調査の為に式を飛ばしているけども、今のところ何の進展もないので、僕は今まで積極的に練習してこなかった転移魔法と、念話の射程距離を延ばす努力をすることにした。
「……誰に付き合ってもらえばいいんだろう?」
転移魔法については、恵理さんや涼子さんに手伝ってもらうとして、念話に関しては、誰か他に使える人がいたかどうか分からない……
「あら? どうかしたの、元希君」
「恵理さん……ちょっと偵察用に補助魔法の特訓をしようと思ったんですけど、いざやろうと思ってもどうしたらいいかわからなくって……」
「転移魔法の練習には付き合うわよ。私たちも百パーセント成功するわけじゃないし」
「そうなんですか?」
意外だなぁ……恵理さんや涼子さんの魔法は、威力こそ僕より若干劣るけど、その精度は僕を遥かに凌ぐ腕なんだけどな……
「たまに一ミリズレたりするのよね~」
「それは誤差の範囲では?」
一ミリって……僕はセンチ単位でズレるのに……酷いとメートル単位に到達するんじゃないかってくらいズレるから練習しようと思ってたんだけど、やっぱり二人は次元が違うんだなぁ……
「それじゃあ、元希君は向こうからここを目指して転移してみて。私はあっちからやるから」
「分かりました」
二人同時に同じ場所目がけて転移したら危ないんじゃないだろうか……まぁ、何か考えがあってのことなんだとは思うけど。
「行きます」
頭の中に着地点をイメージし、自分の身体がそこに移動するイメージを重ねる。今は速度はいらないから、その分精度に集中して……
「元希君、二十センチくらいズレてるわよ」
「……やっぱり上手くいきませんね」
「何か雑念でもあるんじゃないの? お姉さんに相談してみなさい」
「何もない、とは言い切れませんが……恵理さんも同じような悩みを持ってるはずですよね?」
「? ……あぁ、出自の事? そんなこと、気にしてもしょうがないしね。リーナが何か調べ上げてくれるでしょうし、気にするのはその後でも良いんじゃない?」
なんてお気楽な考えなんだろうな……とてもじゃないけど、僕には出来ない考え方だ。
「今はそれ以外にも大変なことがあるの。だから、自分のことは一先ず置いておくのが正解」
「僕は、恵理さんほど強くないです……」
「精神面は、確かに脆いかもしれないわね。でも、そんな弱音を吐いてられる場合じゃないかもしれないのよ? 貴方は我が校でも有数の魔力を持つ――はっきり言えば魔力だけならぶっちぎりよ。だから、貴方が鍛えるのはまず精神面。いろいろな事があった今だからこそ、そこを鍛えなさい」
珍しく理事長っぽい事を言った恵理さんに、僕は数回瞬きをしてから頷いて答えた。
「よろしい。ならさっそく――」
「なっ、何をするつもりですか、いきなり!」
僕のズボンに手を伸ばしてきた恵理さんに怒鳴りつける。といっても、それほど迫力はないけどね……
「何って、何をされても動じない心を作り上げるためにセクハラを……」
「手段が最悪ですね、恵理さんの特訓……」
動じない心を作るのは僕も納得できるけども、その方法がセクハラって……
「じゃあ、私たちが素っ裸で元希君に迫ればいいのかしら? そんなに私たちの裸が見たいなら、言ってくれれば何時でも見せるわよ?」
「何でそんな方法しかないんですか! もっと違う方法とかないんですか?」
「そうねぇ……じゃあ元希君が精神統一してる横で、私と涼子ちゃんが色っぽい声を出すとか?」
「……お願いですから、性的な事から離れてください」
「でも、これが一番手っ取り早いのよね……元希君が恥ずかしがる顔を見れて、一石二鳥なんだけど」
「そんな一石二鳥は無くていいです……」
とりあえず、自分でも訓練メニューを考えてみなきゃダメっぽいな……てか、涼子さんにも相談してみよう。
恵理が遊んでるようにしか見えない……