シンを向こう側に召喚して、僕はその光景を式神を介して見ていた。
『さすがにあの程度なら、愚弟でも問題なく祓えるようですね』
「やっぱり弟が心配なの?」
『別に、あのような愚弟を心配などしません。ですが、愚弟が失敗すれば元希に迷惑が掛かりますし、何より私も同等に思われそうで嫌なだけです』
「別に誰もリンとシンを同じだなんて思わないよ。それに、シンの力が及ばなかった場合、それは僕の力不足だからね。シンが実力を発揮できてないだけだろうし」
涼子さんの予想では、教頭が雇った魔法師の攻撃なんだけど、金で雇われる魔法師レベルで神様に対抗できるとは僕は思えない。そもそも、リンやシンだって、僕たちが力を合わせて漸く大人しくできるだろうってレベルだしね。
「元希君、こちら側にも影響が出始めてますから、一旦パイプを封鎖しますね」
「分かりました。シン、聞こえた? 戻るときはこっちから合図を出すよ」
『声に出さなくても聞こえているわ! そもそも、このまま自由の身に……』
『図に乗るなんて、何時からそんなに偉くなったのかしら、愚弟』
『あ、姉上……ですからその「愚弟」という呼び名は止めてください』
僕の脳内で姉弟の会話が繰り広げられるのは、何度体験しても慣れないな……てか、この内容は何回目だろう……
「元希君、あとどのくらいかかりそうですか?」
「広範囲に及んでますから、少なくともあと一時間くらいはかかるでしょうね。祓うだけじゃなく、シンには鎮めてもらおうと思ってますし」
邪念を操作してるのか、あの山にはよくない気が漂っている。それを祓うだけならこちらからパイプを通じて魔法を放てば良いだけだけど、それじゃあまた呼び起こされてしまう。だから今回はシンに神の力を使って、その邪念を鎮めてもらおうと思っていたのだ。
『ちょっとまて! そんなこと聞いていないぞ』
『つべこべ言わずに、さっさと終わらせない、愚弟』
『……ええい! 元希、後で貴様の魔力を思いっきり喰ってやる!』
まぁ、それくらい報酬として考えれば良いんだけど、何かやけくそな感じがしたのは気のせいなんだろうか……多分気のせいじゃないんだろうな……
「涼子さん、敵魔法師の姿を式神が捉えました。僕が見た限りでは、日本支部の魔法師じゃなさそうですよ」
「本当ですか? その姿を捉えた式神をこちらに戻せますか? 式に記録された情報を、日本支部に所属している魔法師一覧データと照会します」
「教頭が個人的に雇った可能性が高いんですから、日本支部は関係ないと思いますけどね……」
前に健吾君が聞いた「先生」という人と関係してるのだろうから、日本支部というよりは代議士との繋がりが疑われるんじゃないだろうか……
「まぁ、式神に気づけないような魔法師が、日本支部に入れるとも思いませんが、念のためですよ」
「分かりました。場所はここで良いんですか?」
「姉さんの方にお願いします。事情はこちらから伝えておきますので」
「分かりました」
涼子さんの指示通りに、僕は敵魔法師の姿を捉えた式神を山から学園の理事長室に飛ばした。これで敵の尻尾を掴めれば良いんだけどな……万が一教頭が黒幕だとして、こんな簡単に繋がりを見つけられるようなヘマはするのだろうか? もししてたら、教頭に指導されている人たちが可愛そうだよ……
敵がしょぼいんではなく、元希君たちがすごいんです