恵理さんにおぶられながら山から逃げるように立ち去ると、さっきまで立ち込めていた気配が一気にあふれ出てくるのを感じた。
「敵は五人ね。この前捉えた気配の持ち主もいるわね」
「あのレベルの結界を作るとなると、三日はかかるでしょうから、元希君の魔力が戻り次第全員で仕掛けましょう」
「恵理の応急処置のお陰で、一日休めば十分って感じかしらね」
何処となく面白くなさそうな声でリーナさんが言ったように、僕の魔力は理恵さんの魔力を取り込んだおかげで少し休めば回復出来る具合に戻っている。
「元希君が結界を一人で壊してくれたおかげで、私たちは殆ど魔力を使わなかったものね」
「姉さんは抜け駆けしたから、少しは消費したのではないですか?」
「あれくらいはすぐに回復するわよ。それに、元希君とキスしたおかげで、全身に力がみなぎっている気分よ」
「そうなんですか? 僕はまだ疲れが抜けませんけど……」
だから恵理さんにおぶられているのだが、情けないとか思えないほどの疲労感が残っているのだ。
「見張りの式神を放ってあるから、焦る必要は無いけど、元希君が回復し次第動いた方が良いのには変わらないかしらね。それとも、元希君は私たちに指示を出すだけで休んでる方が良いかしら?」
「いえ、僕も前に出ますよ。それに、僕は後ろで指示を出すような身分じゃないですし」
前線で指示を出す分には気にならないけど、後ろに下がって指示を出しているのは、どうも偉そうに感じてしまうのだ。
「そう言うのは私の方が向いているかもね。恵理や涼子に指示を出すのは快感だし」
「リーナの指示は、下手をすれば大怪我を負う可能性があるから、生徒たちには出しちゃ駄目よ」
「そもそも、リーナには奴らが逃げられないように、退路を塞いでもらうつもりなのですが」
「あらあら、涼子にしては性格の悪い事を考えるのね」
「せっかくあのメタボハゲオヤジの尻尾を掴めるのだから、それくらいはしなければ」
……なんとなく涼子さんが怒ってるような気がするけど、言っている事は正しいと僕も思う。度々嫌がらせをしてくる教頭の尻尾を掴めれば、こちらが攻勢に出る事だって出来ると思うしね。
「そんなことしなくても、アイツら全員を動けなくすればいいだけでしょ。五体満足で解放してあげる道理なんてないんだから」
「それではこちらが悪者みたいじゃないですか。あくまでも、こちらは被害者でいなければいけないんですよ」
「証拠なんてでっち上げれば問題ない訳でしょ? そもそも、近隣住民に迷惑を掛けている時点で、正義は私たちにあると思うんだけど」
三人とも、僕がいることを忘れているんじゃないかと思うくらいの会話をしているよぅ……僕には優しい三人だけど、日本支部の人や教頭に対してはこんな感じなんだよね……僕もその人たちは気に入らないけども、こんなことを考えられるほど憎んではいないのだ。
「あら? 元希君、震えてるの?」
「えっ? あっ、いや……」
小刻みに震えていたようで、恵理さんが小首を傾げながら僕を見てきた。僕に向けられているわけじゃないって分かってるんだけど、あの怒りの感情は恐ろしいものだよなぁ……
敵に回すと最強に(最恐に?)ヤバい相手です……