その少年全属性魔法師につき   作:猫林13世

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何だかんだで二十話目です


日本支部との確執

 対抗戦は中止になってとりあえず現実世界へと復帰した僕たちを待っていたのは、沢山の大人たちだった。

 

「えっと……どちら様ですか?」

 

「この人たちはね元希君、その水竜を逃がした挙句に架空世界に逃げられたとっても有能な日本支部の討伐隊の皆さんよ」

 

 

 恵理さんの棘のある紹介に、日本支部の討伐隊の方々は顔を顰めた。何か確執があるのかな?

 

「それで、この子は如何するんですか?」

 

「もう元希君の使い魔って事になってるからこの人たちは何も出来ないわよ」

 

「そうなんですか?」

 

「ええそうよ。何十人で挑んであっさり逃げられた有能な日本支部の方々には元希君の使い魔になった水竜に手出しする事は出来ないの」

 

 

 ……なんで涼子さんまで苛立ってるんだろう?

 

「さぁ、さっさとお帰りくださいやがりませ」

 

「そして二度と私たちの前に面を見せないでちょうだい、反吐が出るわ」

 

 

 恵理さんと涼子さんに追い返されるように日本支部の方々は体育館から出て行った。なんだか何時もと雰囲気が違う……ちょっと怖い……なんて思ってたら急に二人に抱きつかれた。

 

「「元希君!」」

 

「ふみゃ!?」

 

「元希君のおかげであの無能共に介入されることなく済んだわ!」

 

「さすが元希君ですね。キスしてあげましょう!」

 

 

 ちょっと涼子さん……他の人も見てるんですからそういう発言は止めてくださいよ……ほら、男の子たちが怖い顔して僕を見てる……

 

「ところで恵理さん、涼子さん、日本支部の方々と何かあったんですか?」

 

 

 僕が質問すると、体育館の空気が変わった。あれ? 僕変な事聞いたかな……

 

「元希、それは聞いちゃ駄目だよ!」

 

「そうですわ! その事はお二人の前では禁句……」

 

「岩崎さん、氷上さん、ちょっと黙っててくれるかな? 先生たちは今大事な話をするから」

 

「いう事聞けるわよね? 聞けない子は今すぐ退学にしてあげるわ」

 

 

 ヒエェ……僕は何を聞いてしまったんだろう……

 

「グ、グルル……」

 

 

 この子も脅えるくらい、今の恵理さんと涼子さんの雰囲気は怖い……正直僕も怖くてお漏らししそうなくらいだけども、何とか堪えてるのだ。

 

「さぁ元希君、説明してあげるからお家に帰りましょ」

 

「対抗戦の残り一試合は明日に延期。今日はもう帰って構いません」

 

 

 恵理さんと涼子さんに睨まれた同級生全員は、大人しく体育館から出て行く。そして炎さん、水奈さん、美土さん、御影さん、秋穂さんも出て行ったんだけど、出て行く前に僕に同情の視線を向けていたのは何でなんだろう……

 

「さて元希君、お風呂で話を聞くのと此処で聞くの、どっちが良いかしら?」

 

「……此処で聞きます」

 

「じゃあお風呂でね」

 

「あうぅ……」

 

 

 何て天邪鬼なんだろう……でもきっとお風呂って答えてもお風呂でだったんだろうな……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早蕨荘に帰って来てすぐ、僕は水竜を庭に放した。この子にはあの恐怖は味わって欲しくなかったからなんだけど、水竜は僕にくっついてきた。

 

「君もお風呂に入りたいの?」

 

「グァ!」

 

「その子に名前をつけてあげないとね」

 

「元希君の使い魔なんですから、姉さんが考えても駄目ですからね」

 

「名前……? ところでお二人は何で僕の部屋に?」

 

「それはもちろん、元希君を連行するためよ」

 

 

 左右の腕を掴まれ、僕は宙に浮くかたちでお風呂場に連れて行かれる……水竜はその下とテトテトと歩いてついて来ている……ご主人様のピンチに気付いてるようだけど、今の姿では助けられない、そんな顔をしてる。

 

「それで元希君、この子の名前は?」

 

「水竜だから(すい)で如何?」

 

「グァ!」

 

 

 何となく気にいってくれたようなので、この子の名前は水に決まった。

 

「それでさっき聞いたんですけど、お二人と日本支部の討伐隊の方々との関係は……何かすっごく棘があったように感じたんですけど」

 

「アイツらはね、私たちを化け物扱いしてどこか遠くに行かせようとした日本支部長直轄の無能集団なのよ」

 

「今の副校長もその派閥なの。だから私たちを追い出す為にこの『早蕨荘』を壊したいのよ」

 

「そうなんですか……あれ? 恵理さんと涼子さんを化け物扱いって、もしかして二人が全属性魔法師だからですか?」

 

「そうよ。だからあいつらは元希君の事も化け物って呼んでたわ」

 

 

 そ、そうなんだ……知らない間に僕は化け物呼ばわりされてたんだ……

 

「グァ! グルル」

 

「ん? 如何したの、水」

 

「元希君の事を慰めてるんじゃない? だってこの子の足の怪我、治してあげたんでしょ?」

 

「はい。だって痛そうに暴れてたので……僕の魔法は水にはあまり効いてませんでしたし」

 

 

 手加減して時間を稼ぐ事だけを考えてたからなんだけど、やっぱり本物のSランクモンスターのドラゴンに僕の魔法はまだ通じないんだろうな。

 

「本当はこの子、すっごく知能が高い守り神とされてた水竜の子供なんだけど、どうやらその守り神を討伐したみたいね」

 

「えっ、でも守り神なんですよね? 討伐隊が倒すのは人に仇なす魔物なんじゃ……」

 

「どうせ力の誇示をしたかったんでしょうよ。あのクソ親父が考えそうな事よ」

 

 

 日本史部長って男の人なんだ……それにしても、守り神として崇められていたのに、いきなり討伐されたんじゃその水竜もビックリしただろうな……可哀想だな……

 

「だから元希君、この子を守ってあげて。守り神だった水竜は私と涼子ちゃんの知り合いだったのよ」

 

「まだ学生だった頃、私も姉さんもあの守り神にはお世話になったんですよ」

 

「そうなんですか……君の親は凄いんだね、水」

 

「グァ!」

 

 

 水の頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに目を細めた。そうか……討伐隊って言っても必ずしも正義って訳じゃ無いんだね……僕は人に被害を与える魔物だけを倒す魔法師になりたいな……もちろん人間が悪くて仕方なく襲う魔物は倒したくないけど……

 

「さてと、それじゃあこのつまらない話は終わりにして、元希君の身体を洗いましょう!」

 

「今日こそは私が前を洗う」

 

「うえぇ! 何時も言ってますけど、自分で洗えますよぅ……」

 

 

 シリアスな空気が一瞬で何時もの空気に変わってしまった。恵理さんも涼子さんも笑っててくれたほうが僕も嬉しいですけども、この展開だけはホント何とかならないのかなぁ……




意外と続いてるなと、自分の事ながら感心してます。

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