狙ったわけではないけど、向こうの山とこちらの林とでパイプが繋がったため、向こうの調査がやりやすくなったのは確かだった。だけど、向こうの気を完全にシャットアウトし続けるには、それなりに魔力を割かなければいけないのだ。この担当は、僕と恵理さんと涼子さんで三分割することになっているけども、均等になっているかと言われれば、多分なっていないだろう。
何せ僕はこういった細かい作業に向いていないのだ。いや、同級生と比べれば大したものだと言ってくれるんだけども、恵理さんと涼子さんと比べれば、僕なんてまだまだだ。
「随分と気合が入ってるわね。そんなにお姉さんとの特訓が楽しみだったの?」
「別にそういうわけでは……」
今日も僕は、恵理さんと座標移動の特訓をした後、涼子さんと念話の練習をする予定になっている。どちらも調査にはうってつけの魔法だし、強化しておいて損はない魔法だ。
「前にも言ったけど、元希君は魔法技能云々より、精神面を鍛えた方が良いのよね」
「だからと言って、恵理さんの提案を実行するわけにはいきませんし」
「私は構わないけども?」
「僕が構うんです! それに、仮にも理事長なんですから、学生との不純異性交遊なんて、教頭に知られたら脅しのネタにされちゃいますよ」
「その時は、あのハゲを消し去れば良いだけよ。大丈夫、私なら確実に殺れる」
「字が違う気がしますけども……」
言葉で聞いただけだけども、なぜか僕は恵理さんが意図した変換が頭の中で出来た気がしていた。そもそも、学園運営において、理事長と教頭の仲が悪いってどうなんだろう……普通科の生徒も、魔法科の生徒との仲は良くないけども、そのあたりも関係してるのかな?
「とりあえず、余計な事は考えずにやってみましょう」
「移動座標は何処にします?」
「部屋の真ん中で良いわよ。とりあえず、歩いて端まで行きましょう」
恵理さんに促され、僕は理事長室の端――窓際に移動して恵理さんは反対側である扉側に移動した。僕の特訓なのに、恵理さんまで座標移動するのは、僕がどれだけズレているかを確認しやすいようにだ。
「それじゃあ気持ちを落ち着けて……」
恵理さんの声に耳を向け、僕は移動する座標を頭の中に描く。今日はそんなに距離があるわけじゃないから、周りの情景は一切必要ない。だからそのポイントだけに集中することにした。
「それじゃあ三秒後に座標移動魔法を展開するわね……3……2……1……」
恵理さんの合図に合わせて、僕は座標移動魔法を展開する。移動するのは一瞬だ。距離に関係なく、この魔法に必要なのは、ほんの一瞬なのだ。
「? なんだか柔らかいものが当たる……!?」
「ちょっとズレてるわね。それとも、お姉さんに抱き着きたかったのかしら?」
僕と恵理さんが目指した座標は、少しズレていたのだが、僕が移動したのは恵理さんが目指す座標だった。
「今日もまたダメだったね。でも、次は大丈夫だから頑張りましょうね」
「励ます前に離してくださいよ~!」
抱きしめられたままじゃ反応出来ないじゃないですか……。とりあえず、今日の特訓でも少しズレてしまった。何度も連発出来る魔法じゃないので、特訓でも慣れるまでは一日一回なので、僕は恵理さんにお礼を言って涼子さんとの特訓に向かったのだった。
元希君のラッキースケベ体質が加速してる……