生活拠点に戻る途中で、キマイラが僕に話しかけてきた。
「お主、何故その身に神を宿しておるのだ?」
「失った神力を回復させる為に僕の中にいるだけですよ。元々は二柱とも実体を持っていましたから」
「そなたの中は回復するのにちょうどいい場所、というわけか」
「元希は全属性魔法師だからな。だいたいの力なら元希一人で何とでもなるんだよ、おっさん」
キマイラの背中をポンポンと叩く炎さんは、どこか楽しそうな表情をしている。
「そうか……お主が三人目の全属性魔法師じゃったのか」
「そうだぜ。さっき会った理事長と早蕨先生が残り二人の全属性魔法師なんだぞ」
「では日本支部が霊峰学園を襲おうとしていたのは、そこの確執が原因というわけだな」
「何でも理事長先生と早蕨先生は、日本支部の魔法師と仲が悪いって噂だし、この間元希もやらかしたらしいからな」
あれは僕が原因ではなく、日本支部の人が余りにも高圧的、かつ上からだったのでお帰り願っただけなんだけどな……まぁ、確執と言えばそうなっちゃうのかもしれないけど。
「ところで、使い魔って召喚とかするんだよな? 面倒だからこのまま生活してくれよ、おっさん」
「ワシはそれでも構わないが、他の連中は大丈夫かの? ワシの姿を見てビビるようなヤツはおらんのなら問題ないがの」
「大丈夫だって! みんな、さっき会ってるんだから」
「? 霊峰学園の生徒というのは、さっきの七人だけなのか?」
「今の拠点で生活してるのはそうだぜ。学年上位の七人で生活してるんだ」
そもそも今の生活をしている理由は、リンの力が失われて加護が切れてしまった土地を守る為であり、リンの力が完全に戻れば終わるはずだったのだ。だけど思ってた以上にリンの消耗が激しく、挙句の果てにシンの登場によってリンは実体を保つ事すら出来なくなってしまった。
「なるほど、お主たちも色々とあるんじゃな」
「僕、何も言って無いけど……」
「顔に書いてあるわい。お主は結構分かりやすい性格のようじゃな」
「元希は高校に上がるまで田舎で生活してたからな。人間の怖さをあまり知らないんだよ、おっさん」
「田舎、とな? お主は自然に生まれてきた全属性魔法師だというのか?」
「自然に、ってどういう事です?」
恵理さんも涼子さんも普通に生まれて、普通に育ってきたはずだし、僕も普通に生まれて、普通に育ってきたつもりだ。それが違うとでも言うのだろうか?
「いや、早蕨姉妹は両親が魔法師ですら無いのに全属性魔法師として活躍しておるから嫌われておるのじゃが、お主の両親は魔法師なのか?」
「違う、と思うけど……」
そもそも僕は、父親が誰なのか知らないのだ。お母さんは普通の人だったけど、お父さんが魔法師なのかな? とは思った事はあった。だけど、そもそも僕の田舎には魔法師はいなかったし、全属性魔法師が珍しいのだという事も知らなかったのだ。
「ワシの思い違いならそれで良いんじゃが、お主の出自、一度調べた方がいいかもしれんな」
「おっさん、あんまり重苦しい話しは無しにしようぜ。今日はおっさんの歓迎会だからな」
「なんと! こんなワシを歓迎してくれるというのか」
「当たり前だろ! アタシたちの新しい仲間なんだからよ」
炎さんとキマイラが楽しそうに話しているのを聞きながら、僕は自分の出自が気になって仕方なかった。もしかしたら僕も、キマイラと同じ人工生物なのかもしれないと思ってしまったのだ……
何となく重々しくなってきたな……