恵理さんと涼子さんに言われるまで、僕はこの雑木林に次元の裂け目が出来ていることに気が付かなかった。この土地の神であるリンが僕の中にいるのにも関わらず……
「むこうの山のよくない空気が、こっちに残っていた邪気を増幅させただけみたいね。一応塞いでおいたから、もう開くことは無いと思うわよ」
「でも、あっちの山とこことでは、大分距離があるはずですよね? 何故引かれあうようにこちらでも問題が発生したのですか?」
「言いにくいんだけど、元希君が原因かもしれないのよね」
「僕……ですか?」
何かやらかしたのだろうか? それとも、この間塞いだ時におかしなことをしてしまったのだろうか?
「あちらの山を治めているのが水でしょ? それで、こっちの雑木林を治めてるのがリン。どっちの主も元希君だから、変な風にパイプが繋がれちゃったみたいなの」
「では、そのパイプを通じて悪い気も流れ込んできた、ということですか?」
「そうなりますね。ですから、元希君には内緒で、私と姉さんの二人で次元の裂け目を塞ぎ、繋がれたパイプに細工をしていたのです」
なるほど……だから僕には何も言わずに作業していたのか。言ったら僕が気にしすぎるから……
「代理の神様なのに、水ったら随分と信仰されているのね。周りの神から嫉妬されるくらいに」
「嫉妬? じゃああの悪い雰囲気は、別の神様が嫉妬しているんですか?」
「少なくとも、こっちの問題の原因はあの山付近を治めている別の土地神の気だったわ。今は私と涼子の力で抑え込んでるけど、私たち二人より、これは元希君にお願いした方が効率が良いわね」
そういって、恵理さんは僕にその土地神が封じられている位置を伝えてきた。僕は脳内でその場所を確認して、二人の魔法を解除して新たな封印をもたらした。
「まだパイプは生きているんですね。あの距離でも的確に場所を掴めました」
「悪い気だけを遮断してるから、干渉するだけなら問題ないもの。まぁ、あまりにも干渉し過ぎるなら、完全に切断しちゃうけどね」
「水が治めている土地から、こちら側にも神気を帯びた水を引けば、この雑木林もすぐに活性化しますからね」
リンとシンが暴れたことで、この土地は活気がない。応急処置はしてあるけども、完全に回復させるにはかなりの時間が必要とされている。水の力でどこまで戻せるか分からないけども、使えるものはなんでも使おう。
「せめて元希君がもう一度あの魔法を放てればいいんだけど」
「もう無理ですよ……それに、土壌は元通りになっていますので、あの魔法の効果はあまりないと思いますけど」
リンが僕の身体を乗っ取り使った魔法は、死にかけていたこの土壌を蘇らせるものであり、その上にあるものには効果が無い。すなわち、生えている草や木には意味がない魔法なのだ。
「派手に暴れてくれたわよね……途中から元希君の身体の中になったけど」
「それまでが大変だったんですよ……特にシンが暴れまわったので」
今はリンに怒られて反省しているが、外に出てきたら恵理さんと涼子さんにも怒られそうだな……まぁ、ある意味自業自得だし、シンの性格なら少しくらい怒られてもへこまないだろうしね。
「それじゃあ、私たちも帰りましょうか。元希君が心配してくれただけでも収穫ね」
「向こう側に干渉ようになったので、調査はここでも出来ますからね」
恵理さんと涼子さんに手を引かれ、その後ろにはバエルさんが付いてきて、僕は拠点に戻ったのだった。
とりあえず、調査はしやすくなりました