理事長室に集まった僕たちは、早速リーナさんの話を聞く事にした――のだけど……
「いやー、何日も元希ちゃんと離れてたからねー。もう少し抱きしめさせて」
「く、苦しい……」
リーナさんの抱きしめられて身動きが取れなくなってしまった。
「リーナ、早いところ情報を聞かせてくれないかしら?」
「元希君も気にしてますし、私たちも自分たちの出自がハッキリしないと分かった今、貴女の情報が必要なんです」
「しょうがないわね……元希ちゃん、後でまた抱きしめさせてね」
断りたいけど、リーナさんの眼が断ったら言わないと言っているので仕方なく頷いた。
「まず恵理と涼子の出自だけど、貴女たちから聞かされてた両親の戸籍を調べたけど『早蕨』って苗字じゃなかったわ。貴女たちが一緒に生活してた十数年だけその姓を名乗ってたらしいけど、今は別の姓だったわ」
「つまり、私たちも養父母に育てられたってわけね」
「そうなるわね。それから元希ちゃんのルーツを探ってみたけど、やっぱり元になった人のデータは見つからなかったわ。元々無いのか、それとも私でも探れない程深い場所に隠してあるのか」
「日本支部のデータで、リーナが探れないものがあるのね」
「余程隠したい事なんじゃない? 人工魔法師実験は、人道的にも技術的にも廃止されて当然の研究だったんだし」
その実験が行われていたのは、三十年以上前の話しで、もしその実験が密かに続けられており、僕や恵理さんたちが造られたとしたのなら、これから先また同じような境遇の子が造られるのかもしれない。
「これはついでだけど、日本支部のお偉いさんがここの副校長から多額の賄賂を受け取ってるわね。何に使ってるのか分からなかったけど、表に出せないお金だって事は確かだし、おおっぴらに出来ない事に使ってるのも確かよ」
「あの禿げ親父は早々にクビにするとして、もしそのお金で人工魔法師実験が行われてるのだとしたら、最悪死んでもらうしかないわね」
「姉さん、殺すにしても私たちがやったとバレないようにしないといけません。多分どんな手段で殺してもバレるでしょうけども、なるべく証拠を残さず、かつしらばっくれられるようにしてください」
……物凄く物騒な事を話してるけど、今はツッコまないでおこう。それよりも今後どう動くかだ。
「私はもう少し探りを入れに行くから、テキトーに学校側への説明よろしくね」
「私が理事長なんだから、リーナ一人休んでる理由をでっちあげるくらい楽勝よ。それより、あまり深追いし過ぎて返り打ちに遭わないでよね」
「大丈夫だって。それより、元希ちゃんの田舎の事だけど、あの場所には日本支部の研究施設があるって噂よ。何か知らない?」
「研究施設……ですか?」
リーナさんに問われ、僕は田舎の光景を思い浮かべる。確か立ち入り禁止区域があったような……でもあそこは毒蛇や毒キノコがあるから入らない方が良いって言われてる場所だし……でも、今思えば不自然じゃないか? 毒蛇がいるのなら退治すればいいのに、誰もそんな事言いださなかった様な……
「心当たりがあるのね?」
「立ち入り禁止区域があって、今思えばそこに研究施設があったのかもしれません」
「地図、書けるかしら?」
「絵は上手くないですけど」
僕は覚えてる限りの田舎の光景を絵に起こしリーナさんに手渡した。もしあの田舎で研究が行われているのなら、僕はそこで造られたと言う事になるのだろう……
「それじゃあ、元希ちゃんを思う存分抱きしめたら出掛けるわね」
「気が済むなんてあり得るの?」
恵理さんの質問に、リーナさんは不気味な笑みを浮かべるだけだった。結局リーナさんが再び出掛けたのは、二時間僕を抱きしめた後だった……
色々と問題山積みに……