戦闘訓練はなにも授業だけじゃない。放課後の自主訓練も恵理さんと涼子さんの帰還によって再開されることになったのだ。
「それにしても、炎の大爆発魔法は相変わらずなんだね」
「もうちょっとで完成しそうなんだけどな。秋穂の岩石落とし、だっけ? あれはどうだ?」
「まだ大きさがね……元希君が見せてくれたような大きい岩はまだ動かせないかな」
「まぁ元希さんですからね。秋穂さんも気にしすぎないようにした方がいいですよ」
美土さんの言葉に、秋穂さんが大きく頷いた。秋穂さんは炎さんみたいに一足飛びで習得しようとは思ってないようだね。
「バエルのは? 今日元希が使った魔法を教わったんだろ?」
「A組はS組と違って、それほど高度なプログラムを使ってませんので『コキュートス』を使う機会はなかなか……」
「そうなんだ。授業進度ってそんなに違うんだ」
「御影は知ってると思ってたんだけどな。やっぱりエリート集団は違うのね」
「別に私たちはエリートではありませんわよ。秋穂さんだって私たちとさほど違わないですわよね」
「魔法力ならね。でも家柄は大分差があると思うけど」
秋穂さんの家だって、魔法大家の四家には少し劣るだけで、優秀な魔法師を輩出してきた名家だって聞いてるけどな……
「家柄なんて気にしてないだろ。秋穂は昔からあたしたちと一緒だったんだから」
「まぁ、親がどう思ってるかは知らないけど、私は炎たちの事を友達だって思ってるからね。家柄なんて気にしないのは私だけじゃないでしょ」
そういって秋穂さんはぐるりと周りを見渡した。炎さんも、水奈さんも、美土さんも、御影さんも、それぞれ魔法大家の出とはいえ偉そうにしているわけじゃないし、身元不明となった僕とも変わらずに仲良くしてくれているのだ。
「さて、そろそろ訓練を始めたいんだけど、準備はいいかしら?」
「はい、お願いします」
恵理さんと涼子さんが体育館に現れ、僕たちも訓練をする姿勢をとる。とはいっても、仮想世界に行ってからじゃないと、訓練も何もないんだけどね。
「さてと、それじゃあ今日も、各自元希君に教わった魔法の練習ね。魔物のランクは中級にしておくから、危ないと判断したら得意の魔法で撃退してね。いくら怪我しないとはいえ、攻撃されたイメージは残るんだから」
「元希君は、別世界で上級モンスター討伐の練習ですね」
「なんで僕だけ別メニューなんですか?」
「だって、元希君は新魔法の練習はしないでしょ? だったら緊急時に慌てないように、今から上級モンスターに慣れておいてもらった方が良いかなーって」
つまり、現場の指揮を僕に任せ、恵理さんと涼子さんは後方支援をしようって魂胆なんだ……まぁいいけど、なんで隠そうとしたんだろう。
「元希君はすでに、暴走した水様、リンちゃんとシンさんを抑えた実績もありますので、よほどのことでは動揺しないと思いますけどね」
「それは買いかぶりすぎですよ、涼子さん。いまだにお風呂では動揺しまくってますし……」
あれだけは慣れちゃいけないと思っている。だって、慣れたらただの変態みたいなんだもん……
元希君、そこは慣れちゃダメだ……