特訓を終えて拠点に戻ると、水の所でお手伝いしているはずのアマが僕たちのテントの前で待っていた。よく見ると何かを咥えている。
「これを、僕に?」
僕を見つけるとすぐさま駆け寄ってきて、その咥えていたものを僕に押し付けるように、身体ごとグイグイとすり寄ってきた。
アマが咥えていたものは、水からの手紙だった。
「なんて書いてあるんですか?」
同じテントで生活しているバエルさんも、手紙の内容が気になったようで、僕の横から手紙を覗き込んできた。
「……これは大変ですね。すぐに向かいますか?」
「みんなが疲れてないなら、僕は今すぐでも大丈夫だよ」
とりあえず先にアマを水の所へ返す。報酬として、アマに水魔法をかけてあげると、ピョンピョン跳ね回り喜びを表現する。この姿は実に癒されるな。
「それじゃあ、これを水に届けてね」
準備が出来次第向かう、という内容の手紙をアマに咥えさせ、僕はみんなの所へ移動する。
「おー、元希。今から風呂に――」
「水が代理で治めてる土地の近くに魔物の目撃情報があるらしいんだ。放っておいても問題はなさそうだとは書いてあったけど、一応調べた方が良いと思うんだけど」
「そうですね。特訓だけではコツも掴めませんし、実戦で練習するのも良いかもしれませんわね」
「水奈は実戦を何だと思ってるんです? まぁ、それほど危険な任務でないのでしたら、わたしも賛成ですけど」
「別に危険はないと思うけど、あくまで念のためだし、あんまり派手な魔法は避けたいと思ってるんだけど……」
あんまり派手にやると、水までも参戦したいとか言い出しそうだし……そもそも、本当にいるのかも定かではないんだけどな……
「それじゃあ、元希君とアレクサンドロフさん、それともう二人だけを派遣しましょう」
「……恵理さん、いつの間に」
「ついさっきよ。それに、気配を殺すのも探るのも、私たちの方が元希君より上だしね」
実戦では僕の方が役に立てることが多いらしいが、こういった気配遮断なども偵察などに使えるので、まだまだ恵理さんや涼子さんの方が上だって思い知らされるよな……もう少し頑張らないと。
「今回は偵察が主で、本当にいるのなら討伐、という感じですので、光坂さんは決まりでしょうね。あとは……石清水さんか氷上さんのどちらかが向いていると思いますよ」
「アタシは?」
「岩崎さんは、どうしても闘気が前に出てしまいますから、偵察には不向きです」
さすが涼子さん、炎さん相手でもズバッと言うよね……まぁ、涼子さんはそれが仕事でもあるから当然なんだけどね。
「元希君は、石清水さんと氷上さん、どっちが良いと思う?」
「そうですね……経験値から言えば、水奈さんの方が上ですし、今回は経験してみるって事で秋穂さんの方が良いと思いますよ。危険度もそれほど高くなさそうですし」
「でもよ、実は危ない任務とかだったら、水奈の方が良いんじゃないか?」
「今回はあくまでも偵察――危険度を調べるための任務だからね。そこで戦う事になる……ことは避けたいと思ってるから」
一気に解決すれば一番いいんだろうけども、せっかくの機会だし、じっくりと経験を積んで……あれ? なんでバエルさんは決定だったんだろう……
「アマは水に元希君とアレクサンドロフさんは来るって伝えるだろうからね」
「なるほど……? 僕、何も言ってませんが」
「顔から考えを読み取るのも、私たちの方が上だもの」
……別に優劣をつけなくても良いと思うんだけどな。まぁ、そういう理由なら、頑張って四人で調査しますか。
何だかアマがマスコットみたいに感じてきた……