が出来る魔法師が二人いる。だからこのペアで行動をすれば、とりあえず全ての属性に対する防御陣を作る事は可能なのだ。
「次は炎と岩に対する陣かな。中心は水奈さんで、補佐は御影さんお願い」
「炎は水で防げますが、岩はどうやって防ぐのでしょうか? 氷では砕けてしまいますわ」
「だから御影さんの補佐が必要なんだ。氷に闇と光を纏わせて岩に対する強度を上げる。もちろんそれだけじゃ砕けるかもしれないから、水奈さんは氷の強度を最大まで高めるように集中して」
「元希君、ちょっと聞きたいんだけど」
御影さんに袖をひっぱられ、僕は御影さんと一緒に皆から少し離れた場所に移動した。
「なに?」
「岩に対して、何でボクなの? 美土の方が有効だと思うんだけど」
「岩は光を浴び続けると少しずつ脆くなる。御影さんの威力なら結構強度を低くする事が出来る。そして闇だけど、別次元に飛ばせれば一番いいんだろうけどもそれは難しいから、次元の狭間を作り出して岩を少しずつ削るんだ。そうすれば氷の陣にぶつかる時には脆く、そして小さくなってるだろうから」
「ボクに出来るかな……」
「出来なくても、それを出来るようにするための特訓だよ。最初から出来なくても大丈夫だから」
御影さんなら問題無く出来るだろうけども、何事においても完璧なんて存在しない。何処かしらに綻びが出来、そこから破綻する事が多いのだ。だから絶対などという言葉は使わずに御影さんを励ましたのだ。
『意外と現実主義なのですね、元希は』
『つまらない生き方してるんだな』
「(別にいいでしょ。現実を見て生きてかなきゃ)」
この年でつまらない考え方だと僕も思うけど、そうでもしなきゃ生きていけなかったんだから……
「それじゃあ早速攻撃するぜ。さっきのお返し、受けやがれ!」
「いきなり全力ですか……よっぽど水を浴びたのが腹に立ったのでしょうね」
「うん……僕もぶつけたから、後で怒られるかも」
炎さんが最初から全力なのを見て、僕は少し恐怖した。いくら隙間の恐ろしさを教える為とはいえ、あれはやり過ぎたかもしれないな……
「ちっ、さすが元希考案の策だな。なかなか破れない」
「元希さん、わたしの目の錯覚じゃなければ、炎の岩が小さくなっていっているような気がするのですが」
「あれは御影さんの魔法だよ。光を浴びせ強度を落とし、闇で次元の狭間を作ってそこで削ってるんだ。最大のままで氷にぶつかれば、どうしても岩の方に歩があるからね」
相手の方が強いのなら、その力を削ぎ落とせばいい。それがこの陣の最大のポイントだ。大きさでも強度でも、岩に勝てる属性は無い。水や風で押し返したりすればいいのかもしれないけども、それはかなりの体力と魔力を消耗する。それだったら相手の力を削いで軽くする方が楽なのだ。もちろん、炎さんの力がより強大になれば使えなくなるかもしれないけどね。
「これなら岩属性の魔物が現れても、それなりに時間を稼げますね」
「その間に攻撃して、相手を弱らせる事が可能でしょうね。さすが元希さん、考えていますね」
「うん……でも一番は、こんなものを使わなくても良い世界になる事なんだけどね」
常に魔物の恐怖と隣り合わせではなく、魔物など気にしならない世の中になるのが一番なのだ。でも、それは不可能に近いので、僕はなるべく皆が傷付かないように陣を考案しているのだから。
今年一年、お付き合いいただきありがとうございました。来年もよろしくお願いします。