漸く帰って来た恵理さんと涼子さんから、理事長室に来るように言われたので、僕は一人で理事長室へと向かっていた。それにしても、授業中だったのに呼び出すという事は、何か分かったんだろうか……
「失礼します、東海林ですけど」
『開いてるから入ってきて』
ノックして名前を告げると、恵理さんの声が返って来た。声の感じからすると、別に疲れているとかそういった事はなさそうだ。
「失礼し――」
「元希君、久しぶり!」
「うわぁ!?」
理事長室に入った途端、恵理さんの熱烈歓迎に遭った。凄い勢いで抱きつかれたから、危うく倒れそうになってしまったよ……
「姉さん、あまり元希君を困らせちゃダメですよ」
「分かってるけど、暫く会えなかったから存分に元希君を感じようと思って」
「二人とも、リーナさんは? 一緒だったんじゃ」
「リーナは別行動よ。それに、まだ調べ終わって無いってこの前聞いたわ」
あれ? 一緒に行動してるって聞いてたんだけど、どこかで別れたのかな?
「早速だけど元希君、貴方の出自は一応分かったわ。聞きたい?」
「……聞きたくないですけど、聞かなければいけないでしょうね。覚悟は出来てます」
「そう……じゃあ言うけど、貴方はあの田舎で生まれた人間では無かったわ。何処を調べても貴方の出生届はあの村役場にはなかった」
「役場を調べたんですか? どうやって?」
今の時代、個人情報を開示させるのは国家権力でも難しいのに……
「それは内緒。でも『東海林元希』の出生届は間違いなくあの役場には出されていなかった。そして君のお母さんも、本当のお母さんじゃないみたいよ」
「育ての親、って事ですか?」
「そうみたいね。何であの人を選んだのかは分からなかったけど、別の場所で生まれた元希君をあの女性が育てたのは確かよ」
「父親の方は、姉さんと私では調べられませんでした。多分リーナが調べてるのはそっちだと思います」
「父親も母親もハッキリしないなんて……やっぱり僕はキマイラのように人工的に造られた存在……」
全属性魔法師は、普通の家系から生まれるはずはない。でも恵理さんと涼子さんだって普通の魔法師の家庭で生まれて、全属性魔法師なんだよね……じゃあ僕も普通の魔法師の家庭で生まれた魔法師の可能性があるんじゃないだろうか?
「一応DNA鑑定もしたけど、やっぱり元希君の親は分からなかったわ。育ててくれたお母さんとは、完全に一致しなかったし」
「ちょっと気になったんですけど、人工的に造られた人間の場合、その元となる人間がいるはずですよね? 無の状態から人間を造り出す研究なんて、聞いた事ありませんし」
「そのはずよ。私たちも聞いた事無いもの」
「昔アメリカでそのような研究がされていたはずですが、成果が出ずに研究は中止になったとリーナが言っていました。ですから何処の国でも無の状態から人間を造り出すのは不可能です」
「それに、元希君は人工人間じゃないわよ。それは私たちが保証するわよ」
何か根拠があるのだろうか? もしあるのであれば教えて欲しい。この不安を打ち消す根拠が欲しい。
「元希君は私たちと似た感じがするのよ。全属性魔法師であるだけで世間から恐れられ、本当の親も分からず生きてきた私たちと同じね」
「でも私たちは人工人間じゃありません。人工人間は感情を持たないと言われてますし、もし人工人間なら日本支部の連中が意地でも手に入れたいと思うでしょうし」
根拠としては弱いけど、恵理さんと涼子さんが信じているのなら、僕もその可能性を信じよう。もし何かあっても僕一人で背負わなくても良いんだと思えば、少しは楽になるだろうしね。
この悩みは解決するのだろうか……