調べが難航しているのか、その日学園に恵理さんと涼子さん、リーナさんの姿は無かった。重要案件とか来たらどうするつもりだったのだろうかと考えたけど、それは僕が考えても仕方の無い事なので途中からは気にしないようにしていた。
「元希、ちょっと良いか?」
「健吾君。どうかしたの?」
普通科と魔法科を繋ぐ渡り廊下の向こう側から健吾君に声を掛けられ、僕は渡り廊下の丁度中央まで足を進める。健吾君も同じように中央までやってきて、そこで会話を始めるのが僕たちの決まりだ。別に互いの校舎に立ち入り禁止と言うわけではないのだけども、どうしても居心地が悪いのだ。
「理事長たちがいないらしいな。教頭が誰かと電話してるのを偶然聞いたんだが」
「調べ物らしいよ。それで教頭が誰と話してたか分かる?」
「いや……だけどかなり偉い人だって感じはしたな。『先生』って呼んでたから」
「『先生』? 代議士の人かな……それとも大学の教授とか?」
あの教頭が「先生」と呼び、健吾君が教頭より偉そうだと感じたという事は、少なくともこの学園の教師ではなさそうだしな……
「何となくだけど、嫌な感じがしたから理事長たちに伝えようと思ったんだけど、いないって知ったから元希に伝えたんだが」
「ありがとう。恵理さんたちに伝えられるなら伝えとくよ。今朝から連絡つかないけどね」
「そうなのか? 元希からの電話にも出ないって事は、相当集中してるんだな」
「どういう意味?」
別に僕からの電話だから優先的に出る、何て事は無いと思うんだけどな……
「だって理事長先生や早蕨先生って、元希の事好きだろ? 好きな相手からの電話に出ない程忙しいんじゃないかと思ってさ」
「そんなものなの?」
「そう思うぜ」
健吾君の話に首を傾げた僕だったけど、ふと思い出した事があったので健吾君に相談する事にした。
「ちょっと話が変わるんだけど、相談しても良いかな?」
「相談? 元希が俺に? 勉強の事じゃないよな」
「うん。ちょっと分からない事があって……」
そう前置きしてから、僕はバエルさんと一緒にいる時に起こるドキドキや、一緒にいて安心したりする事を健吾君に話した。これが何なのか僕には分からないけど、健吾君なら分かるかなと思っての事だ。
「完全に恋じゃねぇか、それ。一緒にいてドキドキするけど、一緒にいれて嬉しいんだろ? 何で分からなかったんだ?」
「恋……これが? いや、だって……分からないも何も初めてだし……」
「初めて!? この年になって初恋だって言うのかよ……どれだけ鈍感なんだよ、お前」
「だって! 僕の田舎には仲良かった同年代の女の子なんていなかったし、それにそんな事を考える余裕もないくらい忙しかったし……」
「お前の田舎、どうなってるんだよ……まぁ、とにかくその反応は間違いなく恋だな。誰だかは知らないが、元希が好きになった相手なら悪いヤツじゃないんだろうさ。俺は応援するぜ」
「ありがとう。ところで、健吾君は好きな人とかいないの? 僕も応援したいんだけど……」
健吾君は頭も良いしカッコいいから女の子に人気があるだろうしね。誰が相手でも問題なさそうだけど……
「俺は今のところいねぇな。元希と喋ってる方が楽しいし」
「そうなの? 喜んでいいのかな、それって?」
「喜べって。魔法科の連中って普通科の人間を避ける感じがするし、普通科の人間も魔法科の生徒を見下し傾向があるけど、元希やその周りの人はそんな感じしないしよ」
「だって、魔法が使えるか否かの差があるだけで、同じ人間でしょ? 見下す必要もなければ避ける必要もないじゃん」
「俺もそう思うんだけどよ、他の人間は違うみたいだぜ」
健吾君と談笑している間、僕は自分が望まれて生まれてきた子供では無いかもしれない、という不安を忘れる事が出来ていた。これが友達の力なのかと、心の中で健吾君にお礼を言ったのだった。
タイプは違うけど同じ天才ですからね。