念話の練習の為に、僕は体育館に、涼子さんはバイオマス研究所に向かった。本当なら行きにくいバイオマス研究所は僕が行くべきなんだろうけども、涼子さんの優しさに甘えて僕は体育館に向かう。
「涼子さんも普通科の人とは付き合いにくいんだろうな……でも、教師だからって理由で、僕に無理をさせなかったんだろうな……」
それをそうと思わせない感じで言ってのけるあたりが大人なんだろうな……
「はぁ……急いで体育館に向かって、早いところ涼子さんをバイオマス研究所から移動させなきゃ」
教師である涼子さんに酷いことをする人がいるとは思わないけど、普通科の校舎は教頭のテリトリーだし、涼子さんもなるべくなら長居はしたくないだろうしね。
「あっ、涼子さんから電話だ」
涼子さんの方が早く着いたようで、携帯に着信を告げるメロディーが流れる。
「はい、もう少しで着きます」
『分かりました。あんまり急がなくても大丈夫ですよ』
「いえ……はい、到着しました」
『それじゃあ一回電話は切りますね。元希君が念話を繋いで、三分ほどたっても返事がなかったら電話してくださいね』
「分かりました」
電話を切って、僕は影を学園中に広げる。涼子さんはバイオマス研究所の側にいるはずだから……いた。
「それじゃあ念話を繋いで……聞こえますか?」
声に出す必要はないけど、周りに誰もいないし、声に出した方が繋がりやすいらしいしね。
『ちょっと聞き取りにくいですけど、ちゃんと聞こえますよ』
「やっぱりこの距離だとノイズが酷いですね……電波を通してるわけじゃないのに」
念なんだから、ノイズなんて発生しなくてもいいと思うんだけどな……ここら辺が念話がイマイチ普及しない要因なんだろうな。
『それじゃあ元希君、学外に向かってください』
「涼子さんは?」
『私は裏門から出て距離を取りますから』
「ですが、この距離でノイズが発生するんですから、これ以上離れたら通じませんと思いますよ?」
『どこまで通じるかの確認です。ゆっくり移動してみてください』
涼子さんに言われた通り、僕は正門に向けゆっくりと歩き出す。涼子さんも裏門に向かっているので、念話は徐々に通じにくくなっていく。
「聞こえますか?」
『――くいですね』
「そろそろ限界みたいですね」
正門を少し出た辺りで、涼子さんの声はほぼ聞こえなくなってしまった。僕は携帯を取り出し、涼子さんの番号に掛ける。
「今どのあたりですか?」
『裏門を少し出た辺りです』
「僕も正門を出て少し歩いたところですね。さすがに涼子さんの影を掴むのが難しくなってきました」
『影を広げなくても繋げることは可能なんですよね?』
「可能ですけども、影を広げないと射程はさらに短くなりますよ」
それこそ、校舎内くらいしか確実に繋がらないんじゃないだろうかってくらいに……
『そうですか。とりあえず今日は限界を把握出来たので、これで終わりにしましょう。元希君も、何時までも影を限界まで広げてるのは大変でしょうし』
「……バレてましたか」
索敵とは違い、強い感情を探せばいいわけではないので、探索の時と念話の時とでは、影を広げる時の疲労度がだいぶ違うのだ。
『それじゃあ、私はこっちから拠点に帰りますね』
「はい。お付き合いありがとうございました」
電話越しにお礼を言って、僕も拠点へ帰る事にした。明日も恵理さんと座標移動の練習をして、涼子さんと念話の距離を延ばす練習をしよう。
「……結局頼り切りになってる感じがするよ」
二人の助けになればいいと思って練習しようと思ったのに、結局二人に助けられちゃってるな……やっぱりまだまだ助けられる側なんだろうな、僕は……
地道に成長中……