恵理さんとの特訓では、あまり成果が出なかったので、今度は涼子さんに相談することにした。
「心を鍛える、ですか?」
「はい。恵理さんが言うには、僕がいろいろ悩んでるから座標がズレるんだと……」
「なるほど……ですが、それなら心を鍛えるよりも、その悩み事を解決した方が早いのではないでしょうか?」
「確かに、それが一番早いんですけどね……悩み事というのが、その……出自の事とかなので」
「あぁ、なるほど」
何故心を鍛える方を選んだのかが理解できた涼子さんは、納得した感じで頷き、そして腕を組んで考え始めた。
「姉さんが提案した方法ではダメだから、私に相談しにきたんですよね?」
「はい」
「何かを我慢して特訓するのは効率が悪いですからね……元希君、好きな人はいますか?」
「……それが、特訓と何か関係があるんですか?」
こんな答え方では、好きな人がいると教えているのと同じだけども、涼子さんの質問の意図が分からない僕は、そう返事をするしかなかった。
「その人を意識してしまう状況を作って、なるべく意識しないように努力すれば、座標移動の成功率も上がるのではないかと思いまして」
「好きな人を意識しなければいけない状況で、意識しないように努める……ですか?」
「それが出来れば、悩み事があっても座標移動に必要な集中力を確保出来るのではないかと思っただけです」
なるほど……でも、それで上達するのか保証はなさそうだしな……集中力は高められそうなのは確かだけど。
「座標移動の方は考えておきます。それともう一つ、念話の距離を延ばす方法はありませんかね?」
「そっちは地道に精度を上げるしかないのではないでしょうか? 私や姉さんは、念話を使えませんからね」
「練習するにしても、どこまで正確に声を届けられるかが分かりませんからね……」
「学園の敷地内は、確実に大丈夫なんですよね?」
「そうですね……四隅から四隅までを試したわけでは分かりませんが、大丈夫だと思います」
そもそも、この学園は結構広いからなぁ……敷地内全て大丈夫だなんて言い切れるほど自信は無いんだよね……
「じゃあ今日は学園内は完璧かどうかを確認しましょう。私が手伝いますので、元希君は一番隅の体育館に向かってください。私は反対の隅に当たる、バイオマス研究所に向かいますので」
「分かりました。ありがとうございます」
バイオマス研究所は、普通科の生徒が使う場所なので、魔法科である僕が近づくのは何かと抵抗がある。同じ魔法科でも、教師である涼子さんなら、僕たちよりも抵抗は少ないのだ。
「お礼を言われることは、まだしてないと思いますけど?」
「いえ、僕はバイオマス研究所には近づきにくいですから」
「あぁ……普通科の生徒は、魔法科の生徒を恐れたり見下したりする傾向がありますからね。でも、最近はそうでもなかったような気もしますが」
「健吾君とは普通に会話出来ますけど、他の普通科の人に、知り合いはいませんから……」
魔法科でも知り合いと呼べる相手なんて、何時ものメンバーしかいないのに、普通科に大勢知り合いなどいるはずがないんだけどね……
「まぁとりあえずは、到着したら電話してください」
「はい、わかりました」
念話が確実かを確認するために、携帯を使うのもおかしな話だが、相手が到着したかどうかが確認できなければ確かめようもないしね。とりあえず、体育館に向かわなければ。
まぁ、恵理の方法も間違っては無いと思うけど……