山を荒らしている魔法師については、リーナさんが調べてくれるとの事だったので、僕はとりあえず拠点に戻ることにした。今日は練習とかする気分じゃなくなっちゃったし、恵理さんも涼子さんも僕ほどではないにしてもショックを受けているようだった。
「はぁ……これで、全属性魔法師は創られた存在だって可能性が大きくなってきたんだよね……」
もしそのことが事実で、日本支部の魔法師の人たちがその事実を知っているとすれば、恵理さんや涼子さんに対する態度にも、なんとなく納得がいく。納得できないが気持ちは分かるかもしれない。
自分と違うものを恐れるというのは、昔からの人間の特徴であるし、ましてや魔法師として普通の人と区別されている側の人間だ。全属性魔法師を自分たちとは別の魔法師と位置づけて、畏怖の象徴としてもおかしくは無いのだろうな……
『元希、あまり気にしてはいけませんよ』
「分かってるけどね……ただ、覚悟していたとはいえショックが大きかったんだよ」
リーナさんが調べに行く前から、その可能性が大きい事は知っていた。本格的な調査に乗り出す前の下調べで、その事は可能性としてあることをリーナさんが教えてくれていたから。だが、例え可能性は低くても、僕は普通に生まれた魔法師だと思いたかったのだ。
「元希さん? どうかしたんですか?」
「あっ、バエルさん……いえ、何でもないですよ」
いつの間にか拠点に到着していたらしく、僕は無意識に自分が生活しているテントに入ろうとしていた。こんな時でも、疲れたから寝たいと思うんだな……ちょっと可笑しいよ。
「そんな顔して、何でもないわけないですよね? 普通科の人に何か言われたのですか?」
「ううん、何も言われてないですよ。本当に、何でもないですから」
嘘を吐くのが辛い……もしかしたら受け入れてくれないかもという恐怖が、僕に真実を告げる覚悟を鈍らせる。バエルさんはもちろん、炎さんたちがそんな人ではないと分かっているのに、どうしてもその可能性を頭の中から追い出すことが僕には出来なかったのだ。
「出自の事ですか?」
「っ!?」
「やっぱりそうですか……先ほどスミス先生をお見かけしたので、もしかしたらと思ったんですが、図星だったようですね」
「リーナさん、こっちに来てたんですね……」
そのまま調査に出かけるかと思ってたけど、今日は休むんだ。まぁ、リーナさんもあまり公に動ける人じゃないし、今日明日で調べられるとはさすがに思ってないんだけどね……でも、まさか見られてたなんて。
「元希さんが言いたくないなら、無理には聞きません。ですが、前にも言ったかもしれませんが、私たちは元希さんたちを差別したり、区別したりは絶対にしません」
「バエルさん……ありがとうございます。今日はちょっと無理ですけど、明日には必ずみんなに言う決心をつけます」
本当は言いたくない。でも、秘密を抱えたまま今まで通りに付き合っていく自信が、僕にはない。だから今日だけは一人で抱え込んで、明日みんなに言えればそれでいいのではないかと考えることが出来た。僕はバエルさんに頭を下げ、そのままテントの中に入って横になった。バエルさんも空気を察したのか、今日はそのまま帰ってこなかった。
次回、元希君の告白