不審者を学園に転移させた結果、僕は再び自分の足で歩くことが出来なくなるほどの疲労感に見舞われた。今回も僕を運ぶ人を決めるじゃんけんが行われ、その結果美土さんが僕を拠点まで背負ってくれることになった。
「元希さんを背負うのは、これが初めてかもしれませんね」
「そうですね。何時も恵理さんか涼子さん、バエルさんの三人の誰かが運んでくれてましたからね」
身長的な問題もあり、炎さんや御影さんに背負ってもらうわけにもいかないし、そうなると早蕨姉妹のどちらかかバエルさんの三人の誰かに背負ってもらう方が、他のみんなも楽だろうという事だったのだが、今回は炎さんや御影さんもじゃんけんに加わってたような気もするんだよね……そんなに僕を背負いたいのかな?
「美土、今回は随分と気合い入ってたよね」
「鬼気迫るものを感じましたわ」
「何時もバエルや先生たちに負けてたから、今日こそはって思ってたんじゃないのかな」
炎さん、水奈さん、御影さんも今日の美土さんの気合いには気圧されていたらしく、今も美土さんを眺めながらちょっと距離を取っている。
「それじゃあ元希君は風神さんに任せて、私たちは先に戻って晩御飯の準備をしておきましょうか」
「一人くらい護衛をつけた方が良いと思いますけど」
「そう? じゃあ岩崎さん、お願いね」
「よし来た! 任せてください」
何故かやる気満々な炎さんを残して、他のみんなは先に拠点へと向かってしまう。僕を背負ってる分、当然美土さんの足取りは遅いものになるし、僕は水に報告しなければならないから、その分遠回りをしなければならないのだ。炎さんは何で喜んで回り道をしなければいけない護衛を引き受けたんだろう……
「よし、さっさと水に報告して報酬を貰おうぜ」
「報酬? そんなもの無いと思うけど」
「何言ってるんだよ。農家の人たちが丹精込めたお米や野菜が報酬だって、水が言ってただろ」
「そうなの?」
少なくとも僕はそんな話を聞いた覚えが無い。でも、炎さんが自信満々に言うからには、僕以外に言ってたのかもしれないな……
「わたしもそう聞いています。討伐が終わったら報告がてら報酬を取りに来てほしいと」
「そうなんだ……」
僕以外には言っていると言う事は、前に僕が拠点と村を行き来してた時にそんな話が出たのだろう。じゃなきゃ僕にも言ってるはずだし……
「今日は無理でも、明日には美味いものが食えるんだ。やる気にもなるってんだ」
「何時もだって美味しいものをいただいてるんですから、その言い方はよくないと思いますよ」
「そうか? じゃあ、より美味いものが食えるんだから、やる気にもなるってんだ」
随分と即物的な考え方だけど、実に分かりやすい理由でもあった。炎さんは料理自体には興味は無いみたいだけど、より美味しいものが手に入るとなると、一番やる気を出す人だもんね。てか、侵入者を全員撃退した今、護衛なんて必要ないんだから、そこで報酬があるって気づけよな、僕……もしかして、報酬の件は、僕以外の全員が知っていた事なのだろうか……それだったら、誰か教えてくれても良かったじゃないか……何で黙ってたんだろう。
何故か背負う事がご褒美になってるような……