対抗戦二日目は、休憩時間があるので僕はモニター室でゆっくりする事にした。
「おいあれ……」
「全属性魔法師だろ? あんな見た目でえげつないよな」
「可愛い子だと思ってたのに、まさかあんな怖い子だったなんてね」
「きっと性格とかも最悪なんだろうね」
……同じ時間に休憩に入ったE組の人たちが、僕を見てコソコソと何かを言っている。普通なら聞こえないんだろうけども、僕は人より良い耳を持ってるからはっきりと聞こえちゃった……やっぱり僕は何処に行ってもあんなふうに思われるんだな……分かってたけどやっぱり悲しいし寂しいな……
「元希、もっとこっち来なよ!」
「そうですわ。そんな端っこじゃなくって私の膝の上に……」
「水奈が嫌ならわたしの上でも良いですよ」
「皆、元希君が困ってるよ。だから間を取ってボクの上に」
「うえぇ!?」
御影さんの案は全然間じゃないよぅ……とりあえず気まずい雰囲気にはならずに済んだけども、多分四人には聞こえてなかったんだろうな。
「貴方たち、今度元希君の事を悪く言ったら容赦しないわよ」
「姉さん、その時は私も手伝います」
……恵理さんと涼子さんには聞こえてたんだ。やっぱり全属性魔法師って言うのは耳が良いのかな? 他の感覚も鋭い感じがするし……
「そろそろ始まるね」
「秋穂さんの戦術、しっかりと見せてもらいましょう」
「元希さんは見るの初めてだもんね~」
「美土、そう言って元希君におっぱい押し付けるのは駄目」
集中したいのに、皆が僕を集中させてくれないよぅ……でも、何とか意識をモニターに向けなきゃ。
僕は誰かが魔法を使ってるのを映像を通して見るのは初めてだ。だから凄く興味があるんだよね。
「始まった」
「さっそく秋穂さんが仕掛けてますわね」
「でも、影の魔法が無きゃあの仕掛けは引っかかりませんわよ」
「ううん、秋穂さんには考えがあるみたいだよ」
「元希君には分かるの?」
秋穂さんがやったのは、美土さんがやったように地面をくりぬき落とし穴を作る事。だけど美土さんが言うようにあれは影の魔法があったから引っかかったんだよね。でも今回は高位の影魔法師がいない。
「見てれば分かると思うけど、あれは罠じゃなくってあそこに纏めて落すんだと思うよ」
「だって落とし穴でしょ?」
「そうだけど用途が違うんだ。落ちてから仕掛けるんじゃなくって、仕掛けてから落すんだよ」
僕が説明をすると、ちょうど秋穂さんが仕掛けた。逃げ道を無くしていき逃げ惑うB組の人たち。次々と落とし穴に逃げ込むが、それは仕方なくだった。
「えげつない戦術ですわね……」
「囲って囲って、最終的に自分から穴に落すなんて……」
「そこが死地だと分かっていても、とりあえずは逃げられるから逃げ出すって感じだね」
中には落ちた衝撃で気を失って戦闘不能になる人も居た。秋穂さんもなかなか凄い魔法師なんだね。
「今度は何だ?」
「大きな岩で穴を塞いでますわね」
「なるほど。だから元希さんは落してから仕掛けるんじゃなくて仕掛けてから落すって言ったんですね」
「うわぁ!?」
「だから美土、元希君が嫌がってる」
全員を穴に落した秋穂さんは、岩を使って全員を閉じ込めた。その後から他のメンバーが攻撃魔法を仕掛け、そのままA組の勝ちが決まった。
「秋穂は手ごわそうだね」
「ですが、此方には元希様がいらっしゃいますし」
「お姉さんたちがちゃんとフォローしてあげるから、元希さんはしっかりと秋穂さんを倒してくださいね」
「美土ばっかズルイ。ボクも元希君にくっつく」
えぇ!? 今まで真面目な感じだったのに、何でこの二人はそんな空気でも僕にくっついてくるんだろう……
「ズルイぞ! アタシも元希にくっつきたいんだ!」
「私もです!」
「うえぇ!?」
試合が終わったので緊張感がほぐれたのに、別の意味で緊張してきちゃうよぅ……苦しくてもがいていると、誰かが助け出してくれた。
「あ、ありがとうございま……ッ!?」
「「「「あぁ!!」」」」
僕を助け出してくれたのは秋穂さんだったんだけど、そのままキスされてしまった……何で皆僕にキスするんだろう……
「次は勝負しなきゃいけないけど、この場所なら問題無いでしょ?」
「あうぅ……問題はあると思うんだけど」
だって背後からもの凄い殺気を放ってる四人が居るし、秋穂さんの後ろにも恵理さんと涼子さんが凄い殺気を放ってるし……
「元希にキスしすぎだぞ!」
「そうですわ! 大体秋穂さんはクラスが違うじゃないですか!」
「元希さんの唇はお姉さんのものなのよ~」
「秋穂ばっかりズルイ」
「ならみんなもすれば良いでしょ? 昨日みたいにさ」
ちょっと、そんな事言ったらみんな本気にしちゃうじゃないか……僕は気を失うのを恐れて逃げ出そうとしたけども、逃げ出した先には恵理さんと涼子さんが居た。
「捕まえた」
「私たちの前で元希君にキスするなんて、良い度胸してますね」
「あうあうあう……」
恵理さんに捕まり、涼子さんの殺気に僕はビックリしてしまった。だって普段優しい涼子さんがこんな殺気を放つなんて思って無かったから……
「先生たちも元希君にキスすれば良いじゃないですか。それでお相子ですよ」
「……それもそうね」
「!?」
逃げ出そうにも、恵理さんに抱きしめられてる為に身動きが取れない。もうじき次の試合だって言うのに、僕は意識を手放すのだった……何で一日一回以上気を失わなきゃいけない生活をしてるんだろう……僕は魔法の勉強をしにこの学校に来たんだけどな……
人気ものは辛いんでしょうね……