いろいろと問題があったけども、とりあえず対抗戦最終試合は今日行われるらしい。僕は早めに起きて庭に出た。
「そういえば君って何を食べるの? やっぱり水?」
「グァ!」
「やっぱり何言ってるのか分からないよ……」
守り神として崇められていた水の親竜は話す事も出来たらしいけども、この子はまだ小さいので言語を操る事が出来ないらしい。
「とりあえず水を出してみるか」
魔法を使って水を出す。すると水が喜んだようにその水の中に飛び込む。やっぱり水竜だから水が好きなんだな。
「元希君、そんなところで何してるの?」
「涼子さん。水にご飯をと思って」
「それで今水の魔法を使ったのね」
さすが涼子さん、随分と離れていても何の魔法を使ったか分かるんだな。
「この子も成長すれば言語を操れるんですよね?」
「多分ね。この子の親は私たちと会話してたし、それに危険が迫ってきた時はちゃんと教えてくれてた。決して討伐される魔物では無かったのに」
「何で日本支部はこの子の親を討伐したんでしょうね」
恵理さんと涼子さんは日本支部とは確執があるので情報は手に入れられない。情報を手に入れる方法があるとするならば、魔法の大家の四人に情報をもらう事が出来るかもしれないけども、あの四人が知ってる可能性は高く無い。
「多分私たちとこの子の親が親しかったからよ。見せしめのつもりなんでしょうね」
「そんな……」
何でそこまでして恵理さんと涼子さんに悲しい思いをさせるんだろう……許せないよ。
「涼子さん、僕絶対この子を成長させて理由を聞きます。そしてもし涼子さんが言ったような理由だったら……日本支部を潰す」
「元希君……とりあえず朝ごはんにしようか」
「? そうですね」
今一瞬の記憶が途切れたような……気のせいだよね?
仕切りなおしの対抗戦最終対決、僕たちは再び仮想世界にやって来た。
「昨日はビックリしたよね」
「討伐理由も、逃がした状況も全然分かりませんしね」
「ウチも調べましたがさっぱりでした」
「ボクのウチも調べたけど、重大機密だって言われたって」
やっぱり魔法の大家でも調べる事は出来ないんだ……それだけ秘密にしたいって事は、恵理さんや涼子さんが言っていたように見せしめなのだろうか?
「元希、今日はやけに雰囲気が怖いけど?」
「そうかな? 僕は普段通りのつもりなんだけど」
「いえ。昨日より明らかに怒ってます。何があったんですか?」
「何かあった訳じゃないんだけども……憶測でいいなら聞いてくれる?」
僕の前置きが気になったのか、四人は静かに頷いた。試合前だけど簡単になら説明出来るよね。
「何それ……つまり討伐理由は嫌がらせってこと?」
「確証は無いよ。それに真実だとも決まって無い。だけど恵理さんと涼子さんはそうじゃないかって言ってた」
「それで元希様、その水竜の子供は何処に?」
「今はモニター室に居るよ。恵理さんが見張っててくれてる」
「なら大丈夫だね。元希さんも安心して対抗戦に挑めるわね~」
「だから抱きつくの止めてよ~」
「うん。普段の元希君に戻った」
御影さんが僕の雰囲気を感じ取って安心したように抱きついて来た。
『もう始まってるわよ~』
呆れた恵理さんからのアナウンスで、僕たちは対抗戦が始まってた事に気がつく。今回は合図が無かった訳では無く気付かなかったみたいだ。
「試合中にいちゃつくなんて、羨ましいわよ!」
「秋穂! クラスメイトのスキンシップだよ!」
「「岩よ、鋭く尖り、敵を突き刺せ『ストーンエッジ』」」
炎さんと秋穂さんが同じ魔法を発動させ戦いの火蓋が切って落とされた。
「氷よ、全てのものを凍らせよ『コキュートス』」
「ちょ! それ禁忌魔法!?」
水の様子が気になるので僕は手加減無しの魔法を繰り出す。氷の禁忌魔法『コキュートス』この魔法は実世界で使うのは禁じられているSランク魔法だ。だけど架空世界だし使っても死にはしないので気にせず発動させる事が出来る。
「やるじゃない、元希君!」
「防いだんだ……じゃあ!」
秋穂さん以外のA組の人たちは凍ってしまったけど、クラス委員が秋穂さんだから秋穂さんを倒さないと終わらないんだよね。
「氷炎よ、相反する力を持って敵を薙ぎ払え『インフェルノ』! 風よ、全てを吹き飛す力を『ハリケーン』!」
「禁忌魔法を連続で!? 元希君どれだけ本気なのよ!」
「だってあの子の様子が気になるんだもん! 闇よ、相手の動きを封じよ『影縫い』」
「う、動け無い……」
魔法で防ごうとしていた秋穂さんの動きを御影さんの得意魔法で封じる。これで対抗戦も終わりだよね。
『はーい。勝者S組』
「終わったね……」
「元希、やっぱ凄いね」
「禁忌魔法を連発で放てるなんて、どれだけ凄いんですの」
「頑張ったご褒美におっぱいを見せてあげよう」
「美土、こんな所で脱がないの」
あ、あれ? なんだか身体中の力が抜けていく……やっぱり禁忌魔法を連発で放つのは疲れるんだ……
次に目を覚ましたのは、体育館のモニター室のソファーだった。どうやら現実世界に復帰して誰かに運ばれたんだろうな……
「やっぱり君は強いね、元希君。全属性魔法師ってのは知ってたけど、まさかあそこまで実力差があるなんて思って無かったよ」
「秋穂さん……架空世界とはいえやり過ぎました。ゴメンなさい」
「駄目、許さない」
「あうぅ……」
そうだよね。あれだけやっておいて謝るくらいで許してもらえないよね……
「罰として元希君から私にキスして」
「うえぇ!?」
「それが出来ないなら許さないんだから」
「あうぅ……分かったよぅ……」
僕からキスするのって初めてのような気がするよぅ……でも、これをしなければ許してもらえないし、これくらいで許してもらえるなら良いのかな……
意を決して秋穂さんの唇に近付くと、周りからもの凄い殺気を感じた。
「え、何?」
「残念、もう少しだったんだけどな~」
「秋穂、抜け駆けは許さない!」
「元希さんからのファーストキスは私のものですわ!」
「あらあら、わたしのものなのに」
「違う、ボクのだ」
もしかして僕、弄ばれた? どうやら秋穂さんは怒ってなかったようで、僕からキスをしてほしかっただけらしいのだ。怒ってなくて良かったけど、本気で怒られてると思っちゃったよ。
元希君の裏的人格を考え中……